食品偽装表示事件の船場吉兆が、昨日16日、大阪地裁に民事再生法の適用を申請した。申請が認められて手続の開始決定がされれば、債権者に対して再生計画案を提示し、22日にも本店の営業を再開、再建に向けてスタートするという。

 今回の再建にあたっては、新社長として、湯木正徳社長の妻で女将(おかみ)の佐知子取締役が就任。湯木正徳現社長をはじめ、湯木家のその他の役員は全員辞任することになる。

 女将の佐知子氏が社長になることには、マスコミの風当たりは相当強いようだ。船場吉兆を実質的に仕切っていたのは女将であり、そのような人物が社長になるのは経営責任を取ったとは言えない、という論評がある。実際、謝罪会見で取締役の息子の横でささやきながら答弁を逐一指図する姿が印象的で、間違いなく仕切っているのは佐知子女将であるという印象を一般に与えたのは確かだ。

 ただ私は、今回の再建策は、合理的な判断であったと考える。

 民事再生は、原則として、経営者がそのまま経営をするのが前提となる。会社更生の場合は、保全管理人が経営を担い、スポンサーが決まって事業管財人にバトンタッチするが、民事再生では旧経営者の責任で再建計画を作成し、債権者の了解を得る。その意味では、旧経営陣から社長が出ること自体はおかしくはない。

 しかしながら、実際、上場会社など比較的規模の大きい会社の民事再生では、経営者がそのまま残っている例は少ない。多くの上場会社の民事再生手続では、事業譲渡という形で今までの経営者は責任をとって、新しいスポンサーに売却する形を取る。その際、一般的には、社長など代表権のある取締役は責任をとって辞任し、新たな受け皿会社の経営には加わらないことになるが、取締役でも支店長など現場に近い役員は、事業譲渡後も引き続き経営に携わることがある。

 一方、個人企業のように、経営者の「顔」(営業力)が事業の継続に不可欠であるような中小規模の民事再生の場合には、今までの経営者がそのまま経営にあたることを前提とせざるを得ない場合もある。

 その意味では、船場吉兆は、個人企業に近いような小規模な会社であるともいえるし、女将は、今回新たに取締役に就任した料理長とともに現場の長であるともいえ、いずれの観点からしても残ることについて違和感はない。現場の長が中心となって再建していくのは、民事再生における通常の姿である。

 問題は、現在の船場吉兆で、経営の決定権を持っているのが株主ではなく、一番のステークホルダーは債権者であるということだろう。現状では、全ての資産を換金して債務の弁済に充てても弁済しきれないという状態なので、債権者の過半数が経営責任の取り方が甘いと考え、再生計画に反対すれば、破産する以外になくなる。金融機関をはじめとする債権者が、今回の再建策をどう捉えるか次第である。

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