タバコだけじゃない?歯肉がんを招く“意外な原因”とは【歯科医師監修】

歯肉がんは、一つの原因だけで発症するわけではありません。喫煙・飲酒・慢性的な刺激・口腔内環境の悪化など、さまざまなリスク要因が長年にわたって重なり合うことで発症すると考えられています。このセクションでは、なかでも特に関連が深いとされる「喫煙と飲酒の影響」と「お口への慢性的な刺激」について、そのメカニズムとともに解説します。

監修歯科医師:
柴原 孝彦(東京歯科大学名誉教授)

1979年東京歯科大学卒業、2004年東京歯科大学主任教授、2012年東京歯科大学市川総合病院口腔がんセンター長、2020年東京歯科大学名誉教授。
著書は「口腔顎顔面外科学(医歯薬出版)」「標準口腔外科学(医学書院)」「カラーアトラス コンサイス口腔外科学(学建書院)」「口腔がん検診 どうするの、どう診るの(クインテッセンス出版)」「衛生士のための看護学大意(医歯薬出版)」「かかりつけ歯科医からはじめる口腔がん検診step1/2/3(医歯薬出版)」「エナメル上皮腫の診療ガイドライン(学術社)」「薬剤・ビスフォスフォネート関連顎骨壊死MRONJ・BRONJ(クインテッセンス出版)」「知っておきたい舌がん(扶桑社)」「口腔がんについて患者さんに説明するときに使える本(医歯薬出版)」など。

歯肉がんの原因①:発症に関わる主なリスク要因

歯肉がんが発生する原因は単一ではなく、お口の中への物理的・化学的な刺激や生活習慣など、複数のリスク要因が長年にわたって重なり合うことで発症すると考えられています。

喫煙と飲酒の影響

口腔がん全般において、「喫煙」と「飲酒」は最大の危険因子(リスク要因)として確立されています。
たばこの煙には50種類以上の発がん性物質が含まれており、加熱式たばこであってもリスクはゼロになりません。また、コンビニ等でも手軽に入手できる「無煙たばこ(スヌースなど)」や「噛みたばこ」の習慣も、口腔粘膜へ発がん物質を直接接触させるため非常に危険です。

アルコールは体内で代謝される際に「アセトアルデヒド」という細胞毒性のある物質を発生させます。また、アルコールが粘膜のバリアを溶かすため、たばこの発がん性物質が浸透しやすくなります。特に日本人に多い、お酒を飲むと顔がすぐ赤くなる体質(アセトアルデヒドを分解する酵素の働きが生まれつき弱い体質)の人が飲酒と喫煙を続けると、お口や食道などのがんリスクが劇的に高まることが医学的に証明されています。「たばこを吸いながらお酒を飲む」という習慣は、互いの有害性を強め合う相乗効果を生み出すため、国立がん研究センターなどの調査でも、「喫煙と飲酒の両方の習慣がある人」は、口腔がんの発症リスクが何倍にも跳ね上がることがわかっています。

慢性的な刺激と口腔環境の悪化

喫煙・飲酒に並んで重視されるのが、お口の中への「慢性的な機械的(物理的)刺激」です。
合っていない義歯(入れ歯)や、割れたまま放置された尖った歯が、いつも同じ歯ぐきに当たって傷を作り続けていると、細胞の修復過程で遺伝子にエラー(突然変異)が起きやすくなり、がん化につながります。「入れ歯が合わずに当たって痛いけれど、市販の安定剤でごまかして我慢している」「むし歯で歯が欠けて、歯ぐきや粘膜にチクチク当たる」といった場合は、自己判断で放置せず、早急に歯科医院で調整や治療を受けましょう。

また、むし歯や歯周病を放置し、お口の中が不衛生な状態(口腔内細菌の増殖)が続くことも、発がんリスクを高める要因です。増殖した歯周病菌などの細菌が作り出す毒素によって、歯ぐきが常に炎症(慢性炎症)を起こし、がん細胞が発生・増殖しやすい土壌が作られてしまうためです。毎日の丁寧な歯みがき(セルフケア)と、定期的な歯科医院での専門的な歯石取りやクリーニング(プロフェッショナルケア)でお口の中を清潔に保つことは、単なるむし歯・歯周病予防にとどまらず、歯肉がんを予防するうえでも非常に大きな意味を持っています。

まとめ

歯肉がんは「治らない歯周病」として見過ごされやすく、発見が遅れると顎の骨や重要臓器にまで影響を及ぼす恐ろしい疾患です。特に上顎の歯肉がんは進行がわかりにくく、若年者であっても発症するリスクがあります。
「2週間以上治らない口内炎」や「治療しているのに治らない歯ぐきの腫れ・出血・歯のぐらつき」に気づいたときは、決して自己判断せず、迷わずかかりつけの歯科医院や歯科口腔外科を受診してください。お口の中の小さな変化を見逃さないことが、あなたの命を守る最大の鍵となります。

参考文献

国立がん研究センター「口腔・咽頭がん」

厚生労働省「高額療養費制度を利用される皆さまへ」

国立がん研究センター「口腔がん」

厚生労働省「傷病手当金について」

国立がん研究センター「がん相談支援センターを探す」