愛媛、済美の2年生エース安楽智大が3回戦で敗退した。夏の甲子園は2試合で終わった。

2試合、19回を投げて321球、1回あたりの投球数は17.4球。これも多いが、失点は14。
特に中2日で迎えた2戦目の花巻東戦では押し出しを含む2死球、10回で183球。
明らかに疲労による制球難に陥っていた。
作戦面で考えても、選手の体調管理面で考えても、2番手投手が必要なのは明らかだったが、結局、春に続いて愛媛済美高校は、安楽と心中をしたわけだ。

選抜で安楽は5試合、46回で772球を投げている。1回あたり16.78球。選抜のときは他に山口和也、太田裕也という二人の投手が2回だけ投げたが、夏は安楽だけだった。

夏はERAは2.35。夏は6.63だから、明らかに成績は下落していた。球速は158km/hを記録したが、球が速いことと投手として優秀なこととは別の話だ。
夏になれば、選手たちの打力は向上する。大体において夏の方が打撃戦になる。
投打のバランスが春とは違っていたのは事実だが、安楽の投球が進化したとはいえないだろう。

ただし、この間、安楽はいろいろな経験をした。
選抜後の愛媛県の予選では、40.1回を506球。1回あたりわずか12.5球と言う素晴らしいパフォーマンスを見せた。力量差のある相手もいたとはいえ、長足の進歩だ。最大の要因は、スライダー、カーブが使えるようになり、速球を見せ球にする効率の良い投球ができるようになったことだ。
しかし本人は速球で押すことにこだわりを見せていた。決勝では157km/hを記録している。
この間筋力トレーニングにも励み、体脂肪率を減らすなど体質改善に取り組んだと言う。

しかし愛媛大会決勝戦後、「肩甲骨の炎症」を起こしてノースロー調整。
夏の甲子園の開幕直前には、発熱、下痢で寝込んでもいる。
そして甲子園ではそのパフォーマンスを十分に発揮することができなかった。

この投手は、選抜で772球を投げたことで日本のみならず国際的な注目を集めた。ESPNは、独自にこの投手を取材し、「アメリカでは考えられない登板過多」と報じた。
国内的にも大いに議論を巻き起こした。
安楽自身は強気で、夏は「3、4試合投げても150km/h出せるように鍛えなおしたい」と語った。

こうした経緯があっての夏だけに、安楽は大きなプレッシャーを感じてもいたのだろう。
こういうときに、本当であれば指導者が矢面に立つものだと思うが、済美の上甲監督は、「安楽が大丈夫だと言うから投げさせた」「高校生に球数制限はふさわしくない」と語った。

夏もESPNをはじめとするアメリカメディアが取材に駆けつけ、安楽を追いかけた。そして10回183球という投球数を「狂的」と伝えたが、この試合で安楽が負けたことにより「酷使は終わった」と安堵した。

安楽の素材の素晴らしさは12球団、そしてMLBのスカウトも折り紙つきである。投手としてだけでなく、打者としても抜群の素材だ。
そういう素材だけに、故障せず順調に育ってほしいと願うのが普通なのだが、彼の場合は少し違っている。

安楽は「自分は投球過多ではない。もっと投げられる」という看板を自ら掲げてしまったのだ。今回の敗戦も「疲労のせい」ではなく、「甘えが出た、精神的に成長しないと」と反省の弁を述べた。まるで戦前のような精神野球である。

ここは大人の出番ではないだろうか。安楽の目標は「甲子園で海外をはじめとする報道陣を見返すこと」ではないはずだ。
野球選手としての豊かな素質を開花させることにあるはずだ。

そのためにも、指導者は、合理的で科学的な調整法を取り入れるなど、練習法を改善するべきだ。
そして安楽に続く二番手、三番手投手を育成し、彼への負担を軽減させるべきだ。
さらには、チーム全体も極端な「安楽頼み」の体質からの脱却を図るべきだろう。

再来年のドラフトの目玉と目される安楽だが、あたら逸材を挫折させることなく成長させてほしいと思う。