能登半島豪雨 1000年に一度の大雨に襲われた「水没の街」を歩いた
再び災害に翻弄された住民たち
「能登半島地震で被災して、ようやく落ち着いてきたところだったのに。まさか、こんなことになるなんて……」
膝まで水に浸(つ)かりながら、富山県氷見(ひみ)市在住の50代男性は力なく呟(つぶや)いた。
8月26日から27日にかけて富山県・石川県は記録的豪雨に襲われ、命の危険が迫る「レベル5大雨特別警報」が発表された。富山県氷見市では24時間の雨量が362㎜に達し、これまで観測史上1位だった224.5㎜を大幅に更新。石川県羽咋(はくい)市でも343㎜を記録した。気象情報会社『ウェザーニューズ』によると、この「能登半島豪雨」は1000年に一度の前代未聞の雨量だという--。
大地を叩き割るような轟音(ごうおん)と稲妻、途切れることのない雨音に、県民の誰しもが安眠することは叶わなかったのが現実だ。住宅被害は両県で1000棟超、60人以上が避難所での生活を余儀なくされている(9月6日現在)。
8月27日、被災地を訪れた本誌記者はその惨状を目の当たりにする。川、田んぼ、道路……その境界は完全に消え、「水没の街」と化していたのだ。冒頭の男性に話を聞いた後、氷見市で農業を営む70代の男性に出会った。男性は、「ここら辺は全部田んぼや畑だったんだよ」と静かに口にする。
「経験したことのない豪雨で家も車も浸水した。もう、何もかも失ったのと同じだ。丹精込めて育てた米も野菜も、泥水に浸かってしまった……ダメやろうな」
まだ降り続く雨に打たれながら立ち尽くす男性の姿には、言いようのない疲労と絶望が滲(にじ)んでいた。
富山県や石川県で記録的豪雨が発生した3日後の8月30日には、福井県でもレベル5の大雨特別警報が発表された。対象となったのは、福井市・大野市・勝山市。しかし、被害が深刻だったのはこの3市だけではない。雨量指数が判断基準に達さず、特別警報が発表されていなかった坂井市も相当な被害を受けていた。
豪雨によって壊された日常
国道8号をはじめ幹線道路は軒並み冠水で通行止め。河川は氾濫し、場所によっては歩いていると膝から太ももほどまで水が迫るほどだった。
取材中に遭遇した50代の父親と20代の娘は懐中電灯を水中に入れ、「出勤中に流されてしまった車のナンバープレートを探しているんです」と困惑の様子。さらに豪雨の影響で急遽、仕事が休みになったというダンプカーの運転手は、苦悶の表情を浮かべこう述べた。
「ダンプカーだって水には弱い。この水位ではとてもじゃないけど走れません」
印象的だったのは、床上浸水した自宅に住めなくなったという40代の男性だ。体重20㎏以上はありそうな大きな犬を抱え、子供と一緒に歩いていた。
「今から家族みんなで親族の家へ避難します。犬も家族ですから」
’24年1月1日に発生した能登半島地震から2年以上が経(た)ち、復興の途上にある北陸を今回の記録的大雨が襲った。なぜここまで甚大な被害をもたらす豪雨が起きたのだろうか。三重大学大学院生物資源学研究科の立花義裕教授が解説する。
「背景にあるのは地球温暖化による海水温の上昇です。今年は日本海の海面水温が平年より3℃高く、海から大量の水蒸気が供給された。さらに前線が北陸付近に停滞し、台風と太平洋高気圧の影響で湿った空気が次々と流れ込んだことで、記録的な豪雨につながったんです。
今後も温暖化による豪雨災害は増える可能性があります。とくに今回の北陸のように、これまで豪雨の経験が少なかった地域では対応に慣れておらず、被害が大きくなる恐れがあるので注意が必要です」
日本のどの場所でも、同じ光景を目の当たりにしてもおかしくないのだ。
『FRIDAY』2026年9月25日号より
