「いっぱい寝る人ほど健康」は大間違い…東北大教授が「じつは死亡リスクを高める」と警告する睡眠時間
※本稿は、瀧靖之『「中年の壁」を乗り越える最良の方法』(宝島社)の一部を再編集したものです。
■「いらない記憶」はレム睡眠中に消去
睡眠は、体の健康を保つために必要ですが、心の健康を保つためにも頼もしい力を発揮します。ネガティブな感情を整理し、明日への活力を生み出してくれるのです。
例えば仕事で大きなミスをしてしまったとします。「すべて自分の責任だ」「信用をなくす」「上司に顔向けできない」、さまざまな思いが頭に渦巻き、自分を消し去ってしまいたくなります。ところが眠ることによって、この感情は整理されます。
睡眠にはレム睡眠とノンレム睡眠があり、これが交互に繰り返されます。ノンレム睡眠中には海馬が覚えておくべきと判断した記憶だけが、長期記憶として保存されます。一方、不要と判断した記憶は消去されます。また、レム睡眠中には情報が整理され、事実とネガティブな感情とが分離されます。

前日の夜にふと思い出してしまった不安が、朝になると大したことではなかったように感じた経験はありませんか? 眠ることで脳が整理されて、的確な対処ができるようになるのです。
つまり、完全にではありませんが、“寝れば忘れる”は本当だったというわけです。
■睡眠不足→ストレスホルモン→甘いもの
睡眠時間と脳は、密接な関係があります。睡眠不足だと脳の働きが鈍り、萎縮が早まります。そしてまたこの睡眠不足が、メタボ(メタボリックシンドローム)の原因となる脂肪の蓄積にも関わっているのです。
まずレプチンという食欲抑制ホルモンや、グレリンという食欲増進ホルモンの分泌が正常に行われなくなることがあります。さらに、コルチゾールというストレスホルモンも分泌されます。すると、甘いものを求めたり、脂肪を溜めやすくなったりします。
また、ある調査では、睡眠不足時は「気が大きくなり、慎重さを欠く判断をしがちになる」という結果も報告されています。つまり、睡眠不足は、食欲に任せて不摂生な食生活をする要因となるのです。このような生活を続ければ、内臓脂肪が蓄積し、メタボになるというのは容易に想像がつきます。
メタボとは、心臓病や脳卒中などの生活習慣病の前段階の状態のこと。中年以降のメタボは、若い頃に比べて大病につながるリスクが高くなるため、深刻に向き合う必要があります。健康な体を維持するためにも、睡眠の質と量にこだわりましょう。

■怒りっぽい人の脳で起きている「異変」
中年を過ぎて、妙に怒りっぽくなった、という人の話を聞きます。原因の1つに、海馬の萎縮が考えられます。
「快・不快」などの感情を司る扁桃体が過剰に反応すると、喜怒哀楽が激しくなります。そうならないようにブレーキをかけるのが、扁桃体の隣にある海馬です。
海馬は、加齢や長期的な睡眠不足などで萎縮します。働きが弱ると扁桃体を制御できなくなります。その結果、相手を思いやる気持ちが薄れたり、キレやすくなったりするというわけです。
■4時間睡眠のほうがイライラしがち
また、短期的な睡眠不足でも、脳の感情に関わる機能は衰えます。実際に20代の被験者で行った実験があります。5日間、8時間眠ったグループと、4時間眠ったグループを比べたところ、4時間睡眠のほうは、感情刺激(怒りの表情の写真を見せるなど)に対して、不快感をもちやすく、気持ちが不安定になることが、確認されました。
すぐにイライラする、キレやすくなったと感じているのなら、海馬が扁桃体の過剰反応を止められていないのかもしれません。睡眠の質を見直してみましょう。

十分な睡眠が脳によいことは、わかりました。では、眠る時間帯に優劣はあるのでしょうか。答えは「ある」です。早寝早起きが望ましいでしょう。
重要な仕事や、知的エネルギーを使う作業は、早朝に行うほうが効率が上がります。私もまさにこれを実行しています。起きて活動が始まると、時間の経過とともに脳は疲れていきます。脳がエネルギーに満ちている早朝にこそ、クリエイティブで大事な作業をすることが適しているのです。
■早朝は脳にとってゴールデンタイム
睡眠中に感情もリセットされ、起きたときはクリアな状態です。また、幸せホルモンと呼ばれるセロトニンは、朝日を浴びると、よく分泌されます。これによって気分も上昇し、意欲が増します。脳にしてみれば、早朝はまさにゴールデンタイムといえるでしょう。
「昔ほど集中力が続かなくなった」「若い人に能力的に負けている」などと感じているのであれば、なおさら早朝の仕事を試してみるとよいでしょう。
中年を過ぎると、一般的に朝早く目が覚めるようになります。そんな体の変化をうまく利用してみるのもよいかもしれません。
そもそも睡眠には、ストレスがかかった脳をリセットし、リフレッシュしてくれる働きがあります。不十分な睡眠では脳がリセットされず、萎縮を進めてしまいます。
では十分な睡眠とは、どのくらいの時間なのでしょう。さまざまな研究・調査が行われていますが、7時間程度がよいようです。
■6時間未満、9時間以上は死亡リスク高
成人の場合、睡眠時間が6時間未満の人は、7~8時間の人に比べて、死亡リスクが高まる結果が出ています。一方で、9時間以上の場合も、死亡リスクが高まる、という報告があります。

40~64歳を対象に「寝貯め」の効果を調査したところ、平日6時間未満の人が、休日に寝貯めをしても、死亡リスクはかえって高まる結果になりました。
寝すぎは、夜中に目を覚ます回数を増やし、睡眠の質を下げてしまうデメリットもあります。毎日の規則正しい睡眠習慣こそが大切だと考えましょう。
ただし眠れないときはしかたありません。あまり神経質にならず、布団の中で読書などをしてもよいでしょう。就寝時間が近づいたら、部屋の光量を落とし、気持ちを静めるのも1つの方法です。
■昼寝は夜の睡眠の質を下げる
睡眠は、7時間くらいが理想ですが、時間だけでなく質も大事。中年を過ぎると、夜中や早朝に目が覚めてしまうことも多くなります。加齢によって眠りが浅くなるのは自然の変化とはいえ、熟睡するためには、規則正しい生活を心がけ、同じ時刻に寝るようにしましょう。朝に日光を浴びるのも効果的です。
昼寝は疲れをとるためにはよいものですが、注意も必要。少し寝ることは頭をすっきりさせる効果がありますが、寝すぎると、夜の睡眠の質が下がるからです。どうしても眠いときは、15分だけ寝るくらいに。夕方4時以降の昼寝は夜の睡眠の質を下げるので控えましょう。眠らず、椅子に座ったまま目をつぶっているだけでも、目から入る情報が減り、十分な休息になります。
熟睡するために避けたほうがよいのは、寝る前の食事。胃が活発に働き、脳も休まりません。
寝る直前までテレビを見たり、パソコン作業をしたりすることも睡眠の質を下げてしまいます。光で脳が刺激されてメラトニンという睡眠ホルモンの分泌が抑えられてしまうからです。

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瀧 靖之(たき・やすゆき)
東北大学加齢医学研究所臨床加齢医学研究分野教授
東北大学スマート・エイジング学際重点研究センター長。株式会社CogSmart(東北大学発スタートアップ)代表取締役。医師。医学博士。東北大学加齢医学研究所および東北メディカル・メガバンク機構で脳のMRI画像を用いたデータベースを作成し、脳の発達や加齢のメカニズムを明らかにする研究者として活躍。読影や解析をした脳MRIは、これまでにのべ16万人に上る。著書に『生涯健康脳』(ソレイユ出版)、『「賢い子」に育てる究極のコツ』(文響社)、『回想脳』(青春出版社)、『脳医学の先生、頭がよくなる科学的な方法を教えて下さい』(日経BP)、『本当はすごい早生まれ』(飛鳥新社)など多数。メディア出演も「主治医が見つかる診療所」(テレビ東京)、「NHKスペシャル」「あさイチ」「チコちゃんに叱られる!」「クローズアップ現代」「バリューの真実」(以上、NHK)、「駆け込みドクター! 運命を変える健康診断」(TBS)など多数。
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(東北大学加齢医学研究所臨床加齢医学研究分野教授 瀧 靖之)
