海水でも育つジャガイモが食糧危機を救う革命的な一歩になる可能性
By Tommy Hemmert Olesen
世界の食糧危機の原因の一つは、塩水化により栽培に必要な淡水が不足することだと言われています。これまでの対策では海水などから塩分を除去して農業に適した淡水を作り出す方法が採られていましたが、オランダで開発された海水でも育つジャガイモが将来の農作物の生産に革命的な変化を起こすことになるかもしれません。
Humble spud poised to launch a world food revolution | Science | The Observer
ジャガイモが試験的に栽培されているのは、オランダ北部に位置するテセル(Texel)と呼ばれる地域。四方を海に囲まれるために常に塩の影響を受ける地域ですが、59歳のマルク・ファン・レイセルベルヘ氏が中心になって進めてきた開発により普通ならば作物の育たない環境でジャガイモが栽培されています。
ファン・レイセルベルヘ氏は淡水が不足している現在の状況について「世界の水のうち89%は塩水で、農地の50%は塩水化の危機にさらされています。そして何十万人という人々が塩害を受けた地域に住んでいます。これらを考えると、我々が問題を抱えているということは明白です」と語ります。この問題に対してファン・レイセルベルヘ氏は「これまで、人々は塩水を淡水に変えることに力を注いできましたが、私たちは自然がすでに持っているものに目を向けることにしました」と新しい視点での取り組みを行ったことを語ります。
ファン・レイセルベルヘ氏は技術を開発するための企業「Saltfarm Texel」社を設立し、アムステルダム自由大学の研究チームとタッグを組んで開発に乗り出しました。同大学のアリエン・デ・ヴォス博士は「この技術により、従来は『問題』とされてきた塩水化が、『チャンス』に変わるのです」とその意義を語っています。
Saltfarm | Tested on Texel
http://saltfarmtexel.com/
現在の塩水化対策の主流は塩が含まれた海水を処理して淡水に変えるというもので、水不足に悩むイギリス・ロンドンでは海水淡水化プラントが開設されているほか、サウジアラビアでは飲み水の70%を淡水化された海水で賄っています。しかし、水に溶けこんだ海水成分を除去するには非常にコストがかかり、同時に大量のエネルギーを消費するもの。そのため、発展途上国の多くでは設備を導入するだけの体力がないのが実情といえます。
パキスタンも塩害に苦しむ地域の一つですが、そんな状況を変えるべく、ファン・レイセルベルヘ氏が開発したジャガイモの試験栽培が開始されることになっています。もしこの実験が成功し、アジアの気候にも適応できるとわかれば、パキスタンの食糧事情はもちろん、塩害に苦しむ世界の人々の生活を一変させる可能性が大きくなります。
By Elisa
ファン・レイセルベルヘ氏は自身の取り組みについて「トライ&エラーを繰り返してきたもの」と説明。「私たちは決して学者の集団ではなく、変化を起こすことができると信じている変人の集まりです。ごく普通の農家とパートナーになることを望んでいます」と語っています。
ファン・レイセルベルヘ氏は「オランダは国土の3分の1が塩害の危機に直面しています。堤防をつくり、灌漑(かんがい)を行って農地を作ってきました。堤防の向こう側は漁師のもの、こちら側は農家のものと考えてきましたが、これからは両者が力を合わせて新しい食糧生産のあり方を考えていく必要があります」と、食糧政策のアプローチを変えなくてはならないと語っています。
By PKub
なおファン・レイセルベルヘ氏によると、根から吸い上げられた塩分はジャガイモの内部を通過して葉に蓄積されるとのこと。そのため、ジャガイモをたくさん食べたとしても塩分過多に陥ることはほぼないと考えられています。