保護者の苦情、どこから「カスハラ」?文科省が新指針、弁護士が懸念する「いじめ訴えまで切り捨てる」危険
保護者から繰り返し電話をかけられる。長時間にわたって拘束される。暴言を浴びせられる──。
学校現場で、保護者や地域住民らによる過剰な苦情や不当な要求が問題となっている。
文部科学省は8月28日、こうしたカスタマーハラスメント(カスハラ)から教職員を守るため、「学校と保護者・地域住民等とのより良い関係構築のためのガイドライン」を公表した。
今年10月から事業主にカスハラ対策が義務付けられることを踏まえたものだ。
ガイドラインでは、教職員一人に対応を任せず、必要に応じてやりとりを録音したり、警察や弁護士など外部の専門家と連携したりすることを求めている。
ただ、難しいのは「カスハラ」と「正当な苦情」の線引きだ。
保護者は、子どもを守るために学校へ厳しい意見を伝えなければならないこともある。そうした訴えまで「カスハラ」と扱われれば、いじめなど深刻な問題を見過ごすことにもなりかねない。
では、学校はどこからを「カスハラ」と判断すればいいのか。学校トラブルにくわしい高島惇弁護士に聞いた。
●難しい「カスハラ」の線引き、現場はどう判断すればいい?
──学校に対する「正当な意見・苦情」と「カスハラ」は、具体的にどのような点から線引きされるのでしょうか。
保護者対応に関するガイドラインは、以前から各教育委員会が独自に策定してきた経緯があります。古いものでは、広島県教育委員会が2013年ごろに策定した「保護者、地域と学校の協力のために【保護者等対応事例集】」があります。
今回、文部科学省が新たに策定したガイドラインも、今年2月に公表されたカスタマーハラスメント防止指針に沿う形で公表されたものですが、基本的には各教育委員会がこれまで策定してきたガイドラインと軌を一にしており、内容的にも特段真新しいものではないという印象を受けています。
そのうえで、「社会通念上許容される範囲」かどうかは、事実関係によっては法曹関係者でも判断が非常に難しいところです。学校に関わるスクールロイヤーなどに相談しながら、慎重に対応を進めるのが確実だと思います。
とりわけ注意が必要なのが、いじめ被害をめぐる相談です。
保護者の言動を捉えて「モンスターペアレント」と評価してしまい、日々の多忙な業務の中で対応するうちに、その訴えへの対応が次第に疎かになることも少なくありません。
しかし、実際にいじめが生じているにもかかわらず、その訴えが「カスハラ」として処理されてしまえば、かえっていじめ被害を悪化させたり、真相解明を妨げたりすることになりかねません。
本来は重大事態として認定し、調査すべきだったにもかかわらず、それを怠ったとして違法と判断された下級審判決も存在します(さいたま地裁令和3年12月15日判決、静岡地裁令和7年1月30日判決など)。
●背景には「疲弊」する学校教育の現場
──こうしたガイドラインが求められる背景には何があるのでしょうか。
現在、教職員のなり手不足が全国的に深刻化しており、一人ひとりの教職員にかかる負担が非常に大きくなっていることも否定できません。
学校の対応への不信感などから、管理職や担任に何度も面談を要請したり、執拗に個人情報の開示請求を繰り返して、学校を疲弊させようとする保護者も、残念ながら一定数存在するのが実情です。
そうした中で、録音や警察との連携など、文部科学省が主体となって全国の教職員に具体的な対策案を示すことは、現場にとって頼れる手段となり、一つの安心材料につながる可能性はあると考えます。
また、典型的には暴力被害など、教職員が児童やその保護者を訴えるケースも、私の経験上、複数あります。こうした訴訟を起こす際に、学校や教育委員会がある程度後押しすることは、職場環境の改善という観点からも有益かもしれません。
給特法の改正や部活動の縮小など、教職員の待遇改善に向けた一連の動きは非常に重要です。教員の人材不足が続けば教育行政の根幹が揺らぎかねない以上、今回のガイドラインも基本的には好意的に評価されるべきだと思います。
その一方で、学校が第一に向き合うべきなのは、あくまで児童生徒です。
保護者の言動を安易にカスタマーハラスメントと決めつけることで、本来であれば改善すべき深刻ないじめ被害などが見えなくなってしまう。その危険性には、十分注意しなければなりません。
そのため、個々の教職員が決して一人で抱え込まず、自治体の相談窓口やスクールロイヤーなど、ガイドラインでも示されている第三者にこまめに相談する姿勢が、引き続き大切になると思います。
【取材協力弁護士】
高島 惇(たかしま・あつし)弁護士
学校案件や児童相談所案件といった、子どもの権利を巡る紛争について全国的に対応しており、メディアや講演などを通じて学校などが抱えている問題点を周知する活動も行っている。近著として、「いじめ事件の弁護士実務-弁護活動で外せないポイントと留意点」(第一法規)。
事務所名:法律事務所アルシエン
事務所URL:http://www.alcien.jp

