「タイポがたり」会場の様子。「ム」の文字を検証中。「みんなで文字を見つめる」という研究発表的な雰囲気も面白かったです。

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東京お台場、ファミリーでにぎわう日曜の昼下がり。これ以上ないような平和な条件下で、何十人もの人間が集まって恐怖の「集団ゲシュタルト崩壊実験」が行われていた!

……かのように思われたが、先日エキレビで紹介した路上観察本『タイポさんぽ』のイベント、その名も「タイポがたり」が行われていたのでした。そのイベントレポート、お伝えします。

ニフティが運営するイベントハウス「東京カルチャーカルチャー」にて『タイポさんぽ』著者・藤本健太郎さん、編集者さん、デザイナーさんの3人が、書籍に入りきらなかった念を、一挙放出。濃いネタのスライドをテンポよくめくり、脱線を繰り返すという黄金進行で盛り上がっておりました。

書籍の『タイポさんぽ』は、町中で「いい味出している昭和な看板」などを写真におさめ、それら一つ一つを解説していくというもの。妙書体に出会う喜び、捕獲(撮影)する楽しみ、味わってゆく深さが伝わる本なのです。

イベントではそこから延長する形で、本から「はみ出た」大量の写真が公開されました。本に登場した看板の「反対側から撮った写真」や、「やりすぎタイポ」「怖い看板」「やばい書体」など、ちょっとダークサイドへ一歩踏み込んだ写真が多いのも本との違い。地方のヘンテコ謎看板とか、みんな大好きですよね。

しかしそんな「やばい系」に対しても、ツッコむだけでなくきちんと解説して愛していく壇上3人の愛の深さ。どんなにえげつない看板にたいしてもしっかり文字一画一画のカーブや先端のデザイン処理まで、みっちり考察していきます。「いつごろの年代のどんな書体の派生なのか」など、本格的な検証も時々入って引き締まっていました。

ジャンルごとにまとめられた街角写真が次々に大きなスクリーンに映され、紹介される。「ウェ〜ブ&カ〜ル」コーナーでは、字画の末端がくるっとレトロオシャレに巻いた看板文字を次々に紹介。洋品店や美容関係の看板がつづき、一言。「ファッションは巻かざるをえない」。

執拗にくるくるした文字に関しては、計測した推定角度が発表され、高い数値が出るたびに会場は「おおー」と沸き、大手メーカーや既成のフォントでは味わえないデザインを堪能。最大900度くるくるを超える文字まで報告され、会場は世界の広さを知った。しかし文字のクルクルで盛り上がる会場も、よく考えたらどうかしてる。

「クリーニング屋の看板は、ヤバい。打率で言うと…『ほとんど当たる』」など、長年の路上観察歴に裏打ちされた数々の名言が飛び出す中、後半はさらに深いゾーンに。

ひらがなや漢字をじーっと見ていたり、同じ文字を何度も読み書きしていると、その文字が文字に見えなくなって「うぎゃあああ」となるゲシュタルト崩壊、これをわざと起こすような冒険的看板ばかりを集めて一挙紹介。

藤本さんはこれらの文字を検証するため、あらかじめトレースして描き起こしておいたキレイな線画データを次々に披露し、文字が文字に見えなくなる現場を会場で考察してゆく。スクリーンに大きく写し出された変な形の「ム」を唸りながら全員で見つめるなど、異様な時間が流れ続けた。

そしてラストは「恐怖」と題されたカテゴリ。ホラーな書体や風雨など劣化によって「後付け恐怖」を帯びた看板などを紹介解説。駐車禁止などの警告だけでなく、「やすらぎの旅館」みたいな「ホラーな字だとマズいんじゃないか?」という例も多数。

「これなんて、(字の形状が)ドクロですよね。」

「しかもガシャドクロですね。」

「うん、チベットのドクロ。」

と、フィーリングで味わいつつも必ず着地がおかしい3人のクセが輝いていた。

そんな当日の様子はustreamで録画を見ることも出来る。『タイポさんぽ』を買った人も、気になる人も、是非様子をうかがってみて欲しい!(香山哲)