女子フィギュア浅田真央選手について、「見事にひっくり返った」「あの子は大事なときに必ず転ぶ」などと福岡市での講演で発言し、波紋を呼んでいる森喜朗元首相。

一部では、「発言の一部分だけ切り取り、失言したかのように見せるマスコミの手法はけしからん」との擁護の声も聞こえるが、それでも五輪開催中というタイミングでは軽はずみな発言であることは明白。また、これ以外にも「パラリンピックのために再び20時間以上もかけてソチに行くと思うと、暗い気持ちになる」といった趣旨の発言もしている。

こうした森元首相の失言騒動は、今に始まったことではない。首相在任中の「神の国」発言をはじめ、これまで数々の失言を残してきた、いわば“失言レジェンド”だ。

にもかかわらず、失脚するどころか、いまだに2020年東京五輪・パラリンピック組織委員会会長のほか、日本体育協会、日本ラグビー協会など各競技団体の会長職を務めるなど、日本スポーツ界における影響力は絶大。

アスリートへのリスペクトがあまり感じられない彼が、なぜ日本のスポーツ界において、そこまでの重鎮として君臨しているのか? 政治評論家の浅川博忠氏が語る。

「まず、森さんがスポーツに対して熱意を持っていること。あの発言はどうかと思いますが、彼は純粋にスポーツが好きなんです。また、森さんに限らず、政治家を競技団体のトップに置くという慣習は昔からありました。団体内部から選ぶより、有名政治家に会長職をやってもらったほうが、海外との交渉事や、国内での資金集めなど、多くのメリットがありますから。そして、多くの政治家のなかでも森さんの集金能力、外交能力は群を抜いていた。そういった実務能力があるので、スポーツ界で重宝されているのです」

森元首相は政界を引退した今も、ロシアのプーチン大統領をはじめ、多くの国の首脳とパイプを持ち、東京五輪招致の際にも積極的なロビー活動を行なった。また、2019年に日本で開催予定のラグビーW杯の招致にも尽力。「森氏なしに招致は実現しなかった」(ラグビー関係者)とまでいわれる。

「早稲田大学にラグビーで推薦入学し(4ヵ月で退部)、その後もラグビーに対する情熱を持ち続けてきた森さんにとって、ラグビーW杯の日本招致に対する思い入れはすごかった。今から9年前に2011年ラグビーW杯の開催地の決選投票があり、そこで日本はニュージーランドに惜敗。でも、その決選投票の翌日、森さんは当時の国際ラグビー評議会会長のもとを訪れ、『仲間内だけでパスを回すのか!』と訴えた。あんなことができる人は日本では森さん以外にいない。それが2019年の日本開催につながったのではないか」(ラグビー関係者)

実際にスポーツが好きで、元首相という肩書は交渉事に力を発揮する。失言というマイナス面よりも、そちらのプラス面のほうが大きいというのが、森元首相がスポーツ界でエラい理由なのだ。はたして東京五輪までに、代わる人物は出てくるのか?

(取材/コバタカヒト[Neutral])

■週刊プレイボーイ11号「森喜朗はなぜスポーツ界でそんなにエラいのか!?」より