日本人選手の活躍で盛り上がるアジア大会(第20回アジア競技大会)。世界的な知名度や注目度こそオリンピックの方が上回りますが、今回のアジア大会は競技数や選手数が過去のオリンピックを上回るほどで、カメラマンも各国から集結。カメラやレンズの破損やトラブルに対するサポートを実施すべく、カメラメーカーは会場内にカメラマン向けのサポートブースを用意しています。

なかでもキヤノンは、東京五輪に迫る規模のサポートブースを設置。これまでと同じく「ゼロ・ダウンタイム」を掲げ、どのような破損でも24時間以内で修理完了する体制を整えています。修理時の貸出用機材も、EOS R1や超望遠の白レンズがズラリ。修理や整備を担う担当者は各地から精鋭メンバーを集めるなど、今回も「カメラマンの仕事を止めるな!」という意気込みで大舞台に臨んでいました。

キヤノンのサポートブースの機材庫に並べられた貸し出し用の機材。奥から手前まで見渡す限り白レンズ、というカメラファンには夢のような環境が作られていた

修理するだけでなく、レンズやAFの精度も調整して返却する

32年ぶりに日本での開催となったアジア大会、キヤノンはメインプレスセンターにサポートセンターを設置しています。ここでは、CPS(キヤノンプロフェッショナルサービス)会員のカメラマンを対象に、カメラや交換レンズの清掃と点検を中心としたメンテナンス、破損や故障時の修理、代替機材の貸し出し、カメラのAF性能を補正するピント調整などのサービスを実施しています。

キヤノンマーケティングジャパン プロフェッショナルカメラマーケティング部の柿崎利樹氏は「たとえカメラやレンズにどんなトラブルが起きても撮影を中断せずに済む“ゼロ・ダウンタイム”をサポートのポリシーに運営しています。キヤノンのプロフェッショナルサービスセンターをそのまま会場に持ってきたようなイメージですね」と語ります。

サポートセンターの受付の奥に、サポートセンターや貸出機材の保管庫がある

サポートセンターは、朝8時~深夜23時まで開いており(競技スケジュールによって変更あり)、カメラマンを待たせないようにしています。今回のアジア大会は、カメラマンの登録者数が東京五輪に匹敵すると聞き、東京五輪と同等の規模感で人員や機材を整えたといいます。

メンテナンスサービスは預かりから1時間、修理は24時間で速やかに返却できる体制を整えています。「たとえカメラを落下させてレンズマウントが取れてしまったり、選手と衝突してレンズの前玉が割れるなど激しく破損しても、翌日には元通り撮影できる状態へ修理してお戻しします。修理中は代替機材をお貸し出ししますので、カメラマンのみなさんのお仕事を止めることはありません」と胸を張ります。

預かった機材をメンテナンスしている担当者。全国のサービスセンターから腕利きの精鋭を集めたという

ボディやレンズのクリーニングも実施する

単に修理するだけでなく、最後の精度の追い込みを重視しているそう。「パーツを交換するだけでは完璧とはいえません。解像性能を限界まで追い込むべく、修理後にレンズの精度調整やオートフォーカスの精度調整を実施します。調整には時間を要しますが、ここが一番重要だと考えているので、決して妥協しません」

サポートセンターには、カメラやレンズが故障していなくても「AFや解像の精度にズレがないか見てほしい」「大一番の前に限界まで精度を追い込んでほしい」というメンテナンスの依頼が多く寄せられるそうです。

どのようなニーズにも応えられるよう、さまざまな調整用機材を準備していた

超望遠レンズの精度を高めるため、サポートセンター内には長いスペースを確保して調整室を設置。奥には、門外不出のキヤノン製テストチャートが張られており、これをもとに腕利きの担当者がレンズの解像度を100%まで高める調整を実施していました。

超望遠レンズのオートフォーカスの精度を調節する装置。800mmの超望遠レンズまで対応するという

レンズの向こうに張られたテストチャートを利用し、担当者が綿密に調節していく

「サポートセンターには、各地のサービスセンターから担当者を配置しています。腕が認められて選ばれた精鋭ばかりなので、選手だけでなく担当者にとっても最高峰の舞台といえますね」

世界中から貸し出し用の機材をかき集めた

集結したのは担当者だけではありません。韓国、中国、オーストラリア、ヨーロッパなど世界中の拠点からEOS R1などのボディや超望遠レンズをかき集め、どのようなリクエストにも応えるようにしていました。

実際、サポートセンター内の機材保管庫には、EOS R1をはじめとするボディや白レンズがズラリ。ボディは、EOS R5 Mark IIや一眼レフのEOS-1D X Mark IIIも用意しているものの、EOS R1の数が圧倒していました。動きが予測しづらく難易度が高いスポーツ競技撮影における、キヤノンのEOS R1に対する自信が垣間見えました。

交換レンズでは、開放F2.8通しの大口径超望遠ズーム「RF100-300mm F2.8 L IS USM」の存在が目立ちました。重たい超望遠レンズを何本も持ち歩く必要がなくなる利便性や、テレコンバーターの併用で最大200-600mmをカバーできる望遠性能が注目され、貸し出しのリクエストも多いといいます。現時点では、同等スペックのミラーレス用交換レンズはキヤノン以外からは登場しておらず、スポーツ競技会場では周囲のカメラマンも憧れる1本といえます。

機材庫にズラリと並ぶEOS R1。これだけの機材を用意しても、会期が進むと棚はスカスカになっていくという

キヤノン自慢の大口径超望遠ズーム「RF100-300mm F2.8 L IS USM」。まだ所有していない人からの貸出リクエストも多いそう

取材中も、貸し出し用の機材を足早に取りに来る担当者の姿が見られた

キヤノンのカメラ事業を統括する、キヤノン 副社長執行役員 イメージンググループ管掌の戸倉剛氏は「今回のアジア大会は日本で開かれるということで、より力を込めてお手伝いしたいと強く思っています。さまざまな歴史的瞬間や感動的なシーンを残すカメラマンのみなさんの仕事をサポートできることは、メーカーとして誇りに感じます。キヤノンのカメラがアジア大会で活躍していることが、一般の写真ファンや動画ファンにも伝わると嬉しいですね」と語りました。

キヤノンのカメラ事業を統括する、キヤノン 副社長執行役員 イメージンググループ管掌の戸倉剛氏

バスケの試合ではボリュメトリックビデオも活用

キヤノンは、アジア大会のバスケットボール競技でボリュメトリックビデオ技術を用い、試合の映像を自由視点に変換してTBSのテレビ中継や会場内での視聴に用いる試みも実施しています。ボリュメトリックビデオは、東京ドームの巨人戦テレビ中継でのリプレイ画像に使われているほか、アメリカのNBAの試合でも用いられています。

今回のアジア大会では、東京ドームやNBAでの導入実績をベースに、大幅な省人化や効率化を図っています。その鍵となるのが、NTTの大容量光通信ネットワーク「IOWN APN」の存在。東京ドームでは、ドーム内の敷地にサーバーを用意し、映像の処理もサーバールーム内で実施していました。しかし、遅延が少なく大容量通信が可能なIOWNを使えば、データをキヤノンの川崎事業所にリアルタイムで送信しながら川崎事業所から遠隔操作できるので、会場のIGアリーナは最小限の人員配置で済むようになりました。テレビ中継を実施しているTBSには、川崎事業所から映像を配信しています。

IGアリーナには、バスケットボールのコートをぐるり囲むように約100台のリュメトリックビデオ用カメラが設置され、試合の様子を撮影している

場所によっては天吊りで設置している

カメラは、デジタルシネマカメラ「EOS C300 Mark II」をベースにボリュメトリックビデオ用に改造したカメラを利用。交換レンズは、70-200mmのシネマレンズを用いている

基本的な操作やデータの処理はキヤノンの川崎事業所で行うため、会場のIGアリーナ内の人員は最小限で済む

会場のIGアリーナでは、スマートフォンを使ってボリュメトリックビデオの自由視点映像が楽しめるブースを設置し、来場者が次世代のスポーツ観戦を楽しんでいました。9月18日には、ボリュメトリックビデオの3Dデータを東京・虎ノ門の特設会場に送信し、MRデバイスを用いて好きな視点から試合を観戦する「3Dサテライトビューイング」の実証実験を実施。視聴用デバイスがあれば遠隔地でもボリュメトリックビデオによる自由視点での観戦が楽しめることから、今後スポーツ観戦の新たな形として注目されそうです。

IGアリーナ会場内のキヤノンブースでは、スマートフォンを使って自由視点での試合観戦が楽しめる

ボリュメトリックビデオ事業を担当する、キヤノン 常務執行役員 イメージング事業本部 IMG第三事業部長の甲谷英人氏(左)と、キヤノン イメージング事業本部 IMG第三事業部 IMG32事業推進センター所長の藤井賢一氏(右)

磯修 いそおさむ 1996年、アマチュア無線雑誌で編集者としてのキャリアをスタートし、その後パソコン雑誌やWeb媒体の編集者としてデジタル分野の記事を担当。2018年からマイナビニュース・デジタル編集部に加入。専門分野はカメラ、アップル製品とエコシステム、スマートフォン、デジタル家電関連、PCキーボード。画像生成AIなどAIまわりの進化の速さに追いつくべく奮闘しつつ、自身でよい写真を撮影することも心がけている。ニガテな動画撮影は鋭意勉強中。猫が1匹います。 この著者の記事一覧はこちら