管理職は本当に「罰ゲーム」なのか、対極の「ご褒美昇進」から見える日本企業の構造的問題

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管理職について、ネガティブなイメージで語られることが増えています。「損な役回り」「マジでつらい」など当事者からは嘆きの声が聞かれ、罰ゲーム化しているなどと言われることさえあります。
とはいえ、管理職が割に合わないといった指摘はいまに始まったものではありません。仕事上の権限は増えても責任も生じるため、より強いプレッシャーを感じながら仕事することになる点はずっと前から同じです。
責任は重く、上からも下からも圧力──管理職が割に合わない理由
いま改めて管理職のネガティブな側面がフォーカスされているのは、現代ならではの難しさが生じていることが理由かもしれません。しかしながら、管理職は本当に罰ゲームかと問われると疑問も浮かんできます。
それどころか、周囲を見渡してみると、実力が伴っているとは思えない人材がご褒美のように役職を与えられ、管理職として重用されていると感じる事例が見受けられたりもします。罰ゲームとご褒美という両極端な管理職像をひもといてみると、根本的な部分には共通の問題が横たわっていることが見えてきます。
管理職が罰ゲーム化していると言われる理由はいくつもありますが、平たい表現で一言にまとめると、負担が増えて大変だということです。
特に顕著なのがいわゆる中間管理職で、役職がつくと責任が増える分、経営層など職場の最終的な意思決定権を持つ上位管理者からの圧力が強くなります。
もちろん、役職にかかわらず仕事にはプレッシャーが伴うものです。しかし、非役職者から管理職になると社内外から向けられる視線が変わります。
トラブルが生じた際などは顧客から責任者としての対応を求められ、職場では上から業績達成などへの圧力を受け、管轄する社員一人ひとりに対しては目配りを求められるといった板挟みの立場に置かれることになります。
多様化する職場、かつての管理職像が通用しなくなった理由
そこに、近年ではマネジメントする対象が多様になってきました。「24時間戦えますか。」といったキャッチコピーが世相を反映していたころの主力メンバーは、育児など家のことは女性に任せて残業や休日出勤の労を惜しまず働くことができた男性です。
管理職の手腕としては、仕事に100%の時間と労力を注ぎ込むことができる専業就労者の男性をいかにハードに長く働かせられるかが問われました。画一的な働き方を前提にして、ひたすら仕事だけに集中させればよかったとも言えます。
ところが現代は、女性が総理大臣や東京都知事を務める時代となり、職場でも女性の存在感は大きくなっています。2025年には就業者全体の45.8%を女性が占めています。一方で、家庭との両立を意識しながら働く男性は増えてきました。
さらに、シニアや外国人、障害者など多様な背景や事情を持つメンバーが能力を発揮できる環境を整え、組織全体の成果につなげることが求められています。一人ひとりの事情や価値観が異なる中で、一律の指示に社員側が合わせるマネジメント手法が機能しづらくなっているのです。
また、ハラスメントに対する意識も高まってきています。強面で逆らいづらい雰囲気を醸し出し、威圧や恐怖を利用した社員指導が、業務上必要かつ相当な範囲を超えて就業環境を害すれば、パワーハラスメントに該当する可能性があります。
いまの管理職に求められているのは、多方面に配慮しつつ力を結集させ、時間的制約もある中で業績向上にコミットするという、これまでより難易度の高いマネジメントです。
上司の指示に無理やり従わせるスタイルではなく、個々に異なる背景を有する社員たちを納得させながら動かして成果を出すマネジメントスキルが問われるようになった、とも言い換えられるでしょう。
「割に合わない」だけではない、管理職になって得られるもの
しかしながら、管理職になることにはいくつものメリットもあります。まずは報酬です。
厚生労働省の「令和7年賃金構造基本統計調査」によると、非役職者の所定内給与月額の平均は31万500円。それに対し係長級は39万9200円、課長級52万9200円、部長級63万5800円です。役職別の平均では、上位になるほど所定内給与額が高くなっています。
さらに、管理職になると非役職者だったころと比べて権限が増え、仕事がコントロールしやすくなります。
営業職が営業所長に昇進した場合、どんな顧客層に対してどんな商品を勧めていくかを自分で決めることができたりします。当然ながら相応の責任も伴うことにはなりますが、権限も得ることで日頃「もっとこうすればいいのに」と思っていたことが実現しやすくなる点は、管理職になるからこそ得られるメリットです。
ほかにも、課長や部長といった肩書がつくことは社会的なステータスでもありますし、管理職を経験していれば転職の際に求人の選択幅が増えたり給与条件などで配慮されたりすることもあります。その点、PTAや自治会のようなボランティア的な活動で役職がつく場合とは大きく趣が異なるかもしれません。
本来であれば、PTA役員などの経験で磨かれたソフトスキルなどはもっと評価されてもよいと思います。しかし、職場から離れた場所での経験はブランク扱いされてしまいがちで、残念ながら仕事をする上でプラスになるケースはまだ多くはないのが実情です。
実利が見えづらいという意味では、PTAや自治会などの役員こそ、「罰ゲーム」と受け止められやすい面があるとも言えます。実際はそれらの活動を通じて職場でも生かせるさまざまな経験やスキルが身に付いているはずですが、いまのところ職業上のキャリアに反映されづらい状況があるだけに、頑張っても報われる実感は得にくくなってしまいます。
それに対し、職場で管理職に就く場合は報酬や権限、肩書などたくさんのメリットが明確に得られます。そのため、罰ゲームどころかむしろご褒美のような形での管理職登用が目につくことさえあります。
なぜ「ご褒美昇進」は起きるのか、実力より従順さを選ぶ組織
管理職への登用は、能力をしっかりと見極めて職場にとって最適な人材に白羽の矢が立つべきものです。
ところが、能力が明らかに不足しているにもかかわらず、組織の意思決定権を持つ上位管理者が自分の好みや都合の良さを優先して管理職に登用しているようなケースも見られます。
実力は伴わないものの、無理難題を聞き入れてずっと尽くしてくれた人材の温情的登用や実績は不十分なのに上位管理者受けの良い発言ばかりする口先がうまい人材の登用、オーナーが絶対権限を持っているようなワンマン体質の組織だと、個人的に特別な関係があると噂される人物が、鶴の一声で高い役職に就けられるようなケースさえ耳にします。
能力に見合わないご褒美昇進の場合、職場としては安心して管理職ポジションを任せることはできません。そのため、実力を備えている上位管理者が実質的なマネジメントを行い、ご褒美管理職はあくまでお飾り的な存在になったりします。
中には地位が人をつくり、ご褒美管理職だった人材が真の管理職へと成長するケースもありますが、実力を勘違いして権限を振りかざすような事態が発生してしまうと悲惨です。的外れな指揮命令に社員たちが振り回されて疲弊したり、パワハラ被害に遭ったり、業績不振を覆い隠そうと不正行為を画策するなど、ロクでもないことになります。
また、上位管理者の好みとまでは言えなくとも、従順で扱いやすいといった理由で都合が良いだけの人材が登用されるようなケースもあります。優秀な人材が次々に辞めてしまったような職場だと、一人がマネジメントできる人数には限界があるため、能力不足の者であったとしても管理職に登用せざるを得なくなる状況が生じかねません。
その場合、上位管理者にとって都合が良いのは、能力は高いものの扱いにくい人材よりも、能力は見劣りしたとしても従順で指示した通りに動いて傀儡(かいらい)になってくれる人材です。
傀儡となることを前提に登用された管理職は権限委譲が十分になされず、何かにつけて上位管理者の指示を仰がなければなりません。そんな窮屈さを抱えつつも立場は管理職のため、トラブルなどが起きた場合は責任だけ負わされるようなことになりがちです。
責任と権限は釣り合っているか、問われる管理職制度の再設計
管理職は大変な役割に違いありませんが、責任と同等の権限も保持しているのであればフェアとも言え、やりがいを感じられるポジションでもあります。
しかしながら、権限は小さく責任は重いというアンフェアな形で任される管理職は、給与が高いなどのメリットがあったとしてもデメリットの方が大きすぎます。そのような立場を、本人の意に反して押しつけられてしまうようなケースこそ、まさにシン・罰ゲーム管理職だと言えます。
シン・罰ゲーム管理職とご褒美管理職は対極に位置する存在のはずです。しかし、能力や適性を十分に見極めないまま登用されたり、役割に見合った権限が与えられなかったりするなど、管理職の人選や制度設計に問題があるという点では共通しています。問題の原因は本人たちだけにあるのではなく、登用する側や組織の仕組みにもあるのです。
そんな職場だと、管理職になることに魅力を感じる人は少なくなります。最低限の仕事だけこなして向上心は抑え、「静かな退職」を決め込んで生活するための給与さえ得られれば良いと割り切った方が得策かもしれません。
管理職になることには、さまざまなメリットがあります。しかし、役割の負担感だけが増してデメリットばかりが強く感じられるとしたら、職場の統制は機能しづらくなるでしょう。上位管理者の都合で恣意的な管理職登用がなされていたり、責任ばかり大きくて権限とのバランスが崩れていたりするなど、職場は構造的問題を抱えている可能性があります。
いま、管理職が担う役割の難易度が上がっているからこそ、社員が目指したくなる管理職像を描けているかどうかは職場にとって重要です。もし、社員の中に管理職を敬遠する空気を感じるとしたら、職場の統制機能が働きづらくなっているサインかもしれません。魅力あるポジションとなるよう、管理職像を再設計する必要があるのではないでしょうか。
筆者:川上 敬太郎
