逆転勝訴を報告する原告代理人の指宿昭一弁護士(16日都内/弁護士JPニュース編集部)

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産業廃棄物処理業「株式会社中商」(川崎市)の労働者、奥浜正仁氏が、稼働中のスクリューコンベアに左手を巻き込まれて後遺障害を負った労災事故をめぐる損害賠償訴訟の控訴審において、16日、東京高裁(三木素子裁判長)で判決が言い渡された。

一審の横浜地裁川崎支部は会社側の安全配慮義務違反を認めず、原告の請求を全部棄却していた。しかし東京高裁はこれを覆し、「被告の安全配慮義務違反が認められる」と判断。逆転勝訴となった。ただし原告の過失割合は6割と認定され、最終的な賠償額は請求額1313万2199円に対し、263万291円にとどまった。

「命を落としても不思議はなかった」現場の実態

事故が発生したのは2023年4月22日。奥浜氏は、産業廃棄物の焼却で生じた煤塵(ばいじん)を搬送するスクリューコンベアの点検清掃作業中、蓋(ふた)が取り外された状態で稼働するコンベアのトラフ(金属製の函体)に左手を入れ、回転中のスクリューに巻き込まれた。左手掌を負傷し、後遺障害等級11級(上肢の関節の機能障害)が認定されている。

判決によると、事故当時のスクリューは外径約180ミリメートルのらせん状の羽根を持ち、約6秒で1回転していた。

労働安全衛生規則107条1項は、こうした危険機械の清掃・点検作業に際して原則として運転停止を義務付け、例外的に稼働を続ける場合は「危険な箇所に覆いを設ける等の措置」を講じるよう定めている。しかし会社は、開口部に金網等を設置していなかった。さらに作業マニュアルも存在していなかったという。

原告側代理人の指宿(いぶすき)昭一弁護士によると、同社では過去5年間(2019年~2023年)に、焼却炉内での熱傷事故(2名)、フェンス未設置箇所からの落下による両踵(かかと)骨折、破砕機への巻き込まれによる手首切断など、少なくとも8件の重大な労災事故が繰り返されていた。「命を落としても不思議はなかった」レベルの事故が続いていたとしている。

一審は従業員証言に基づき「手順確立」と認定

一審判決(2025年11月28日)は、会社が作業マニュアルを作成していなかった事実を認めながらも、従業員4人の証言に基づいて「作業手順が確立・周知されていた」と認定し、安全配慮義務違反を否定。原告の請求を棄却した。

これに対し原告は控訴し、「マニュアル等の文書がないにもかかわらず、労働者の証言だけで『ルールが確立していた』と認めるなら、どんな労災事故も会社が従業員を証人に立てれば安全配慮義務違反を免れることになってしまう」と、制度上の危険性を指摘していた。

東京高裁、「金網未設置」で義務違反を認定

東京高裁は、一審の判断を根本から覆した。本判決は「被告が本件事故当時、開口部に金網等を設置するなどの、危険な箇所に覆いを設ける等の措置を講じていたとは認められない」と指摘し、安全配慮義務違反を明確に認定した。

会社側は「機械を運転しなければ作業を完全には行えない」「金網設置は作業効率の妨げになる」「十分な長さの用具を使用していた」などとし、安全配慮義務を履行したと主張した。しかし高裁はこの主張を退けた。

作業に使用されていたとされるケレン用具については、「トラフに手を入れずに作業を行うことができる程度の長さの柄を備えたものとはいえず、十分な長さの用具であるということはできない」と断じた。

一方、原告の過失割合については、原告が「2割以下」を主張したのに対し、高裁は6割と認定した。

原告が運転中のトラフに手を入れた行為を「重大な傷害の結果を引き起こす危険な行為であることは明白」と評価し、さらにトラフに入れた手から目を離したことも重視した。この過失相殺により、認定損害総額(約1289万円)から6割を控除し、労災給付金約277万円を差し引いた結果、賠償額は263万291円となった。

「安全義務違反を認めたことが最大の成果」と原告

会見で指宿弁護士は「安全配慮義務違反が認められた点は何よりも重要だ。一審は労働者が全部悪く、会社は1%も悪くないという判断だった。それが覆された」と評価した。

ただし、過失6割の認定については「私たちは2割以上はおかしいと強く主張していた。この点は納得できない」と述べた。

奥浜氏自身は「安全配慮義務違反を裁判官が認めたことが何よりの救い。今日の判決をもって勝利したと実感している。これから新たなスタートラインだ」と語った。奥浜氏は定年後も再雇用で、現在も中商で働いている。

日本労働評議会神奈川県本部の佐藤美悠人(さとうみゆと)委員長は「一審は会社の主張を全面的に取り入れた判決だった。高裁が安全配慮義務違反を認めたことは大きな成果だが、会社が本当に反省し安全な職場を作るかどうかは、これからの交渉にかかっている」と述べた。

指宿弁護士は今後の方針についても言及し、「産廃処理業をはじめとする現場労働者の命と生活、尊厳を守るために不可欠な闘いだ。今回の逆転認定を足がかりに、会社に対して安全衛生対策の点検と安全宣言を求める交渉を続けていく」と語った。