連載【福田正博 フォーメーション進化論】

 先日行なわれたキリンカップで、日本代表は、ブルガリアに7−2で快勝したものの、ボスニア・ヘルツェゴビナに1−2で敗れた。両試合を通じて試合後半に失点があり、日本代表が長く抱える"試合終了までの残り15分〜20分間の戦い方"に課題を残した。

 日本代表の目標はW杯でグループリーグを突破し、上位に進出を果たすことだ。過去大会を振り返ると、強豪国に対して勝敗を分けた差は70分以降からの戦い方にあるのは明白だろう。

 2006年のドイツ大会にしろ、2014年のブラジル大会にしろ、試合序盤から飛ばして主導権を握ったものの、終盤の70分以降に息切れを起こして勝ち点を逃してきた。それだけにロシア大会で強豪国に勝利するためには、"試合終了まで残り20分間"にこそカギがある。

 キリンカップはフレンドリーマッチの一環で、代表定着を狙う選手が先発に名を連ねることから、キックオフからチーム全体が飛ばしがちになる。ましてや、ハリルホジッチ体制の基本コンセプトは「縦に速いサッカー」である。

 そのため、試合終盤に息切れを起こすことは想定内であり、一概に70分以降の戦い方にダメ出しをする気はない。ただ、選手交代は6人まで行なえる親善試合のメリットを生かし、9月から始まるW杯アジア最終予選、さらにはその先にあるW杯ロシア大会で戦う世界の強豪国との対戦を見据え、試合終盤を乗り切るための方策を見せてもらいたかったところだ。

 一方で、中心選手がいない状況での戦い方には収穫があった。9月1日から始まるW杯アジア最終予選は長丁場になるため、本田圭佑香川真司を欠く試合が出てくる可能性はある。今回は本田を欠いたブルガリア戦で4-2-3-1のトップ下に香川真司、左MFに清武弘嗣が入り、本田と香川を欠いたボスニア戦ではトップ下を清武がつとめたが、いずれも清武が存在感を発揮したことは大きい。

 なかでも、トップ下で香川のバックアップという位置づけの清武が、左MFとして香川と抜群のコンビネーションを見せたブルガリア戦は日本代表に新たな戦い方をもたらした。

 清武と香川が絶妙な距離感で速いテンポでパス交換しながら組み立てていく攻撃は、これまでの日本代表ではあまり見られなかったもので、香川と清武の共存は攻撃陣のバリエーションになることを証明できた。

 あとは本田が右MFに戻ったときに、香川と清武を含めた3人が共存できるかが今後の課題になる。香川と清武はボールと自分が動きながら速いリズムを作るのに対して、本田の特徴はボールを足元に収めてタメをつくる部分にあり、ふたりのリズムとは異なる。

 それぞれの持ち味を生かして緩急のある攻撃になれば大きな武器になるが、どちらかに偏り過ぎると同時起用の意味がなくなってしまいかねない。これから先、彼らの連携がどう変化するのか注目したい。

 期待という点では若い選手や新たに招集された選手たちも、代表定着に向けてアピールした。なかでも小林祐希は日本代表としての"覚悟"を最も強く見せてくれたといえる。

 小林はボスニア戦の後半29分、左MF宇佐美貴史と交代でピッチに送り出されて代表デビューを果たした。彼はジュビロ磐田でボールに数多く触ることで特徴を発揮しているが、代表のピッチに立っても持ち味を出そうと積極的にボールに寄っていった。

 中央に寄り過ぎて味方から左サイドに戻るように指示されるシーンもあったが、彼のチャレンジする姿勢は評価できる。なぜなら、小林は何を評価されて代表に呼ばれたかを理解し、代表定着のために臆することなくプレーして、自分の特徴を他のメンバーに知らしめようとしたからだ。

 骨格ができあがっているチームに新たに入っていき、自分らしさを発揮するには、味方に自分のスタイルを理解してもらう必要がある。これは小林の目線が代表の端っこではなく、代表のド真ん中、つまりレギュラー入りを見据えていたからこそできたことだ。プレーの質もレベルもまだまだ高めていく必要はあるが、小林が日本代表として戦う覚悟を持ち続けている限り、そのハードルを越えていけるはずだ。

 逆に浅野拓磨には、日本代表としての覚悟という点において、もっと成長してもらわなければいけない。ボスニア戦後半アディショナルタイムに、浅野はGKと1対1の局面を迎え、誰もがシュートと思った矢先、中央にいた金崎夢生へのパスを選択。パスはDFにクリアされて同点機を逸し、試合後、浅野は肩にタオルをかけたまま泣いた。

 高校サッカーや高校野球のような学生アマチュアスポーツなら、自分のワンプレーが勝敗を分けたことで泣くのはいい。だが、浅野の立場は違う。プロのサッカー選手であり、日本のサッカー選手全員の代表という立場だ。結果がすべてのプロフェッショナルの世界で生きていることを忘れてはいけない。

 悔しさから涙がこみ上げたことは十分理解できる。しかし、日本代表という場所では、活躍をすれば注目は集まって賞賛されるが、失敗すれば強烈な批判を浴びる。今回は親善試合だったこともあって批判は大きくなかったが、これがW杯出場の決まる試合だったらどうか。

 言葉にするのは簡単だが、覚悟というものはひとつひとつのプレーに表れる。覚悟をもってパスを選択したのなら、胸を張って、次は必ずゴールを決めるとメディアに向かって毅然と発言をすればいい。

 厳しいことを言うのは、私自身も浅野に大きな期待を寄せているからだ。彼の才能が大きく花開くことを望んでいるだけに、今まで以上の覚悟をもってプレーしてもらいたい。

 最後にひとつ。キリンカップの重要性は理解しているが、同時期に韓国代表は国外でスペイン代表、チェコ代表と強化試合を行なっていた。9月からホーム&アウェーで行なわれるW杯最終予選を見据えれば、日本代表も国外での強化試合を検討してもよかったのではないか。

 ユーロ2016に出場できなかったブルガリア代表やボスニア・ヘルツェゴビナ代表と日本国内で試合をすることと、国外でユーロ2016出場国のユーロ大会前の調整相手として対戦すること。そのどちらが日本代表にとって実り多い経験が積めるかは火を見るより明らかだ。また、欧州でプレーしている日本代表選手が増えたことも考慮に入れるべきだろう。

 サッカー界のスケジュール的に厳しいことは承知しているが、それでも日本サッカー協会には海外での強化試合を組むための方策を模索してもらいたい。

福田正博●解説 analysis by Fukuda Masahiro