近年、子供たちを襲う人間関係のトラブルの原因は「SNS」がほとんどだと言われています。SNSに依存し、ある意味「距離が近くなりすぎた」子供たちに何が起こっているのでしょうか。今回の無料メルマガ『いじめから子供を守ろう!ネットワーク』では、スクールソーシャルワーカーの村崎京子さんがその現実を解説するとともに、親として何をすべきか、そして何を教えていくべきかを記しています。

子どもたちが、人間関係において適度な距離感を保つためには

「子供も人間関係で悩んでる。親ができる思春期の子の『心のケア』」では、子どもたちのストレスには、人間関係上のものが多いこと、それをのり越えるため、相手の長所を見るようにしましょう、他人に対する寛容さや包容力につなげる教育が大事だ、ということをお話ししました。

しかしながら、未然に予防教育をしていても、現実的には、ストレスにさいなまれ、視野狭窄になってしまい、もう他のことが考えられない状態になってしまう場合もあります。特に、「5月のGW明けや9月1日には自殺が多い」、「注意しなければ」と教育界では言われています。これは、連休中や夏休み中には人間関係の悩みから解放されますが、結局は先延ばしに過ぎず、休み明けが近づくと苦しくて思い悩んで、衝動的な行動に走ってしまうと考えられます。そうだとしたら、とても悲しいことです。

しばしば、スクールカウンセラーは「逃げていい。避けてもいいんだよ、休みましょう」と声をかけることがあります。緊急避難的にフリースクールや教育支援センター(適応指導教室)に通うこと、それも大事な選択肢のひとつです。いったん他の空間なり他の人間関係の中でリハビリして元気が回復するのを待つことはとても有効だといえましょう。

ただし、今通っている学校から離れてしまうと、なかなか復帰しにくく、不登校が継続しがちです。特に、本人の側に正義や理があって、人間関係に軋轢を生んでしまった子どもには、あとあとまで葛藤を生みやすく、心にダメージを負いやすいという難点があります。

頑張る子、学校に通いたい子、環境を変えたくない子のためにも、できる限り短期間で解決したいものです。その際に、解決法を示してあげることが効果的です。

近年は、子どもたちが煩わされている、人間関係上のトラブルの一番の原因は、SNSの問題です。スマホ使用は、小学生で40%前後、中学生でほぼ60%、高校生でほぼ100%となっています。そのため小中高では講習会や啓発教育が行われています。スマホトラブルや犯罪に巻き込まれないためには大切な教育ですが、子どもたちの肝心の悩みには応えられていません。

よりよい人間関係を築くためには、適度な距離感を保つことが重要です。そのために知っておくべき前提条件は、「パソコンやスマホなど便利な道具で時間が短縮されても、それを利用する人との心の距離感は決して同じように短縮されるものではない」ということです。これを子どもたちに知らせなくてはなりません。つまり、現在は「すぐに返事をくれる子が親友、くれない子はそうでない」、という考え方を持つ子が多いので、このような考え方は、人間関係を考える上で、かえって関係性を狭くする考え方だと教えなくてはなりません。

子どもたちの悩みの中心は「感情的な問題」です。感情のもつれによるストレスです。ひと昔前の世界とは異なり、「すぐに結果が欲しい」、「すぐに伝わったかどうか知りたい」、しかも「自分の思うとおりに伝わったかどうか知りたい」、という欲求に起因するストレスです。それは、「既読スルー」という言葉で表現されるように、「読んだのなら、どうして返事をしてくれないの」というように、相手をしばってしまうこともあります。

「いつの間に私のグループは他のグループに移ってしまい、自分だけ、はば(仲間外れ)にされているの?」「あれだけのことをラインで言ったのに、学校で顔を合わせても何も言わないのはどうして…」というように、本来なら、当然、言葉のキャッチボールで説明しなくてはならないことが、SNSでは「空気が読めない」という一言で済まされてしまうことがままあります。

これでは、子どもは、感情の受け止め方、感情の表し方を学ぶ機会もなく、どうやって考えたらいいかもわからず、結局、感情のコントロールができなくなるのも当然と言えます。

しかも、昔と違い、父母も共働きしていますから、強いストレスを感じたときに、父母も大人も子どものそばにはいないのです。

この感情的なストレスを自分でコントロールできるようになるためには、「相手の心は変わらないものだ。しかし、自分の心は変えられる。相手のことは理解するようにして、自分について反省すべき点は反省し、自分の心構えだけは変えていこう」と決意することです。大事なことは、自分を大切にする気持ちです。

人付き合いの得意な子には、広く浅くサバサバと人間関係を渡っていけるスキルを持っている子もいます。これらの子たちの共通点は、まずは自分を大切にして、深入りせず、適度な距離を取ることを身につけています。

反対に、情が深く、交友関係を大切にする子や、優しい子は、相手の気持ちに配慮しすぎてしまいます。その優しさに乗じて、ベッタリと密着して、くっ付いて離れない子どももいるのです。ひとりの子が他方の子を一方的に援助しなくてはならない関係は、壊れやすく、結果的にお互いが傷つきやすい関係となります。これは、真実の友情ではありません。

良い関係性を保つには、一定の距離感がどうしても必要です。そして、お互いに自立していることが肝要なのです。

真実の友情を築くためには、焦らず、ゆっくりと人間関係を育んでいくことが大切です。自分を十分に知ってもらい、少しずつ時間をかけながら関係を深めていくような方法をとることです。このようなことを折にふれて、子どもたちに教えていく必要があります。

子どもたちには未来があります。より大きな目標を達成するために、孤独に耐えることが必要な時期があるのです。そのことを教師や親は教えなくてはなりません。

「時間に正確な人は信用される」

「規則正しい生活習慣を持つことは、将来の成功につながる」

「それは、世の中の役にたつ人になるためです」

と自信を持って言える子どもにすることです。時間とルールを守れない人とは、一定の距離をとるように導いてあげることが重要になります。さらに、善悪を区別できない人との付き合い方にも配慮が必要です。

時には、「今は、遮断しなくてはならない時期だ」と判断したら、社交的ではないかもしれませんが縁を切ることが大事です。但し、一方的に言いすぎると子どもが納得しません。そこから家庭内トラブルにつながることもありますから、「なぜそうなのか」ということを説明し、納得するまで説得することが大切です。

大切な人間関係のルールは、大人である教師や保護者が教え、サポートしなくてはなりません。とは言っても、なかなか実践することは困難なことでもあります。

その意味では、帰国子女家庭や外国人のほうがハッキリしています。ある外国人の方を紹介します。お子さんは小学6年生、学級崩壊のさなか、そのクラスでは正論が全く通りません。暴力的で悪いグループの影響を受け、普通の子までも荒れて、教員もお手上げ状態でした。

その子がとうとう情緒不安定になってしまったため、保護者は見切りをつけて、学校に通わない宣言をして、学習塾のみに通い、私立中学を受験し、合格しました。その後、私立中学に近い場所に転居することになり、お子さんは卒業式には出席し、親しかった優等生の子ども達には感謝のお手紙を渡していました。

このような親の決断が成功した事例もありますが、いつまでたっても、午前2時までSNSを止めない子どもたちもいます。そのなかには、こだわりの強い性格の子、特定の障がいの子、家庭が不遇で淋しがっている子もいます。ソーシャルスキル教育で対応できる場合もありますが、改善が見られない子どももいます。

悩み続ける子どもは、総じて、家庭的な背景に課題があることが多く、その保護者も悩みに対して、「判断できていない。どうして良いのかわからない」状態になっていることが多いと考えられます。決断できない人が悩み続けるのです。

悩みの渦中にある子供たちは、感情や情緒が不安定になりがちで、相手に依存したり、自分の感情が収まるまで、執拗にメールやラインのメッセージを送ります。夜中もです。眠れないまま、感情が高ぶったまま、朝を迎えてしまいます。これでは、お互いに自滅です。

大切なことは、「今、お友達が悩んでいることは、友人のあなたが解決できますか?」ということを教えてあげることです。特に、家庭内の経済的困窮や父母の不和などの悩みには、寄りそってあげてもいいですが、「あなたでは解決できないこともある」、と伝える勇気も必要です。

「どうしても、見放すことが出来ない」、と考える心根の優しい子には、「大人や信用できる人にこの問題を預けましょう、相談しましょう」、と言ってあげてください。父母の離婚問題、経済的困窮、係争関係、進路問題もあるでしょう。でも、子どもたちには難しすぎます。どうか大人に相談してください。経済的問題の悩みが解決すれば、悩みの8割は消えるとも言われています。

ストレスをのり越えたとき、それは人生の階段をひとつ昇ったのです。のり越えた先には、人生の成功や発展が待っていることを知っていてください。朝の来ない夜はありません。必ずのり越えられます。過ぎ去りしストレスの日々はいつかあなたの心の勲章として輝かしいものとなるでしょう。

スクールソーシャルワーカー 村崎京子

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『いじめから子供を守ろう!ネットワーク』

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出典元:まぐまぐニュース!