「AIに聞けばいい」と丸投げしてばかりでは、判断力そのものが衰える可能性も。心療内科医・産業医の海原純子氏が、AI時代に生き残れる人の特徴と、仕事の質を左右する「立ち止まるべき5つのポイント」を解説します。(画像出典:PIXTA)

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AIが暮らしや仕事に浸透する今、あなたはAIにどこまで判断を委ねていますか?

Anthropicのダリオ・アモデイCEOらAI業界のトップが開発速度や安全性に警鐘を鳴らすなか、AIをどのように制御するかが世界的な論点になっています。

しかし、問われているのは開発企業の姿勢だけではありません。私たちも日々、「AIに聞けばいい」と頼る機会が増えています。心療内科医の海原純子さんによると、判断をAIに委ね続けると、自分で判断する力そのものが衰える可能性があるといいます。

海原さんと、ITコンサルタントのラスカウスキー照美さんの共著『AIに心を預けて大丈夫か 相談・恋愛・ビジネス・教育から見えてきた人間の未来』(飛鳥新社)から一部抜粋し、AI時代に生き残れる人の特徴と、仕事の質を左右する5つのポイントを紹介します。

【画像】「AIに丸投げ」から脱却! 自分の判断力を守るための「5つの立ち止まり習慣」

「判断」しない人が増えていく

AIの普及がもたらす最も大きな変化は、実は「仕事の効率」ではなく、人の意思決定の変化かもしれない。

これまで人は、「どちらがよいか迷い」「不完全な情報の中で決め」「その結果を引き受けてきた」。

しかし今は、「AIに聞けばいい」という選択肢が常に存在する。

このとき起きるのは、判断の外部化である。判断しないまま、決定だけが行われる。質問丸投げ、答えのコピペという教育現場で起きている問題が職場に持ち込まれる。

責任を感じないまま、選択だけが積み重なる。こうした状態は、一見効率的に見えるが、長期的には判断する力そのものを衰えさせる可能性がある。それだけに「人にしかできない仕事」ができる人の価値はアップする。

AI時代に残る「人にしかできない仕事」とは

では、AI時代においても残る仕事とは何か。それは、正解が不明な状況で判断する仕事である。

・方針や方向性を決める
・相手の感情や関係性とのかかわりで考える
・何が問題かを考える
・最後に責任を引き受ける

こうした仕事は、単なる情報処理ではない。むしろ、迷い・揺らぎ・不確実性の中で行う行為である。

McKinsey & Companyも、AIによって人は単純作業から解放され、問いを立て、結果を解釈する仕事へ移行すると指摘している。

つまり、これから求められるのは「答えを出す力」ではなく、「何を問うかを決める力」「AIにいかに仕事させるか」なのである。言葉を換えるといかにAIを使いこなせるかがカギになる。

AI時代に生き残る人の特徴

ここまでをまとめると、AI時代において生き残れる人の特徴は、次のように変わる。

・すぐにAIに頼らない人
・違和感を大切にする人
・答えを疑える人

そして何より重要なのは、「立ち止まれる人」である。

AIは速く答える。だからこそ、人は速く決めてしまう。しかしAIを使ってすぐに報告書や企画書を整えて提出する人は生き残れない。

一見すると仕事が速く、優秀に見えるかもしれない。しかしその多くは、「問いの設定を検討していない」「前提の妥当性を確認していない」「他の可能性を考えていない」状態で進められている。

つまり、「考えた結果」ではなく「整った出力」を提出しているにすぎない。AIの出した答えをコピペしているだけだ。

仕事の差は「どこで立ち止まったか」で決まる

AIを使えば、一定の質のアウトプットは誰でも短時間で作れる。そのため、仕事の差は「どれだけ速く出すか」ではなく、「どこで立ち止まったか」によって決まるようになる。

実際の仕事では、最初の数分で立ち止まった人が、最終的には最も効率よく、質の高い結果にたどり着くことが多い。

逆に、立ち止まらずに進んだ場合、

・後から方向修正が必要になる
・意図とずれた成果物になる
・信頼を失う

といった形で、見えないコストが積み重なるということも起こりうる。

では実際に、どの場面で立ち止まるべきなのだろうか。

単に「違和感を覚えたとき」だけでは不十分である。違和感は重要なサインだが、「忙しいと見過ごされる」「経験が浅いと気づけない」「集中力が低下しているときもある」という限界があるからである。

したがって、違和感に加えて、意図的に立ち止まるポイントを持つことが必要になる。

AIを使うときに立ち止まるべき5つのポイント

(1)問いを設定するとき

最も重要なのはスタートラインである。「何を問うのか」がずれていれば、どれだけAIを使っても正しい方向には進まない。

・この問いは本当に適切か
・問題の設定は正しいか
・前提に見落としはないか

ここで立ち止まることが、すべての質を決める。しっかり考えてから問いかける。これはプロンプト設計と言われる。

(2)AIの答えを見た直後

AIの答えは整っている。だからこそ、そのまま受け入れてしまいやすい。しかしここで一度立ち止まる。

・なぜこの答えになったのか
・他の見方はないか
・本当にこれでいいのか

この一手間が、思考停止を防ぐ。

(3)結論を採用する直前

最も重要なポイントである。「これでいこう」と決める直前に再度、

・他の選択肢は本当にないか
・リスクは何か
・この判断を説明できるか

を確認する。

違和感は「重要な問題の入口」

(4)違和感を覚えたとき

どこかしっくりこない。何となく変だ。納得できない。この感覚は、多くの場合、重要な問題の入口である。

・なぜ違和感があるのか
・何が引っかかっているのか

を言語化することで、問題の本質に近づくことができる。

(5)人に影響を与える判断の前

その決定が、誰かに影響する場合。

・取り返しがつくか
・相手の立場で考えたか
・説明できる判断か
・自分の判断として責任が持てるか

この段階では、スピードよりも慎重さが優先される。

これらは特別な才能ではない。むしろ、

・一度考えてからAIを使う
・小さな判断を自分で引き受ける
・振り返る

といった日々の積み重ねの中で育つ。立ち止まる時間は、速度を落とすためではなく、方向を確かめるために必要なのである。
著者:海原純子(心療内科医・産業医)
東京慈恵会医科大学卒業。同大講師、日本医科大学医学教育センター特任教授、ハーバード大学大学院客員研究員などを歴任。1986年に日本初の女性クリニックを開設し、復興庁「心の健康サポート事業」統括責任者も務めた。読売新聞「人生案内」回答者、毎日新聞「心のサプリ」連載中。

著者:ラスカウスキー照美(ITコンサルタント・トレーナー)
ペンシルベニア大学ウォートンスクールMBA修了。米国陸軍、Goldman Sachs、Symantecなどを経て独立。情報セキュリティの国際資格CISSP・CCSPを持ち、セキュリティ・クラウド・AI分野の企業研修や技術書の執筆を行う。(文:海原 純子)