父を心から尊敬していたんですが…〈還暦&定年祝い〉で実家に帰省した35歳長男。父の“退職金2,000万円”の使い道に驚愕「父さん、考え直してくれ!」【FPが解説】
「令和5年退職金、年金及び定年制事情調査」(中央労働委員会)によると、令和4年度の定年退職者への平均退職金支給額は約1,878万円でした。退職金はまとまった金額が手元に入るタイミングですが、使い道を誤ると、老後破産の危機に陥るケースも少なくありません。本記事では合同会社ミコサポ代表の三藤桂子FPが、Aさん親子の事例から老後のマネープランの考え方について解説します。※事例はプライバシー保護のため、一部脚色しています。
息子に大きな影響を与えた尊敬する父
Aさんは、両親と弟が1人。母からは「お父さんは商社に入社してからずっと同じ会社に勤め、部長まで昇進した」と聞いていました。Aさんが幼少のころ、土日も出社している父の姿を見ては、「家族のために頑張ってくれているんだ」と心から尊敬してたのです。そんな父は、一度も会社で働いたことがない母に配慮してか、毎月決まった生活費を母に渡し、自ら家計管理まで担っていることも母から聞いていました。
Aさんは父のようになりたいと勉強を頑張り、大学卒業後はIT会社へ就職。その後、取引先で知り合った女性と結婚しました。妻は「近ごろは共働き夫婦が多くなっているし、将来、子どもが生まれたときの教育費や家の購入資金を考えると、私も仕事を続けたい」と、結婚後も働き続けることを希望。Aさんは、自身の母が専業主婦だったこともあり、共働きに不安がありましたが、「確かに、昔と今では、働き方も多様化しているし、会社の先輩からも、『そのうちわかるだろうけど、子どもの教育費は大変だ』と聞いたしな」と、賛成します。
Aさんが35歳になった年、父は60歳。還暦と定年という人生の節目を迎えます。いまは本人が希望すれば、65歳まで働くことができるようになっているので、部長という肩書はなくなりますが、これまでと同じ会社で再雇用として働くことができます。
このころ、Aさんは仕事が忙しくなっていたので、なかなか実家に帰省できずにいました。そのため、父が定年後にどのような働き方を選んだのか、知らずにいたのです。
還暦と定年のお祝いで帰省…父が明かした「2,000万円」の使い道
父が還暦と定年を迎えたため、久しぶりへ帰ってお祝いでもしようかと考えたAさんは、母に連絡します。妻は仕事の都合でAさんと休みが合わず、「今回は親子水入らずで楽しんできて」と父へのプレゼントとして父のお気に入りの銘柄のお酒を用意して持たせてくれました。弟も少しの時間ならと日にちを合わせてくれたので、母にお願いして父が好きなお寿司屋さんに予約を入れてもらいました。
久しぶりに家族4人で食事をし、近況報告がひと段落したころ、父が話を切り出しました。
「60歳まで頑張って働いてきたから、これからは好きなことをしたい。再雇用でまだ働くし、退職金の2,000万円は、自分の好きなことに使いたい」
Aさんとしては、父の気持ちも一理あると思いつつも、老後資金として貯蓄がいくらあるの知らないので、素直に首を縦に振ることができません。いったいなにに使うつもりなのかと尋ねると、返ってきたのは家族全員が耳を疑うような回答が。
もともと車好きだった父は、「高級外車のオープンカーが欲しい」というのです。有名外車のオープンカーはグレードによって価格に大きな違いがありますが、Aさんの父が欲しがっている上級モデルの新車ともなれば1,500万円程度は掛かります。さらに諸経費や各種オプションを含めると、2,000万円を超えるかもしれません。つまり、退職金はすべて車に消えてしまうことになります。
「退職金をすべて車につぎ込んでしまうと、貯金はいくら残るの?」と不安そうにAさんは父に尋ねます。父はこれまで、自分の給与から生活費を母に渡していましたが、残ったお金は飲み会やゴルフなどで使ってしまうことが多かったそうです。「1,000万円くらいかな」と父は笑います。
商社の部長まで上り詰めた父親の蓄えとして、家族が想像していた金額よりはるかに少なかったため、Aさんたちは驚いてしまいました。
弟も「いや、外車のオープンカーってさ、若くてかっこいい人が乗っているからかっこいいのであって、老人がオープンカーから出てきても恥ずかしいって」と父を止めます。
父の思慮に欠ける発言に対し、Aさんはショックを受け、「父さん、考え直してくれよ!」と思わず声に出してしまいました。しかし父は、「自分が稼いだお金だから好きにしてもいいはずだ」と譲りません。
公的年金の受給見込み額を試算すると、父の年金は約220万円(月額19万円)。母の年金と合わせると、300万円(月額25万円)となります。日常生活費はなんとか賄えるかもしれませんが、高級車や自宅の維持費を貯蓄から切り崩すとなれば、1,000万円はあっという間に底を突くかもしれません。将来、介護や施設に入るなど、想定外のことが訪れたときのお金は足りなくなってしまう可能性が出てきます。
退職金のように一度に多額のお金が入ってくると気が大きくなってしまいがちです。たしかに退職金は会社に貢献したことへの感謝や労をねぎらう意味合いから慰労金という意味合いもあります。だからといって「自分で好きに使っていいだろう」と誤った使い方をしてしまうと、老後破産の危機に陥る可能性が高まります。老後破産してしまうと、自身だけでなく、配偶者や場合によっては子どもにまで迷惑を掛けてしまうケースも少なくありません。
年金や退職金は、一人ひとり、家族ごとに金額や使い方はさまざまです。老後の生活設計に少しでも不安や疑問がある場合は、取り返しのつかない状況に陥る前に、専門家へ相談してみてはいかがでしょうか。
三藤 桂子
合同会社ミコサポ
代表
