図1 卒業者数、就職者数及び就職率の推移

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子どもには、安心して働ける会社に勤めてもらいたいのが親心。しかし、就活環境は親世代とはまったく異なる別世界。入ってはいけない、ブラック企業の診断ポイントはどこにあるのか?

「就活中の大学生を持つ親は、どうしても、有名な会社、成長している企業に入るのが安心と考えてしまいます。しかし、現在の就職は、親世代とは状況がまったく違います。親が子どもにアドバイスできるとしたら、『働きやすそうな会社を選ぶという視点も持って』です」

と語るのは、法政大学大学院キャリアデザイン学研究科の上西充子教授。

流行語にもなった「ブラック企業」。しかし、今でも「昔も就職は厳しかった」「サービス残業や離職率の高い会社は昔からあった」「今の若者は辛抱が足りない」と若者の自己責任ととらえている親も少なくない。ブラック企業の見分け方の前に、ブラック企業が増えた構造をおさらいしておこう。

現在、就活中の大学生の親の多くは、約30年前、1980年代前半、バブル期前に就職した50代。親世代と比べて大きく違うのは大学生の数である。短大の4年制への転換など、大学の定員拡大が進み、大学進学率が50%を超えたのが2009年。今や30年前よりも大卒は約20万人多いのに、就職者数はそれほど増えていないことがわかる(図1)。長引く不況のため、企業は新卒正社員の採用を抑え、契約社員や派遣社員など非正規雇用を増やす雇用体制にシフトし、大卒正社員採用枠は減った。

12年に発表された経済同友会の「新卒採用問題に対する意見」をみると、11年3月の卒業者は約55万人。就職希望者は45万人で就業者は34万人(超大手2万人、主要大手5万人、公務員8万人、中堅・中小19万人)。1年で既卒未就業者(非正規含む)が11万人も誕生しているのだ。

ちなみに東大など旧帝大、東工大、一橋大、東外大、早慶の卒業生の合計が4.4万人。超上位校だから就職も安心というのは思い込みでしかない。

■早期化、長期化、そして煩雑化する就職戦線

もうひとつ、30年前と大きく異なるのが就活の早期化と内定までの期間の長さだ。就職協定があった当時は10月1日が会社訪問解禁日、11月1日が入社試験解禁日であった(実質は4年のGW〜夏休みが就活の場だったが)。

ところが、97年に協定が廃止されると、採用は前倒しとなった。現在は、大学3年の12月1日(実質は10月)にスタートし、大手企業の内定が出る大きな山が4年生のGW前後。この時点で就職先が決まるのが約3分の1。

選考も30年前よりも煩雑化している。(図2参照)。11年の学生1人当たりの平均エントリー数は91.1社、エントリーシート提出数は23.3社、筆記・ウェブ試験は15.7社だ。

インターネットの普及で比較的簡単にエントリーできるので、1人当たりの応募社数が大幅に増えた。その結果、人気企業は面接前に学生を大幅に絞り込み、さらに学生は大量にエントリーするという悪循環。

こうした試練は1年以上続くが、大学4年の12月になっても、2割は働き先が決まらない。最初に志望していた企業よりも条件が悪くても、正社員として採用してくれればいい、という心境になるのも無理はない。ところが、そんな企業にすら落とされるのだ。

ブラック企業は、このように若者が労働市場に溢れ、代わりがいくらでもいることを背景に増殖している。

■早く昇進しても、その後の展望ゼロ

戦後の日本型経営は、景気も右肩上がり。年功序列・終身雇用で生涯の賃金が保障されていた。ところが、グローバル化した市場経済では人件費が高くては生き残れない。実力次第で若者にも権限を与え、活躍できる場を、と成果主義を導入する会社が増えた。しかし、企業の利益は増加しても、従業員には還元されない。

今は厳しいとき。会社という船が沈んでは元も子もないだろう。我慢しろ。我慢できないなら辞めてもらって結構。社員は利益を生み出す消耗品でしかないという考え方だ。

大量に採用し、労基法無視で長時間働かせる。できない人はパワハラなどで自己都合退職に追い込まれる。実績をあげた者は店長・所長に昇進させるものの、昇進しても管理職だからと残業代を払わない。なんとか正社員として働きたいという若者の願いと、労働法を知らないことにつけ込んだ悪質な手口。これでは将来の設計ができるはずもない。辞めていく若者が多いのは当然だろう(図3)。

就職後、3年以内に離職した理由をみると、その多くは待遇にある(図4)。「ゆとり世代」だから辛抱が足りないのではない。実際、厚生労働省が昨年末に発表した過酷な労働を強いる「ブラック企業」の疑いがある企業5111社への立ち入り調査で、全体の82%に当たる4189の企業・事業所で違法な時間外労働など労働基準関係法令の違反があったことがわかった(図5)。

1230事業所で1カ月当たり80時間を超えており、そのうちの6割(730社)が過労死の認定基準の月100時間を超える残業をさせていたのだ。決して小さい会社ばかりではない、企業規模別では従業員数300人以上が約31%で最も多かった。

(遠藤 成=文)