名将たちの人心掌握術(5)
シャビ・アロンソ

 筆者はスペイン人のシャビ・アロンソに三度インタビューした経験がある。現役時代に二度、監督になってから一度だ。

 現役時代はまだ20代前半だったが、大人びているというのか、ずいぶんと老成した印象だった。当時の所属先だったレアル・ソシエダ(以下ラ・レアル)には兄ミケル・アロンソがいて、彼にはアタッカー特有の明るさと若々しさがあったが、弟の落ち着きのほうが目を引いた。泰然とした様子には、ただ者ではない雰囲気があった。

 その後、世界最高のMFになって、さもありなんと思ったものだ。


2026-27シーズンはチェルシーを率いているシャビ・アロンソ photo by Reuters/AFLO

 アロンソはラ・レアルを皮切りに、リバプール、レアル・マドリード、バイエルンとビッグクラブに所属して、チャンピオンズリーグやスペイン、ドイツでのリーグ王者など、タイトルを総なめにしている。スペイン代表でも欧州選手権、ワールドカップで頂点に立った。凛々しく中盤に君臨し、「常勝将軍」と敬愛された。

 35歳で現役引退後、2018-19シーズン、レアル・マドリードU-14を率いて無敗で優勝。2019-20シーズンは故郷のラ・レアルBを率いると、1年目で多くの選手をトップに導き、2年目で2部に昇格させた。2022-23シーズンの途中からブンデスリーガで17位のレバークーゼンを率いると、一気に6位まで引き上げた。そして次のシーズンはブンデス無敗優勝を果たす。10年も経たずに名将の風格を身につけた。

 2025-26シーズンはレアル・マドリードを率いて途中解任されることになったが、クラブ内の問題に振り回された形で、その後も引く手あまただ。2026-27シーズンはプレミアリーグでチェルシーを率いている。

「監督は結局、本人のパーソナリティだよ」

 アロンソは、自らの監督論をそう明かしていた。

「起こっているプレーをどう感じ、どのようなサッカーをしたいのか。監督はその答えが自分のなかにないといけない。私は子どもの頃から、『もっとサッカーを理解するには?』って、いつも自分に問うてきた。90分間プレーして、勝った負けたで終わり、なんてことはあり得ない。どこで何をすればもっと向上できるのか、そのためには何が必要なのか、ずっと考えてきた」

【名だたる監督たちから信頼されて】

 彼のマネジメントは小手先のものではない。ピッチで周りをどう動かし、生かすか。それを考え尽くすなかで身についたリーダーシップだ。

 アロンソの土台にあるのは、父親だと考えられる。

「幼い頃から、家ではサッカーの話をずっとしていたよ。父が選手で、プレーも観てきた」

 父ペリコ・アロンソはラ・レアルの伝説的選手で、ラ・リーガ連覇に貢献し、バルセロナでもプレーした。息子シャビ・アロンソと同じくMFだった。ただし選手のタイプとしては削り屋タイプだったが。

 指導者になったペリコは2000-01シーズンにラ・レアルの監督を引き受けた。しかし、成績は10試合で2勝1分け7敗だった。目を覆うような批判に晒され、サッカー界から完全に姿を消した。

 息子は、父がプロという舞台でリスペクトされる姿と、容赦ない荒野で屈辱に晒される姿を目に焼きつけている。それゆえに甘えがないのだろう。少なくともプロとして啓発され、泰然自若とした風体を身につけた。

 レアル・マドリード時代は、気難し屋のジョゼ・モウリーニョも、アロンソには全幅の信頼を置いたほどだった。

「シャビ(・アロンソ)はまるでメトロノーム。チームにリズムを与え、プレースピードを調節できる。何より、孤高のメンタリティを持ちながら、チームを束ねられる」

 モウリーニョはそう言って、アロンソを自分の分身のように扱っていた。

「ピッチの指揮官」を託した監督は、モウリーニョだけではない。

 ラ・レアルではジョン・トシャック、レイノー・ドゥヌエ、リバプールではラファエル・ベニテス、レアル・マドリードではマヌエル・ペジェグリーニ、カルロ・アンチェロッティ、バイエルンではジョゼップ・グアルディオラ、そしてスペイン代表ではビセンテ・デル・ボスケと、いずれも錚々たる監督たちがアロンソを信頼した。

【誰も異論を唱えなかった】

 なぜなら、アロンソは派閥を作らなかったからだ。特定の選手たちと親しくすることも、監督の腰巾着になったりすることもない。中立を保っていた。裏で徒党を組んで、自分に得があるように状況を動かすようなことはなかった。

 簡単なことに思えるかもしれない。しかし、グループに属さずに独立した存在であり続けるには相当の実力と覚悟がいる。クラブ内にはさまざまな感情が渦巻き、さまざまな勢力が蔓延(はびこ)っているからだ。

 誰に対しても阿(おもね)ることはないだけに、アロンソは言葉に重みがあった。だからこそ、誰も「アロンソが言うなら......」と、異論を唱えなかった。パーソナリティに嘘がなく、詭弁を用いないことから、熾烈な競争が続くチーム内で、船が停泊するときの錨のような役を担っていた。

「チームが勝つことがすべて」

 アロンソにはその絶対的正義があって、勝利のために黙々とプレーをやりきった。このキャラクターはいわゆるキャプテンシーとはちょっと違うが、リーダーシップの一種だろう。

 その結果、アロンソが所属してきたチームはタイトルをつかみ、ほとんど例外なく好成績を収めている。それが「常勝将軍」の異名の由来だ。

 それは監督になっても変わらない。そのパーソナリティによって、人を束ねているのだ。

「これはヨハン・クライフが言っていたことだけど、『1番美しいのは、選手としてプレーすること。2番目に美しいのは監督』。私もそう思う。いまは監督になってみて、選手を通じてサッカーを楽しんでいるよ。目標は設定していない。現役のときもそうだったけど、目の前のことをひとつひとつ懸命にやってきた。日々、野心的に挑みながら、楽しんで前に進みたい。結果というのは後からついてくるものさ」

 孤高の男だからこそ、ここまで腹を括れるのだろうか。幼少の頃から、長い選手生活を通じて、そのパーソナリティを練り上げてきた。その揺るぎなさは、監督としてチームを束ねる柱だ。

シャビ・アロンソ
1981年、スペイン・バスク州トロサ生まれ。レアル・ソシエダの下部組織で育ち、現役時代はソシエダ、リバプール、レアル・マドリード、バイエルンでプレー。スペイン代表として2008年と2012年のユーロ連覇、2010年ワールドカップ優勝に貢献した。2017年に現役引退後、翌2018年にレアル・マドリードU-14監督に就任。レバークーゼン、レアル・マドリードを経て、2026年、チェルシーの監督に就任。

小宮良之●文 text by Yoshiyuki Komiya