地政学から見えてくる「日本の置かれた状況」とは

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 昨年(2014年)12月下旬、尖閣諸島まで300キロの島に中国が航空基地を整備中とのニュースが流れた。中国が尖閣諸島の実効支配に向けて再活動を始めているようである。

 台湾や東南アジア、インドなど世界に愛されている日本だが、こと周辺においては中国・韓国両国を筆頭に北朝鮮など、日本を敵視する敵だらけだ。我が国固有の領土である北方領土もロシアの実効支配を許しており、ロシアとの間も決して友好とはいえない。

 そんな我が国は、アメリカとの同盟により今日の経済的発展を確立してきた。アメリカに守られてきたお蔭で、戦後の数十年、我が国は軍事力を二の次として経済発展に力を注いでくることができた、という現実がある。

 ではなぜ、アメリカは戦後70年も日本を守ってきたのか。一言でいえば、アメリカの「国益に叶う」からである。

東アジアを牽制するための「アメリカの拠点」

 日本を中心とした東アジア周辺の地図を真逆にしてみると、日本が置かれた状況が見えてくる。我が国は、ロシアや中国が太平洋に出るのを完全に邪魔する、そんな地政学的構造をもっている(画像参照)。



 ロシアが太平洋に出るには、オホーツク海やベーリング海を抜けねばならない。ロシアが北方領土に固執する理由の一つもここにあるが、そのロシアを太平洋に出させないためにも、アメリカにとって日本は絶対に必要だ。

 つまり、アメリカの国益のために日本を守ってきたわけで、決して“善意”からではない。

 青森県の三沢に米軍基地を置いたのも、ロシアに睨みをきかせるためである。戦後70年以上、日本を守ることで東アジアに睨みをきかせてきたからこそ、アメリカはロシアを牽制できた。

 そうした東西の冷戦が終わって20年。中国の軍事的台頭により、南西諸島の意味合いが大きく変わってきた。中国がアメリカを脅かすには、南西諸島を抜けて太平洋に進出する必要がある。そのルートも日本の領土だ。沖縄に米軍基地が置かれているのも、東アジアで有事があった際、すぐに行動を起こせる拠点だからである。

尖閣諸島を絶対に死守せねばならぬ理由

 九州から台湾までの距離は約1000キロ強。東京から鹿児島までの直線距離と同じだ。この間に種子島、屋久島、徳之島、奄美大島、沖永良部島、沖縄本島、久米島、宮古島、石垣島、西表島、与那国島などが連なっている。これらの島に基地やセンサーを置けるため、たとえば他国の潜水艦が東シナ海を抜けようとしても海上自衛隊は完璧に抑えられる。

 さらに200海里の経済水域があるため、日本の海洋面積は国土面積の11.7倍にもなる。国土面積は世界第60位だが、海洋面積は世界6位に跳ね上がる。これは大変な権益であり、国連海洋法条約は日本にとって非常に有利にできている。

 現在の地球上には、世界中の人々全員が豊かに暮らせるほどの富と資源は準備されていない。国際社会は富と資源のぶんどり合戦が常時行われている。

 戦後の中国は尖閣諸島など見向きもしていなかったが、周辺海域に貴重なガス田が存在するとわかるや否や、それまで日本領だと認めていたにもかかわらず、途端に領有権を主張しはじめた。1970年以前に中国が作った地図に尖閣諸島は日本領と書いてあるが、その地図を書き換えたばかりか、沖縄ですら「帰属が未定だ」と言いだす始末。

 ガス田のほか、漁業権益など重要な資源の源である尖閣諸島は我が国固有の領土であり、何が何でも死守せねばならない。

今こそ「自分の国を自分で守る」方策を

 四方を海に囲まれている我が国は他国と陸続きではないため、他国は決して日本に歩いて渡れない。船で人間と兵器、食料、作戦資材を運ばねばならず、相当に大きな輸送能力を必要とする。輸送能力があっても、まずは空の戦いで勝って制空権を奪い、次に海の戦いで制海権を取らなければ陸軍部隊を輸送できない。

 仮に陸軍が侵攻してきても、我が国は海岸線でこれを阻止することができる。そのための有効な兵器が「対人地雷」や「クラスター爆弾」である。

 対人地雷は、あらかじめ埋めておけば敵の上陸部隊は上陸に手こずることになる。クラスター爆弾は、1個の爆弾から200発ほどの小爆弾が200メートル四方に広がる。通常爆弾の10倍以上もの広範囲で効力があり、“点”ではなく“面”で狙い撃ちできる。

 仮に制空権と制海権を奪われても、対人地雷やクラスター爆弾があれば上陸を阻止できる可能性があるが、対人地雷は小渕総理の時に、クラスター爆弾は福田康夫総理の時に、自衛隊の反対を押し切り廃止条約に調印。日本は、自ら「抑止力」を小さくしてしまった。

 これにより、代わりの国益を手にできただろうか?

「国家の自立」とは「軍の自立」を意味する。戦後70年、アメリカに守られてきた日本だが、世界におけるアメリカの影響力に陰りが生じてきた以上、我が国は自分の国を自分で守る道を考えねばならない。

著者プロフィール
田母神俊雄

軍事評論家、政治活動家

田母神俊雄

1948年福島県生まれ。防衛大学卒業後、航空自衛隊に入隊。統合幕僚学校長・航空総隊司令官を経て航空自衛隊(約5万人)のトップである航空幕僚長に就任。2008年「日本は侵略国家であったのか」と題する論文を発表、政府見解と異なる歴史認識として航空幕僚長の職を解かれる。2014年、東京都知事選出馬、61万票を獲得。同年12月の衆院選では東京12区から出馬した。おもな著書に『田母神塾』(双葉社)、『ナメられっぱなしのニッポン、もっと自信と誇りを持とう!』(実業之日本社)などがある。週刊誌アサヒ芸能にて「田母神政経塾」連載中。

(撮影/内海裕之)