宇宙人から見たら「人類は本当に知的生命か怪しい」…その理由は「太陽の数」だった
もし未知の異星人から「あなたはどこから来ましたか?」と問われたら、どう答えますか?
「地球から」という回答は、宇宙規模の社交場では失笑を買ってしまうかもしれません。実は私たち地球人は、ある決定的な理由により、宇宙の平均レベルよりも科学の発達が遅れている可能性があるのです。
ファーストコンタクトの日に恥をかかないために必要なのは、地球の狭い常識ではなく、宇宙のどこへ行っても通用する「普遍的な教養」と「宇宙的思考法」です。
多種多様な異星人が行き交う宇宙ステーションで繰り広げられる、知的で刺激的な問いの数々。宇宙で真に求められる「本当の科学知識」とは一体どのようなものなのか、その知的な冒険の一端をぜひ覗いてみてください。
※本記事は、講談社『宇宙人と出会う前に読む本 全宇宙で共通の教養を身につけよう』(高水 裕一)の内容を抜粋・再編集したものです。
まさかの「ケプラーの第3法則」登場!
「まず、この式は知ってるかな」
そう言って彼が紙にこう書いたのを見て、あなたは仰天しました。
R3/T2=M+ m
「どうして私が地球人だとわかったんですか!?」
「あんたを見ればすぐにわかるさ」
この人は何者なのか。どうして地球の文字を知っているのか。まさか本当にヨーダ? いろいろ質問攻めにしたいところですが、時間も限られているので我慢して、式をにらみます。見たことがある気もしますが思い出せません。そう答えるとヨーダは、ふん、と鼻を鳴らしました。
「なんだ、こんな大事な法則も知らんのか」
またカチンときます。口が悪いよこの人。でも自分の惑星の法則について宇宙人にそう言われては、ぐうの音も出ません。ヨーダは立て板に水が流れるように、話しはじめました。
「すべての天体の運動は、あるフォースによって支配されている。地球では、それを万有引力と呼んでいる。発見したのはアイザック・ニュートンという、地球人にしては知的レベルが高かった科学者だ。彼は考えた。地上の木からリンゴが落ちるのは地球とリンゴの間に万有引力が働くからだ。同じように地球と太陽の間にも万有引力が働いているから、地球は太陽に落下しつづける。しかし地球には遠心力も働いているので、太陽に落ちずに周囲を回転している」
どうして地球の科学史にまで精通しているんだ? あっけにとられながらも、あなたはいつしかメモをとりはじめています。
「ところが、ニュートンより前に、宇宙の惑星の運動について同じことを考えた天文学者がいた。ヨハネス・ケプラーだ。彼は太陽を公転する惑星について、3つの法則を発したが、その3つめがこの式だ。惑星の公転周期の2乗は軌道の長半径の3乗に比例するという、地球では『ケプラーの第3法則』と呼ばれているものだ」
ヨーダの翻訳機はものすごく高性能らしく、難しい言葉もわかりやすくクリアに聞こえます。
「この式でいえばTが公転周期、Rが軌道の長半径。Mとmはそれぞれ恒星Mと惑星mの質量。Mとmの距離がRだ。具体例を挙げたほうがよさそうだな」
ヨーダは、太陽と地球の関係を例に挙げて続けました。
「あんたの惑星で使っている単位に合わせて、Tは年、RはAU(天文単位:太陽と地球の間の平均距離を1とする)としよう。Mは太陽の質量、mは地球の質量で、単位はいずれも太陽質量(太陽の質量を1とする)だ。さて、まず左辺だが、地球は1年で太陽を公転するのでT=1。また、軌道の長半径とは太陽と地球の距離のことなので、R=1。次に右辺は、Mは太陽の質量だから当然、1。また、Mはmよりも圧倒的に大きいので、mは無視できる。したがって右辺は1だ。結局、左辺も右辺も1となるので、この法則は正しいことがわかる」
そのあとヨーダは、太陽系のほかの惑星のRの値を紙に書いて、こう言いました。
「公転周期Tが何年になるか、自分で計算してごらん」
ヨーダの博識に舌を巻きながら、あなたは木星と土星で計算してみます。
木星のR(軌道の長半径)は約5AUと書いてあるので、
R3/T2=M+mは、
125/T2=1となり、
T2=125
T=√125≒11(年)となりました。
一方、土星のRは約10AUなので、T=√1000≒31(年)です。
では、実際のそれぞれの公転周期はといえば、木星は約12年、土星は約30年。おお、みごとに、ほぼ一致している! ケプラーの第3法則を初めて実際に使えて、少しいい気分です。
するとヨーダは、「はい、前置きはここまで」と言って席を立つと、なにやらカップに入った飲み物らしきものを2つ持ってきて、1つをあなたにすすめてきました。野菜が入った温かいシチューといった趣で、こわごわ飲んでみると辛いけれど意外にいけます。
身体にいいんだぞ、とヨーダは片目をつぶりました。
2つの太陽があるとどうなるか
「ここからが本題だ」
すっかり、ヨーダ先生のミニ講義のようになってきました。
「地球人のほとんどはこの法則を知らんようだが、それも太陽が1つしかないからだ。普通に太陽が2つ以上ある惑星では、この法則を知らないと一日の長さもわからない。だから多くの惑星では、知的生命はかなり早い段階でこの法則を発見するし、子どもたちも自然に覚えてしまっている。地球人が本当に知的生命といえるのか、怪しいところだな」
相変わらずトゲのある言い方にはむっとしますが、太陽が2つある惑星での一日はどうなるのか、あなたは興味津々になってきました。
「太陽が2つあると、まず日の出をどちらの太陽が出たときにするかで悩む。どちらかの太陽が圧倒的に大きければそっちを基準にすればいいが、同じくらいの大きさだと、そもそも区別もつけにくい。そして日の出が決まらなければ、一日の始まりも決められない」
先に地平線に上がったほうを日の出にして、最後に沈んだほうを日の入りにすればいいのではないでしょうか、とあなたが言うと、ヨーダはまた、ふん、と鼻を鳴らして言いました。
「太陽が1個しかないやつの発想だな。2つの太陽は、先に上がったほうから順に沈むとは限らない。途中で順番が入れ替わり、あとから上がったほうが先に沈むこともある。入れ替わる途中で2つが完全に重なって見分けがつかなくなることもある。その入れ替わりが日の入りまでに何回も起こることもある。そしてきょう先に上がった太陽が、明日も先に上がるとも限らない」
太陽が空を通る経路を「黄道」ということは、みなさんは中学校の理科で習っています。太陽が1個なら、黄道はもちろん1本で、南の空を中心に半円を描きます。これは地球の公転軌道がつくる軌道面が、つねに太陽の自転に平行だからです。ところが、太陽が2個ある場合はお互いが回りあう回転面と、惑星の軌道面は斜めに交わっているのが普通です。すると惑星からは2個の太陽の動きを斜めに見ることになるので、見かけの動きがとんでもなく複雑になるのです。もはや黄道はぐちゃぐちゃになってしまうでしょう。
「だから日の出だけ定義してもだめで、2つの太陽がどのような規則で動いているのかを知らなければならないのさ。そこで必要になるのが、この法則だ。ケプラーは太陽系の惑星の動きを知る法則として発したが、これは連星にも使える。お互いが回りあっている連星は、一方が一方を公転しているとみなせるからだ。恒星どうしのおおまかな距離Rがわかれば、公転周期Tがわかり、2つの太陽の動きを予想することができる。つまりこれは、宇宙普遍の法則なのだ」
ヨーダはもう一度、ケプラーの第3法則を書いた紙を広げました。
R3/T2=M+m
「さっきはMを太陽の質量とし、mを惑星の質量として無視したが、今度はそれぞれを太陽の質量と考える。mも太陽なのでMと同じ大きさとみなし、M=m=1とする。したがって右辺はM
+m=2だ。また、左辺のRは、今度は2つの太陽の距離だ。なんとかそれを知ることができれば、公転周期Tを求めることができる。
試しに計算してみよう。たとえばR=0・1AUだと推定できたとする。AUはさっきも使った地球の『天文単位』だ(太陽と地球の平均距離:1AUは1495億9787万700 m)。すると、Tは地球の『1年』の単位でいえば約0・022年=約8日となり、2つの太陽は約8日で公転し、元の位置関係に戻ることがわかる。おおまかにいうと、2つの太陽は、5日間は横並びで、ただし距離は日ごとに縮まる。そして1日だけ重なり、次の1日は前後が入れ替わり、また1日だけ重なる(図3‐4)。このように、めちゃくちゃに見える太陽の動きが予測できるようになるから、この法則は不可欠なんだ。
さらに2つの太陽の距離を近づけて、R=0・01AUとしてみると、T=約6時間となる。2つの太陽がたった6時間周期で回りあうということだ。日の出直後は横に並んでいた太陽は、1時間半後に1つに重なり、3時間で完全に位置が入れ替わる。この変化が、日の入りまでを12時間とすれば4回も起こるわけだ。あんたには想像もつかんだろう。だが繰り返すが、宇宙ではこっちのほうがノーマルなんだ。それどころか太陽が3つある世界も、4つある世界もある」
あなたは考え込んでしまいました。地球人は文明を築いてから長い間、地動説か天動説かで争ってきました。ケプラーが法則への道筋を開くまでには、師匠のティコ・ブラーエが長年、天体の運行を目視して蓄積した膨大なデータと、望遠鏡を初めて宇宙に向けたガリレオ・ガリレイによる木星の4つの衛星(ガリレオ衛星)の観測がありました。そうした長い歴史があってようやく地球人が目を向けた天体現象が、ノーマルな惑星では複数の太陽の動きとして毎日あたりまえのように起こっている。まるでケプラーの法則を見つけてくださいと言わんばかりに……。
連星の太陽をもつ人たちは、毎朝、きょう一日が何時間あるのかをチェックしているのかもしれません。地球人には信じられない面倒くささです。しかし、そのぶん天文学や数学は、地球人とは比較にならない速さで発展するでしょう。そう考えるとなんだか、地球人の文明がとても頼りないものに思えてきました。
「そうだ、カレンダーの種明かしをしなきゃいけなかったな」
ヨーダの声で、あなたはわれに返りました。
「異なる太陽」による「異なる一日」
「これは『夜がない日』という意味だ」
ヨーダは、あなたが気になっていた日付がダブっているカレンダーを広げて、紙に図を描きながら説明を始めました。
「太陽が2つある惑星では、2つの場合が考えられる。惑星が2つの太陽を回る場合なら、いつも2つの太陽がほぼ近い位置に見えるので、地球の場合とさほど変わらず、昼は昼、夜は夜のままだ。しかし、1つの太陽のまわりだけを回っている場合、もう一方の位置は複雑になり、その太陽がどの位置にあるかによって、昼や夜の様相がまったく変わってくる。
たとえば2つの太陽が離れているときは、昼間は太陽が1つだけの世界と変わらないが、夜にはもう1つの太陽が、地球で見る月と同じように、明るく見える。あんたたちが見たこともない『夜中の太陽』だ。
その後、太陽が次第に接近してくると、もう1つの太陽も昼間に見えるようになってくる。では、最も接近したらどうなるか。一見、昼に重なって見えるだけのようにも見えるが、片方がちょうど正反対の位置にくる場合が実現する。2つの太陽の間にちょうど惑星が位置するときだ。この位置関係は、上の『夜中の太陽』と同じだけれど、今度は太陽との位置が圧倒的に近いので、夜ではなくなってしまう。日没のあと、すぐに2つめの太陽が出てくる。つまり、事実上、夜がなくなり、2つの太陽により異なる一日が繰り返されることになるのだ」
話のややこしさに、あなたはついていくのに必死です。
「このカレンダーは、その期間を表したものだ。1つめの太陽の日付を『16日』とすれば、隣に2つめの太陽の日付を『16'日』として並べてあるわけだ」
これもまた、驚くべき話です。地球にも北極や南極の付近では、夜でも明るい白夜はありますが、白夜の場合、太陽そのものは沈んでいるのですから話が違います。夜もずっと太陽が輝いていると、どんな影響があるのでしょうか。きっと生きものの暮らしぶりもずいぶん変わってくることでしょう。
「夜がない日がどのくらいの期間や間隔で繰り返されるかは、もちろん2つの太陽の距離によって違う。三重連星や四重連星なら、さらに複雑になってくる。それだけカレンダーも、多種多様になってくるというわけだ」
さらにヨーダは、たたみかけるように話を続けます。
「連星でなく、1つだけの太陽でも変なカレンダーはあるぞ。たとえば、ある惑星のカレンダーは、2年で1日になっている。最初の1年はずっと昼で、次の1年はずっと夜が続くんだ。スペクトル分類でK型やM型の星は低温なので、そこを回る惑星に生命や水が存在するには、太陽の近くを回る必要がある。するとお互いの自転が同期して、惑星は太陽に同じ面しか向けないようになる。地球にとっての月と同じだ。太陽が一年中沈まないので、一日が一年よりも長い暦になるんだ。地球のお隣の水星にも、もし水星人がいたらそんなカレンダーになる」
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