■高価格化で「日本人のiPhone離れ」は起きるか

今年もAppleから新型iPhoneが発表された。目玉は折りたたみ型の「iPhone Duo」だが、最小構成でも30万円台と高額だ。通常であれば「Apple離れ」が起きそうな気もするが、筆者はそうならないと予想している。なぜ日本人はそれでもiPhoneから離れないのだろうか。

写真=AFP/時事通信フォト
米アップルが2026年9月9日発表した、同社として初となる折り畳み式スマートフォン「iPhone(アイフォーン)デュオ」(アメリカ・クパチーノ) - 写真=AFP/時事通信フォト

iPhone Duoは2026年9月9日に発表され、10月23日に発売予定だ。価格はストレージ容量ごとに分かれ、Apple Storeでは256GBが36万4800円、512GBが39万9800円、最上位の2TBは57万4800円となる。

今年はiPhone 18の発売はなく、上位グレードのiPhone 18Proは最も安い256GBで21万9800円。10年前のiPhone 7は32GBで7万2800円、同じ256GBでも9万4800円だった。

iPhoneの高価格化が進めば、価格に敏感な人はAndroidへ移るか、買い替えを先送りするかもしれない。一方、iPhoneを使い続ける人も、返却を前提に購入するか、買い切るか、今の端末を長く使うかを選ぶことになる。

国内各社が用意する返却プログラムには、端末代を24回または48回に分け、所定の時期に端末を返すと残価や残りの支払いの一部が不要になる、という共通した仕組みがある。会社ごとに細部は異なるが、基本構造はこの分割払いと条件付き返却にある。自動車で言う「残クレ(残価設定型クレジット)」と近い仕組みと言えば、わかりやすいだろうか。

■いつしか大卒初任給を超える価格に

原稿の執筆時点で、iPhone Duoのプログラム月額は、各社から公表されていない。参考として、Apple Storeでの価格が最小構成(256GB、36万4800円)に近いiPhone 18 Pro Maxの1TB(34万4800円)で見てみると、ドコモの新規契約では41万9650円となり、プログラム使用で23カ月目に返却すると月々9120円(負担額はプログラム利用料を含めて23万1770円)。となれば、iPhone Duoも1万円クラスになるだろう。

このプログラムのメリットは、高額な端末を少ない月額負担で一定期間使い、返却時期には次の機種へ移りやすくなることにある。しかしながら、「毎月1万円のサブスク」と考えると、身構えてしまう人も多いのではないか。

とはいえ、30万~40万円を一括で払うのは難しい。いくら賃上げが進んでいると言っても、大卒初任給を大きく超える商品を購入するとなれば、清水の舞台から飛び降りるような気持ちになって当然だ。

■iPhoneユーザーに課せられた「永年縛り」

たとえ返却プログラムを使用したとしても、返してそこで終わりではない。スマホなくしては生きられない時代ゆえに、また何かしら次の端末を購入する必要に迫られる。いわば「永年縛り」とも言える状況なのだ。

かつて、通信サービスの契約期間や解約条件を指す「2年縛り」という単語があった。しかしこれが、消費者の囲い込みにつながるとして、国が問題視した結果、違約金を払わずとも携帯会社を行き来できるようになった。

その後に各社が導入したのが、返却プログラムだ。通信サービスではなく、端末にかかる“縛り”ゆえ、法改正による影響を受けない。

また端末を返さず、残りを払って所有し続ける選択肢もあるため、「消費者にとっては自由度の高いサービスだ」と位置づけられているように感じる。

■iPhoneからAndroidへの乗り換えの「心理的ハードル」

しかし、本当に自由度が高いのだろうか。返却の時期に次の機種を選ぶ際、どのOSの機種を選ぶか。iPhoneユーザーは、次もiPhoneに買い換えないだろうか。1回ごとは本人の選択でも、その選択が繰り返される状態を、心理・経済的な「永年縛り」と言ってもいいように感じる。

ここで日本におけるiPhoneの分布を見てみよう。NTTドコモ モバイル社会研究所の「2026年 一般向けモバイル動向調査」(1月に全国15~79歳男女を対象としたウェブ調査)によると、最もよく使うスマートフォンはAndroidが55.4%、iPhoneが44.6%だった。若年層ほどiPhone比率が高く、15~19歳で約6割、20代では7割近くを占める。

出所=NTTドコモ モバイル社会研究所「2026年 一般向けモバイル動向調査」
出所=NTTドコモ モバイル社会研究所「2026年 一般向けモバイル動向調査」

AppleとGoogleはいずれも、AndroidとiPhoneの間で連絡先、写真、メッセージなどを移す公式手段を提供している。OSの変更をともなう機種変更は、以前よりハードルが下がった。

ただし、一部データは手動移行が必要で、アプリへの再ログイン、設定、周辺機器の確認といった作業も残る。移行できることと手間がないことは別であり、できればそのままの環境で引っ越したいと考えるのが一般的だろう。

■8割が「次もiPhoneを買う」

公正取引委員会「モバイルOS等に関する実態調査報告書」(2023年2月)などの資料でも、学習、データとアプリ、接続機器、家族や友人との相互運用をOS切替の障壁として挙げている。

この調査データでは、iPhone(iOS)ユーザーの8割、Androidユーザーの半数以上が、次回の買い換えでも「同じOSのスマートフォンを選ぶ」となっていた。また、端末やアプリの価格が5~10%値上がりしたら、との質問には、こちらもiPhoneユーザーの約8割が「それでも同じOSのスマートフォンを購入する」と答えた。

これは2022年2月に行われた調査であり、4年半がたった今なお、同じとは言えないだろう。またその間に円安が進み、世界的にも半導体価格が上昇していることから、値上げ幅も大きくなっていることは留意しておきたい。ただ、OSを乗り換えにくい心理があることは間違いない。

■価格が上がっても「iPhone離れ」は起きない

つまりは、価格高騰といった理由があっても、なかなかiPhoneユーザーはAndroidに乗り換えようとはしないのではないか。

同じOSを使い続ければ、操作を学び直す必要はない。使い勝手も慣れている。しかしその便利さが、むしろ別OSという選択肢を狭め、金銭的および精神的な“永年縛り”を生んでいるようにも思える。

こうした背景から考えると、どれだけ費用負担が増えても、「Apple離れ」には進まないのではと予想できる。つまりは「毎月1万円を払ってレンタルする」もしくは「30万円以上を払って購入する」という、どちらを選んでもイバラ道が確定している究極の2択であっても、使い慣れたiPhoneを捨てられないのだ。

ちなみに、Apple Storeには公式の分割払いも存在する。最小構成であれば、月額1万133円の36回払いから。しかし、これはあくまで分割であり、最終的に36万円以上を払うことには変わりがない。

■マウンティングに使われるiPhone

ここで、“周囲の目”にも気を配りたい。「Yahoo!知恵袋」を見ると、学生と思われるユーザーから、「Androidなんだ(笑)とバカにされた」「どうして見下すのか」「アンドロイドが何かしましたか?」といった、怒気や悲鳴をはらんだ質問がいくつも投稿されている。

とくに思春期は、友人からの一言がグサリと刺さりがちだ。しかし、iPhoneを使っているか否かが、マウンティングの要因になっているケースは少なくないのだろう。言っている側は「おもしろいイジり」のつもりなのだろうが、受け止める側はそんな気楽ではない。

そもそも中高生の場合は、廉価版のiPhoneであっても、本人の自腹で購入するのは、あまり現実的に思えない。月々の使用料も払った上で……と考えると、経済基盤を親に依存している可能性が高いのだが、なぜか「自分の優越感」に転換する若年層が多いのだろう。

写真=iStock.com/travelview
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/travelview

■「iPhoneユーザーが多い」が生む生きづらさ

誰かが悪口を言わなくても、「自分だけ違う」が見えてしまい、一方的に劣等感を覚える可能性もある。例えば、友人同士で撮った写真を「AirDropで送るね」と共有するとき。最近では一部のAndroid端末でも送受信できるようになったが、基本的にはiOSやMacユーザーが中心だ。幾度となく「自分には別の方法で送って」と頼んでいるうちに、申し訳なさが募っていってもおかしくない。

またSNSでは、アルゴリズムの関係もあり、考え方の近い投稿が表示されやすい。最初は一部の人がAndroidスマホをけなしていただけでも、同じような投稿が何度も目に入れば、「みんながそう思っている」と感じるかもしれない。

実際の多数派かどうかとは別に、その空気が「この機種を使う人は笑ってもよい」という扱いを後押しする。小さな侮蔑が集い、まるで「世論」のような顔をして、差別的な扱いを広げる可能性はあるだろう。

■「他人からの見られ方」が永年縛りを生んでいる

この「優越感と劣等感」は、iPhoneを持っていれば抜け出せるとも限らない。画面が割れ、電池も長くもたなくなった。それでも買い替えや修理の出費をためらい、古いiPhoneを使い続けるとする。

そこで「そろそろ替えなよ」とイジられたら、今度はiPhoneユーザー同士でも“格差”が生まれる。安価なAndroid端末に替えるより、不便でも旧型iPhoneを使い続けることを選ぶ人もいるのではないか。

もちろん、比較的安価なラインがなくなったわけではない。ただ、2022年のiPhone SEは64GBで5万7800円からだったのに対し、2026年3月発売のiPhone 17eは256GBで9万9800円から(いずれも発売時)。容量や機能は異なるが、「最廉価」の基準は大幅に上がっている。

「見下されたくない」「いじられたくない」。そんな防衛のために、なかば消極的にiPhoneを選ぶことも考えられる。そんな人々もまた、いつまで続くかわからない“縛り”の中で生きているのだ。

■端末の買いやすさとiPhone離れは別の話

賃上げがさらに進むか、それとも円高に振れるか。現状では、そのどちらかでない限り、残念ながら高い端末代の負担感を軽くすることは難しい。

しかし、端末が買いやすくなることと、iPhoneから離れやすくなることは別の話だ。月々の支払額には数字があるのに、OSを替えるときの学び直しや設定の手間には値札がついていない。だから購入時には、価格と同じ物差しで比べにくい。

自由に選んでいるはずなのに、次も慣れたiPhoneを選ばざるを得ない。その選択が買い替えのたびに繰り返されることこそ、「永年縛り」の正体なのだ。

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城戸 譲(きど・ゆずる)
ネットメディア研究家
1988年、東京都杉並区生まれ。日本大学法学部新聞学科を卒業後、ニュース配信会社ジェイ・キャストへ入社。地域情報サイト「Jタウンネット」編集長、総合ニュースサイト「J-CASTニュース」副編集長、収益担当の部長職などを歴任し、2022年秋に独立。現在は「ネットメディア研究家」「炎上ウォッチャー」として、フリーランスでコラムなどを執筆。政治経済からエンタメ、炎上ネタまで、幅広くネットウォッチしている。
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(ネットメディア研究家 城戸 譲)