「じつは多くの場合、健康保険や公的制度が使える治療費は、さほど怖くない。病気になって、こんなにかかるの?と驚かされるのは、保険が適用されない治療費以外のお金なんです」

こう語るのは、ファイナンシャルプランナーで自身も乳がんを経験した黒田尚子さん。病気になると恐ろしい、保険適用外の雑費を教えてくれた。

「思いがけない出費の代表的なものと言えば差額ベッド代、いわゆる個室料ですね。その額は病院によって大きく異なりますが、全額実費払いとなるので、入院前にきちんと確認を。パジャマやタオル、歯ブラシなど、入院生活に必要な日用品の購入費も少なくありません」

手術を終え、晴れて退院してからも出費は続く。がん治療を例にすると、病院以外で払ったお金の1位は治療の際の交通・宿泊費。治療費以外の年間出費の平均は約54万円だという。

「代表的ながん治療の一つである放射線治療の場合、月曜日から金曜日まで毎日通院が必要。これを10〜40回行います。家から離れたがん専門病院などへ通う人も多く、中には数十分の放射線治療のために、通院で何時間もかかる人も……」

黒田さん自身も、乳がん手術後の通院費はかなりかかったという。

「東京のがん専門病院で手術を受けたのですが、がん告知当初は富山に住んでおり、手術までの2カ月間は新幹線などで通院しました。千葉に転居後も、電車なら往復1000円程度の距離でも、車で通院すると、高速代にガソリン代、駐車場代と、結構かかって驚いたのを覚えています」

がんは再発が怖いので、手術後の定期健診の費用も忘れてはいけない。

「血液検査からMRIまで、少なくとも5年間は検査に通う必要がありますね。病院によっても検査費用が大きく異なる場合があるので、頻度や金額の目安を事前に確認しておくと安心です」

意外なところでは、外食の費用がかかると黒田さんは言う。

「患者が家事を担う妻だった場合など、家族の外食が増えます。入院中はもちろん、退院後も抗がん剤やホルモン治療の副作用で、食事も作れないという女性は結構多いんです。そうなると、家族は外食やお惣菜などを購入する機会が増え、食費がふくらむというわけです」

これは直接的に治療に関わらない費用であるがゆえに、日常の生活費に埋没され、気づきにくい。積り積もって、気づかぬうちに家計を圧迫するという。

「どこまでお金をかけるかというのは、個人の考え方次第。人命やQOL(クオリティ・オブ・ライフ)の向上はお金と天秤にかけられないということで、ついお金をかけすぎて、徐々に家計を圧迫するケースも多々あります。治療と日常生活のバランスをどう考えるかも重要です」