元町・中華街駅を降りる。ポツリ、ポツリ。えっ、嘘でしょ。天気予報は、晴れマークだったのに……。空を見上げる。立ちこめる真っ黒な雨雲。このまま中華街に飛びこんでエビチリでも食べてやろうかとも思ったけれど、たしかこの日の先発は、能見篤史と高崎健太郎。エース同士の投げ合いだ。あれ、横浜のエースって、いま高崎でいいの？　番長じゃないの？　まあ、高崎が開幕投手だったし、エースでいいか。

　そんなこんなで訪れた横浜スタジアム。今季初観戦だ。まずは、チケット売り場へ。ふむふむ、なるほど。ここは外野席専用なのか。えっと、【DeNA［残席あり］、阪神［売り切れ］】。ここ、どっちの本拠地だっけ。頑張れ、ベイスターズ!!

係員に「車椅子の方は、内野席へ」と案内され、内野席専用のチケット売り場へ。ところが、本日の車椅子シートは完売とのこと。おお、車いすユーザーのみなさん、結構アクティブに野球観戦を楽しんでらっしゃるのだなあ。車椅子シートがないのは不便だけど、ちょっぴりうれしくもある情報。

そんなわけで、“愛車”は預け、通常の座席で観戦しようと、内野指定FA席を購入。当日券は4500円だが、金曜日は「メンズ割」とやらで、なんと2000円も割引になった。ラッキー♪　曜日によって割引対象が変わるらしいのだが、気が利いているのは木曜日の「女子割」。ただし書きには、「女性及び女装をした方」とある。いいね、こういうの。

スタッフに誘導され、三塁側の座席へ。目に飛びこんでくる美しい人工芝とカクテル光線。さっきまでの雨のせいか、客席の埋まり具合は5割程度だが、虎党は序盤からテンション高く、拳を振り上げている。やはり目立つのは、レプリカのユニフォーム姿。ざっと見回すと、鳥谷、鳥谷、平野、鳥谷、金本、平野、金本――。

しばらくすると、前の列にスーツ姿の中年男性がやってきた。仕事帰りだろうか。腰を下ろした途端、何やら紙袋をごそごそとやっている。取り出したのは、ホーム用のタテ縞ユニフォーム。それを颯爽とひるがえし……えっ、スーツの上から着るの？　ワイシャツの上じゃなくて？

こうなると、グラウンドよりもこのオッチャンが気になって仕方ない。いったい誰のユニフォームを着るつもりなんだろう。背番号39。えっと、いまは誰が着けてたんだっけな。ワイ、エー、エヌ、オー。YANO。矢野？　おいおい、オッチャン。せめて、現役選手のを買うたれや……と内心ツッコミを入れていたが、よく見ると観客席には往年の名選手を背負っているファンも決して少なくない。いちばん人気は、53番・赤星。わかるぞ、オレも大好きだ。ただ、たださ、ムーアはどうなのよ。いや、もちろん、いいピッチャーだったけど(笑)。

［後編へ続く］

■乙武洋匡のベースボールコラム〜バックナンバー
・今季のオススメ選手は……
・王様の教え
・約束のホームラン
・王国へのあこがれ

希望　僕が被災地で考えたこと希望　僕が被災地で考えたこと
著者：乙武 洋匡
販売元：講談社
(2011-07-14)
販売元：Amazon.co.jp