大筋由里桂さん/現役医学部3年生   東大を目指したきっかけは、家が近かったこと。医学部に進学するには経済的にも国立大学がよかったこと。

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東大生の中でも希少な存在の“東大女子”はどんな女の子たちなの? そもそも東大に入って幸せなの? そんなギモンに答えてもらうべく、現役&卒業生の東大女子に会いに行き、学校生活や恋愛、就職事情を聞いてきました。

前々から不思議に思っていたことがある。それは女の子を持つ親の東大熱の低さだ。名門であることは認めながらも、「そこまで高望みしなくても」という声が多いのである。

そのためだろうか、東大の女子学生の割合は非常に少なく、どの学年も2割以下。たとえば2013年度の東大入学者数は3154人だが、女子学生は594人にすぎない。

東大への熱意が低い理由は、どうやら女子学生に対するイメージにあるらしい。「おしゃれも恋愛もせずに勉強ばかりしていそう」「高学歴が足かせになって、結婚や出産とは縁遠くなりそう」などなど。さらには「東大に行って女性として幸せになれるの?」なんて疑問まで持ち上がる始末だ。果たして、ちまたでの噂は本当なのか? 現役の女子東大生と東大卒のOGを直撃してみることにした。

大学生活は?

「東大女子がおしゃれに無頓着というのは、誤解です。私の周りは、みんなお化粧をして、洋服にも気を使う。ファッション雑誌だって普通に買いますよ」

先陣を切ってこう反論するのは、現役東大女子の大筋由里桂さんだ。彼女は東大でも最難関の医学部3年生。トップエリートが集まる学部であっても、女子学生はおしゃれに余念がないというのである。かく言う大筋さんも昨年のミス東大コンテストに出場しただけあって、容姿はアイドル級。この日はミニのキュロットをかわいく着こなしていた。

それでもまだ疑うなら、次ページの写真をご覧いただきたい。ここに写る女子大生たちは、全員現役の東大生。東大女子=ダサいというのは、もはや迷信だとおわかりいただけるだろう。

「ただし、みんな根はまじめ。飲み会で年金問題などを議論したり、翌日に試験があるとお酒を控えたり」

受験戦争を勝ち抜いただけに負けず嫌いで、落ち込むことがあってもウジウジ悩まないところが、東大女子の傾向だと大筋さんは言う。

「プライドは確かに高いけれど、よい方向に働いている気がします。周囲への気配りを欠かさないなど、完璧な自分であろうとするところがあります」

では、文系学部はどうか。文科二類(主に経済学部に進学)2年生、鈴木智子(さとこ)さんに聞いてみると、やはりおしゃれは当たり前。性格も前向きな女性がほとんどだという。

「たくましくて何事にも積極的なタイプと、のほほんとした箱入りタイプに二分できると思います。箱入りタイプはマクドナルドで食べたことがないなどというお嬢さまタイプです」

そんな東大女子が日々を過ごすのは男だらけのキャンパスだ。少数派の女子は、さぞや肩身の狭い思いをしているのでは、と思ったら、これが逆。人数が少ない分、男子は女子に気を使ってくれるという。

「みんなは優しくて、頭がいいから、勉強面でわからないことがあれば、親切に教えてくれます」(大筋さん)

「クラスの中では、むしろ女子の発言力が強い。何かを決めるときも、意見を聞いてくれます」(鈴木さん)

女子を尊重するのは、草食男子が増える前からの東大の校風らしく、OGからも同様の意見を聞いた。

「学問に対する見識が深く、人格的にも秀でているのが東大の男子学生。頭のキレる男子学生に囲まれた生活は、よい刺激になりましたね」

と言うのはOGで、起業家の大里真理子さんだ。在学時、大里さんが専業主婦志向を口にすると「税金で勉強しているのだから、将来は社会に還元するのが当然でしょ」と男子に諭された経験もあるそうだ。

大学外に目を移しても、希少な東大女子はなにかと注目の的。「目立ちたい自分にはぴったり」と言う鈴木さんはアルバイト先の家庭教師派遣会社の看板写真に登場。大筋さんはテレビの経済番組でキャスターを務めている。

もちろん、学びの場としてはこれ以上のものはなし。世界に認められる教授陣から指導が受けられるうえに、興味に応じて自由に学ぶことができる。OGでNPOの理事長の石戸奈々子さんは、もともと航空宇宙工学を学ぼうと東大に入学した。

「でも、勉強してみると考えていた世界と違って。そんなとき、興味を持ったのがマサチューセッツ工科大学(MIT)のメディアラボという研究機関。ここに関係する先生が東大にいて、海外研修でMITや研究所の見学ができ、その後の留学につながった。これをしたいと思ったときに、手を差しのべて、先へ先へと導いてくれるのが東大なんです」

こうしたいいことずくめの環境において、唯一、デメリットと言えるのはサークルの選択肢が限られること。東大には多種多様のサークルがあるが、お茶の水、聖心といった女子大との合同サークルが幅を利かせ、東大女子が入れるのはごく一部だ。

「私の時代はテニスサークルで4つぐらいしか入れなくて、『東大生なのに東大のサークルに入れないの!?』って驚きましたね」

と振り返るのは石戸さんだ。結局、東大生だけのテニスサークルに入り、その仲間とは今も親交を温めているそうだから結果オーライではあるものの、なんとも理不尽な伝統だ。もっとも、「応援団のチアリーダーとして全国を飛び回っていた」「演劇サークルの活動に明け暮れていた」など、課外活動を謳歌していた女子もいるからご安心を。

■恋愛、結婚は?

一方、恋愛や結婚についての噂も、親としては気になるところ。大筋さんによれば、恋愛に興味がないというのはデマで、彼氏のいる友達は多いそうだ。

「恋愛も論理的に進めたいのが東大女子の傾向。勉強は努力すれば成果が出るけれど、恋愛は思い通りいかない、と悩んでいる子もいます」

大筋さんの友達の場合、ほとんどが東大生と付き合っているそうだ。理由は明快で、そもそも東大女子は他大学生との出会いの場が少ないのである。男子のように他大学と合同のサークルがあるわけでもなく、大学名が障壁となって他大学から合コンの声がかかることもほとんどない。たとえ他大生との出会いがあっても、大学名で引かれてしまい、恋愛に発展しにくいのもまた事実。

すなわち、恋愛環境は東大生限定。はたから見ると窮屈そうだが、東大女子はあくまでもポジティブだ。

「私は軽いだけの男性はちょっと苦手。社会問題など難しい話もできる男性に惹かれます。東大男子にはそういう人が多いんですよ」

と言うのは大筋さん。大里さんも「東大はすてきな男性がいっぱいいるし、女性には最高の環境だと思いますよ」

と胸を張る。確かに将来を嘱望される東大男子と知り合えるのは、同じキャンパスにいるからこそ。東大女子の特権と言ってもいいだろう。

結婚に関しても、噂とは裏腹に東大女子の多くが「願望あり」。結婚せずに仕事をバリバリしたいという女子学生は少数派だという。東大OGで組織される「さつき会」の幹事も務める大里さんによれば、東大女子が結婚できないということはないと断言する。

「私が学生の頃は東大の女性は3割しか結婚できず、うち半分は離婚するなんて言われましたが、結婚して幸せな家庭を築いている人はたくさんいます」

事実、大里さん自身も良きパートナーに巡り合い、現在、子育て真っ最中。石戸さんも然りだ。2人ともパートナーは東大出身だが、他大学卒の男性と結ばれた人もいる。卒業して社会に出れば、学歴は問題にならないということなのだろう。

■就職、仕事は?

ところで、東大女子は就職先に困らないというイメージがある。念のため聞いてみると、やはり引く手あまた。鈴木さんのサークルの4年生はすでに(4月時点)有名企業への内定者が続出しているそうだ。もちろん、望めば官僚への道も開けるだろうし、研究者として大学に残るなど選択肢は多いのが東大女子の強みだ。

東大出身の女性は働き始めてからもチャンスを与えられやすい、と言うのは採用する側の大里さんだ。

「仕事はチームプレーが大事なので、東大生なら仕事ができるとは思いません。しかし少なくとも東大生には課題をクリアするために努力できる資質がある。ラクをして東大に入った人はいませんから、その点が入社後の期待値として、男女問わず評価されるわけです」

チャンスを生かせるかは本人次第ではあるものの、スタートラインで優位に立てることは間違いない。

さらに、起業する場合にも東大という学歴は有利に働く。大里さん自身、東大出身の女性経営者ということから興味を持たれ、信頼されるケースが多いと実感している。

一方、石戸さんは起業後、学生時代の人脈に助けられているという。

「東大の友人や先輩・後輩はさまざまなフィールドで活躍していて、一緒に仕事をやろうと声をかけてくれたり、公的な手続きが必要な場合には官公庁に勤める先輩が親身に相談に乗ってくれたり。東大の先生方にもお世話になることが多く、私にとっては素晴らしい出会いの場だったと実感しています」

もちろん、結婚後も仕事を続ける女性ばかりでなく、家庭に入り子育てに専念している人もいる。その場合も、自分で選んだ道として自信を持って家事や子育てにいそしんでいる印象がある。東大という場で培われた自信は、この先どんな人生を歩んでも揺らぐことはないのだろう。

そこで結論。東大に入った女性は幸せになれないなんてとんでもない。むしろ、幸せになるためにこそ、頂点を目指して損はなし、だ。

(上島寿子=文 遠藤素子=撮影)