日本の航空機産業をリードする三菱重工業・名古屋航空宇宙システム製作所。現在は、ボーイング社など海外メーカーの大型旅客機をはじめ、40年ぶりの国産旅客ジェット機「MRJ」の基本設計が進む。名航の民間機技術部で機体設計を統括する巽重文氏に、航空機設計の醍醐味を聞いた。

■民間航空機はどういう流れで設計されるのか
 民間航空機の設計では、新型機の「開発設計」と、すでに就航している航空機のメンテナンスや改良のための「維持設計」の二種類があります。まず開発設計を例に、航空機がどのように設計されるのか、その概略をお話ししたいと思います。

 民間機の場合は、航空機を開発して、それを事業として成り立たせないといけませんから、通常の製品開発と同じように、市場調査やマーケティングというものからスタートします。民間航空機の需要がいま世界でどうなっているのか、お客さまのニーズは何なのか、それに対して我々はどんな航空機と関連するサービスを提供していけばよいのか、ということです。

 現在、三菱重工グループが開発を進めているMRJ(三菱リージョナルジェット)の場合ですと、当然、世界の航空機メーカーが競争相手になります。私たちの強みを含めて、その競合関係を分析しながら、私たちが、どういう市場にどういうタイプの航空機を提供すれば、世の中にとっても私たちにとってもよいのだろうか、ということを、考えるわけです。

 こうして新しい航空機についての私たちなりのコンセプトができたら、そのおおよその仕様を決めて、図面や模型を持って世界のお客さま──各国のエアラインやビジネスジェットを必要とする企業を回ります。そこであらためてお客さまのご意見をいただき、機体仕様をさらにブラッシュアップして、まとめ上げていきます。

 こうしたマーケティング活動と並行しながら、設計開発の陣容づくりを進めます。この機体を作るために設計者は何人ぐらい必要だろうか、場所はどこで作ろうかとか、いわゆる「ヒト・モノ・カネ」の環境の整備を行うわけです。

 こうした準備作業というのは、短期間でできるものではありません。MRJは40年ぶりの国産民間航空機ということになっていますが、1981年に型式証明を取得したMU-300の後も、現在までずっと次世代民間機自主開発のための環境整備を続けており、それがようやく、本格的にスタートできたのが、2007年10月でした。

 もちろん、三菱重工の現在の主たる事業は、ボーイング社など海外航空機メーカーとの国際共同開発において、その一翼を担うということです。現在の航空機開発というのは、投資額が膨大ですから、どんな大手のメーカーでも一社単独ではとうていリスクを負いきれません。そのため、国際的にパートナー企業を募り、その共同開発事業として行うのが通例です。三菱重工はボーイング社と長年にわたってアライアンスを組んでおり、胴体や主翼の構造設計、部位のとりまとめなどを担当しています。

 例えばボーイング社が新型航空機を作るとなると、市場調査やマーケティングはボーイング社が行うわけですが、我々も長年共同開発をしていますから、次の旅客機の仕様はどんなふうになるか予想はつきます。「次も一緒にやらないか」という正式のオファーを受けるころには、だいたい設計開発の準備というのはできているわけです。

■ボーイング機ワークパッケージの基本設計はシアトルで
 共同開発の契約が結ばれたら、いよいよ基本設計に入ります。既にその段階でボーイング社の概念設計は一とおり終わっています。航空機全体としてはおよそこんな機能、性能で、例えば主翼はこんな形をしていて、素材には炭素繊維複合材を使うというようなところまでは決まっています。ただ、主翼の外形は決まっているものの、内側の構造設計は「三菱に任せるから、考えてください」というのがオファーの内容です。