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正式なデータを見たこともなければ、確認したこともないが、地方の裁判所に窃盗罪で出廷してくる被告人は比較的年齢層が高いと感じる。

生活保護を受給している老人もいれば、年金等で生活は出来ているものの困窮している老人。大抵の被告人は大それたものは盗まない。おにぎり、ワンカップ、医薬品、総菜、すしパック。日常でちょっと食べたい物、必要な物を盗むことが多い。

時折、被告人質問で話が通じない、会話が成り立たない老人がいる。そんな裁判を傍聴していると日本の高齢化社会問題、自分が年老いていくことへの不安がさざ波のように傍聴席に押し寄せてくる。

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10年前から窃盗、道交法違反を繰り返すように

令和8年7月28日、大分地裁に刑務官に連れられ出廷してきた被告人は69歳であった。

令和7年12月15日、コンビニで焼酎ワンカップ(192円)を盗み、今年1月3日に酒気を帯び自転車を運転し、窃盗罪、道路交通法違反に問われた。

老人は平成27年に窃盗、道交法での罰金刑、平成29年に窃盗、道交法(無免許運転)での執行猶予付き判決、令和6年に窃盗での前歴、令和7年2月に自転車の酒気帯び運転で罰金刑の前科3犯前歴1件を有している。

離婚歴があり、平成29年から生活保護を受け、単身で暮らしている。

人定質問が終わり、裁判官から起訴状の受領を確認されると老人は答える。

「すみません、自分で言うのもあれなんですけど認知が入っていまして...覚えてません」

その後、起訴状が読み上げられ罪状認否を問われると、

「すみません、よう覚えとらんのですけど、よう覚えとらんのですよ。すみません、記憶がなくて...物忘れが酷くて...きっと事実なんでしょう。大した答えが言えなくて申し訳ありません」

老人は自身が認知症で犯行自体も覚えていないと述べる。裁判は法曹三者と被告人がまったくかみ合わないまま進行していく。

弁護人「防犯カメラだと行きは自転車を押して行っていますよね?自転車は買い物した荷物を載せるために押していったのに、なんで帰りに乗っちゃったの?」

被告人「よく覚えとらんのですよ。警察に捕まったのは覚えとるんですが...」

弁護人「5月27日に検察庁で取調べ受けたのは覚えています?」

被告人「よく覚えとらんですねぇ」

弁護人「直近でいうと令和7年2月に自転車の酒気帯びで10万円の罰金刑を受けているんだけど?」

被告人「覚えとらんですねぇ」

弁護人「今後、しないためにどうします?」

被告人「しちゃいけん事をしていますからね。現にここにいるわけですから。自分でもイライラします。もうしません」

検察官の質問になぜかずっとキレ気味の老人

検察官「やったことに間違いはないですか?」

被告人「はい。違いますとは言えませんよ!(なぜかキレ気味)」

検察官「もうしないと言えるのはなぜですか?」

被告人「こんなことしたくないから」

検察官「こんなこととは裁判を受けたくないってこと?」

被告人「そうです」

検察官「またここに来たことを忘れて罪を犯すんじゃありませんか?」

被告人「わかりません」

検察官「私としては、またあなたが罪を重ねるのは嫌なんですよ」

被告人「なんであなたが嫌なんですか?(なぜかキレ気味)」

検察官「お金の管理をしてくれる人、友だち、知人はいますか?」

被告人「いません。一人暮らしですよ!?(なぜかキレ気味)」

裁判官「お店って万引きをされ続けたらどうなると思いますか?」

被告人「は?それが私と何の関係があるんですか?(キレ気味)」

裁判官「あなたが盗んだものを補填(ほてん)するのにその商品を何個売らないといけないと思いますか?」

被告人「何が言いたいんですか?理解に苦しみます(キレ気味)」

その後も裁判官が理解させようと質問を繰り返すもまったくかみ合わず、裁判はよくわからないまま終盤に差し掛かる。

検察は手慣れた犯行であり、罰金刑、交通違反を多数有しており酌むべき点はないとして、老人に拘禁刑6月を求刑した。

裁判官「これで審理を終結します。次回、判決宣告となります。被告人は最後に言っておきたいことがあれば言って下さい」

被告人「私が何をいうんですか!?(キレ気味)」

裁判官「いや、あの、判決前に何か言っておきたいことがあれば...」

被告人「あ、あぁ。こういう目に遭って、もうしたくないです。今からもっと物忘れが酷くなる自分が怖いです。もう二度としません」

判決期日を決めるのも一苦労

裁判は終結し、法曹三者で次回判決の期日の打ち合わせが始まる。丁寧にも裁判官が「今、次回の期日を決めていますからね」と老人に一言声をかける。

すると、「それ私に何の関係があるんですか!?」と老人はまたキレだした。そこでまた裁判官の説明が始まり、老人はようやく理解した。

裁判官「被告人、これから裁判所がお休みに入るのですが、8月1週目か9月以降だったらどちらが良いですか?」

被告人「8月は堪えて下さい。出来れば8月よりもっと先に延ばしてもらった方がありがたいです。体調が悪いんです。暑くて...」

裁判官「そうですか。では9月にしましょうかね。9月2日にしましょう。被告人、それでいいですか?」

被告人「そんな先のこと保障できませんよ!!身体がどうなっているか!?(ブチギレ)」

裁判官「...でも、8月は嫌なんでしょ?」

被告人「そうですね。8月は堪えて下さい。お願いします」

読者が理解しやすいよう、この傍聴記では裁判の内容をかなり要約した。傍聴しただけでも体力を消耗した気分であったのだから、法曹三者は骨が折れたことだろう。

高齢化社会の昨今。裁判所でも今後、話の通じない老人が増えていくのだろうか。そして、私もその一員となっていくのだろうか。

9月2日、理由はわからないが判決公判は延期となり、同月8日に判決宣告がなされた。

8月の暑さを乗り越え、無事に出廷した老人は杖をついてゆっくりと証言台に座り、裁判官から拘禁刑6月執行猶予3年の判決が言い渡された。

判決理由、特に執行猶予について丁寧に説明を受けた老人は裁判官に言った。

「ちょっといいですか?私、かなり認知が進んでいるんで、言われたことが今はわかるけど、3カ月、4カ月経つと覚えとるかわからないんですよ」

文/田辺朋之 内外タイムス