大角しのぶさん「牛丼はないけど、ご飯ならおかわりあるよ」

そう言って笑顔でご飯をよそった大角しのぶさん(71歳)。大角さんの何気ない一言がすべてを語っています。

輪島港から北におよそ50キロ、日本海に浮かぶ孤島・舳倉島。周囲わずか5キロの小さな島で、舳倉島と本土を行き来しながら半世紀以上にわたって民宿を営んできた女性が、今も島に通い続ける理由とは。

あそこは仕事をしに行くところ」--島と生きてきた半世紀

舳倉島はかつて、年間6000人が訪れる活気ある島でした。

海女漁の拠点として石川県の無形民俗文化財に指定され、夏にはアワビやサザエが水揚げされました。春と秋には350種類以上の野鳥が羽を休める渡り鳥の中継地としても知られ、全国からバードウォッチャーや釣り人が訪れました。

石川・輪島市出身の大角さんは、中学卒業後に舳倉島の海女になりました。夫婦二人三脚で「民宿つかさ」を切り盛りしながら、自ら海に潜り、新鮮な海の幸で宿泊客をもてなしてきました。

大角しのぶさん「どこにサザエがおるか、アワビがおるかって見ながら潜っている。海のきれいさとか分からないし肉体的にちょっと大変だけど海に入る方が余計良いみたい」

民宿の壁には宿泊客が贈ってくれた珍しい野鳥の写真や魚拓がたくさん飾られています。日本全国の人と交流を重ねてきた、半世紀分の記録です。

「前の舳倉島を見て今の舳倉島を見たら、ほんとに悲しくなる」

2024年1月の能登半島地震は、舳倉島に震度5弱の揺れと、海抜わずか12メートルの島に最大6メートルの津波をもたらしました。

海女漁の拠点だった漁協施設は全壊となり、冷蔵設備も失われました。地震から1年半が経った2025年7月に輪島港を拠点とする海女漁は再開したものの拠点を失った舳倉島の海女漁は再開のめどが立っていません。

民宿つかさも大きな被害を受けました。

大角しのぶさん「港のところにみんな舟を着けていた、十数隻とか。それがみんな海に流されてしまって、私らの舟もみんな海の中に沈んでいる」

海女漁で使っていた小舟は津波で沈み、停電の影響で冷蔵庫・冷凍庫のほか、クーラーやボイラーも壊れました。そして輪島市本土の自宅も被害を受けた大角さんは仮設住宅での生活を余儀なくされました。

大角しのぶさん「業者の人が定期船に乗ってきて日帰りで直せるか。クーラーなら取り付けられるか。私らの復興は定期船にかかっている」

「釣りの人と野鳥の人が、みんなよく電話かけてくれる」

舳倉島と本土を結ぶ定期船「希海」は、地震後しばらくして運航を再開しましたが、2025年11月には輪島港の岸壁が蟹漁などの水揚げに使われることになり、およそ7か月間、再び運休が続きました。

その間も、全国の常連客からLINEや電話が絶えませんでした。

大角しのぶさん「お姉さんやっぱ泊まれないんだね。電話かける人にはいつもまた電話かけて聞いてみてって言ったら定期船が再開する時もそうだし」

2026年5月、定期船が平日毎日運航となり再開。定期船には大角さんの姿もありました。舳倉島の港に着くと、震災から2年以上経っても手つかずのままの家電や廃棄物が残っていました。

「民宿はほんとに拠り所になっていますね」

民宿つかさは、ボイラーの修理が終わりお湯が出るように。クーラーや冷蔵庫も使えるようになり、少しずつ日常が戻ってきました。

現在、宿泊客の多くは島の復旧工事に携わる関係者たちです。島の公衆トイレはいまだ使えず、島唯一の診療所も再開のめどが立っていないため、一般客の受け入れは難しい状況が続いています。

大角しのぶさん「釣りの人とか野鳥の人が泊まれるようになればいいなと思うけどその頃は私ももう年いってしまってダメかもしれない」

そんな不安を抱えながらも大角さんは島の工事関係者のために定番メニューの岩モズクの味噌汁や牛丼を振舞います。前夜には新鮮な魚の干物やサザエの刺身でもてなしました。

「みんな元気をたくわえて仕事ができるように。もう島に1つしかないので、ほんとに拠り所になっていますね」と、宿泊した工事関係者は話していました。

「階段が登られなくなったらやめる」 それまでは、続ける

大角しのぶさん「やっぱりこうしてしゃべっておられればいいし。いつも来てる人の顔を見ないと、あの人どうしてるいるんだろうって、やっぱり心配になるし。でもね、いろいろなお話が聞ける」

大角さんがこの島で民宿を続ける理由を尋ねると、答えはシンプルでした。

大角しのぶさん「だって私の仕事やもん。皆さんとの会話とかもいいし、あれが一番の仕事」

いつまで続けるつもりか、という問いには、こう答えました。

大角しのぶさん「民宿の階段が登られなくなったらやめる」

一人息子も漁をしていて民宿は引き継がないと話す大角さんは、早く釣り人や野鳥観察の人がまた泊まれる日が来ることを願っています。そんな望みを抱きながら舳倉島と本土を行き来する日々を続けています。

震災から2年半余り。舳倉島にはまだ人影がほとんどありません。それでも、民宿つかさは島に来てくれるみんなの笑顔を見るためにみんなの拠りどころとなるために明かりを灯し続けています。

大角さんの姿を追った全編は9月27日正午までTVerで配信されています。