――うーん、なるほど。やはり、前に進んでいこうという姿勢が大切なのでしょうね。

:通勤電車に乗るシーンがあったんですけど、西武新宿線の電車を一両借り切って、行ったり来たりしながら撮っていたんですよ。その時のエキストラの中に実際にうつ病だった方がいて、病気後の初めての電車への乗車が、今回応募したエキストラだったそうです。
宮崎:久しぶりに満員電車に乗ったって。「嬉しい」と言って泣いていましたね。自分が一歩前に進めた! じゃないですけど「乗れたことが嬉しい」と言っていました。
:彼女にとってはすごく大きな一歩だったんでしょうね。

――それは、本当に大きな前進のような気がします。お二人は作品に入る前後で、うつ病に対してのイメージは変わりましたか?

:以前までは自分と反対側にあるものだと思っていたんですけど、決して人ごとではなくて、自分の生活の歯車が狂い出すだけで容易にそこに行くことが出来る。対岸の火事じゃないという気がしますね。僕も「来週なりました」と言っても全然説得力あるなと。それくらいよくある話だと思います。だからといって、「うつ病になったんだ。じゃあ僕とは違う所なんだね」、あるいは、「この人はうつ病なんだ。じゃあ僕が分からない所がいっぱいあるね」というようなアプローチではなくなってきていますよね。
宮崎:私は、作品に入る前と後での変わった部分は特にないんですが、でも、完治することは難しいかもしれないから、うつ病とどう向き合っていくかという選択肢があるんだなということは自分の中で増えた気がします。「治そう、治そう」ということだけが答えじゃないんだなと思いました。

――「割れなかったからここにある」というセリフが心に響いたんですが、本作に出演されて、ご自身が得たものや良いなと思ったことはありますか?

:おっしゃった通り、すごく大事なセリフですよね。どんなに格好つかないことでも、騙し騙しだろうと前に進むというのはただそれだけで素晴らしいと思います。今日一日を生きるということは素晴らしいと思うから。とても、いろいろな方の心に響くメッセージが詰まった映画になっていると思いますね。

――割れない為に普段お二人がされていることはありますか?

:「自分に甘い」とかですかね、相当。

――え、そうなんですか。実際に演じた“ツレ”は生真面目でしたが、そのキャラとは結構違うのですね。

:どうなんだろう。この仕事をやってきて、状況によってだんだんと満点を下げることが出来るようになった気がします。自分の中で、それが恥ずかしいことではなくなってきた気がするんですよね。晴れの設定の時に、雨が降ってきたら「もうダメじゃん! じゃあ、雨の芝居を考えよう」という発想の転換が出来る。そこの臨機応変さは歳の功なのかな? この仕事自体、だんだん気楽になってきているし、だんだん好きになってきています。

――なるほど、余裕が出てきた証拠なのかもしれませんね。宮崎さんはいかがですか?

宮崎:割れないでいるために…。最近いろいろ考えるようになりましたね。今まではわりとなるようになると思って生きてきていたんです。でも、そうじゃなくて、いろいろと考えて自分の進む道を決めていかなきゃいけないなと思うようになってきています。ちょうど今、どう割れないでいられるかを考えている所ですね。誰しも簡単に割れてしまうと思うので、甘えられる場所を作ることはいいのかもしれないですね。家族だったり、友達だったり、なんでも弱音を吐ける場所が一つでもあると頑張れるのかなと思います。

――ありがとうございました。



『ツレがうつになりまして。』-作品情報

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