夏に着氷?危険な着氷と飛行機の安全対策について解説
飛行機に氷が付着する現象を「着氷」と呼びます。
「氷が少し付いたくらいで影響があるの?」と思うかもしれません。しかし、氷の付着は主翼の揚力を低下させたり、飛行に必要なセンサーの誤作動につながったりするため、安全運航に大きな影響を及ぼすことがあります。
冬場であれば、飛行機が防除氷作業をしている様子を目にすることがありますが、実は夏場でも着氷対策は欠かせません。飛行機が飛ぶ上空は、夏でも氷点下となるためです。飛行機と着氷の影響についてみていきましょう。

氷点下でも凍らない水、過冷却水滴とは
水は通常0℃以下になると氷となりますが、雲粒など非常に小さな水滴で、かつ氷晶核などの不純物が少ない場合、0℃を下回っても液体の水のままで存在することがあります。この、0℃以下なのに凍っていない水滴のことを「過冷却水滴」と呼びます。水滴の大きさにもよりますが、自然界ではマイナス30℃~マイナス40℃付近まで、この過冷却状態を保つことができます。
上空に行くほど気温は下がるため、背の高い雲の中は0℃以下の領域が広がっています。雲の中の状態は、温度によっておおよそ以下のようになっています。
■0℃以上
凍ることなく、すべて液体の水滴として存在します。
■0℃~マイナス10℃
0℃を下回ってもすぐには凍らず、雲の中は主に過冷却水滴のみで構成されています。
■マイナス10℃~マイナス40℃
液体のままの過冷却水滴と氷の粒である氷晶が混ざり合って存在しています。
■マイナス40℃以下
過冷却状態を保つことが出来なくなり、すべてが氷晶となります。

飛行機の巡航高度の気温
夏場は地上が35℃を超える真夏日であっても、飛行機が飛ぶ高高度の気温は地上とは異なります。
対流圏において気温は1km高度が高くなるごとに気温は6.5℃下がります。すると、地上では35℃であっても高度5.3kmほどで気温は0℃となります。
飛行機は高度10~12kmのあたりを飛行することが多いため、夏場であっても氷点下の空域を飛ぶことになります。
氷点下の空域に存在する過冷却水滴は、非常に不安定な状態です。高速で飛行する飛行機が過冷却水滴にぶつかると、衝撃により一瞬で機体の表面に凍りついてしまいます。この現象を「着氷」と呼び、飛行機の安全運航に大きな影響を及ぼす注意すべき現象と考えられています。

電気を使って着氷を防止するシステム
氷点下の雲の中を飛ぶ飛行機は、着氷を防ぐために防氷装置が備わっています。防氷のメカニズムは大きく「電熱」によるものと「エンジンから抜き出した高温の圧縮空気」を利用する2つにわけられます。
電気によるヒーターを利用した防氷システムは以下の通りです。
◆ウィンドウヒート
操縦室の窓ガラスには電熱ヒーターが装備されています。窓ガラスは複数の窓ガラスからなっていて、窓ガラスの間に電熱ヒーターが付けられており、着氷を防ぎ視界を確保する役割があります。また、ガラスは低温になるともろくなるため、温めることで鳥の衝突などに耐えるための耐衝撃性を保つ効果もあります。
◆プローブヒート
飛行に必要なデータを計測するセンサーも電気によりあたためて着氷を防止しています。センサーには、空気の流れの圧力を利用して対気速度を計測するピトー管や、姿勢をはかるAOAセンサー、温度をはかるTAT PROBEがあります。これらが着氷すると正しい数値が測定できず、安全な飛行に悪影響を及ぼします。
◆ドレインマストヒーター
機内で使用した水を排出する箇所にも配管の詰まりや氷塊が出来て落下物となるのを防ぐため、電熱ヒーターを利用しています。

圧縮空気を使って着氷を防止するシステム
エンジンから抜き出す、高温・高圧の圧縮空気は主翼やエンジンの前面のような広範囲の着氷を防ぐために利用されています。
◆ウィングアンチアイス
主翼前縁への着氷を防ぐために、エンジンからの高温・高圧の圧縮空気を内側に吹き付けることで着氷を防止しています。もし翼に着氷が発生すると、翼周辺の風の流れが変化するため、揚力が変化し、抵抗である抗力が増加します。薄い霜・雪や氷などの着雪氷でも、30%までの揚力減少と 40%までの抗力増加を引き起こすことが風洞実験や飛行試験で確認されており、さらに厚い着雪氷は、さらなる揚力減少と 80%以上の抗力増加にもなりうることも確認されています。
◆エンジンアンチアイス
エンジンの空気取り入れ口にエンジンからの高温・高圧の圧縮空気を内部に通すことで着氷を防いでいます。エンジンの前面である空気取り入れ口で着氷が起きると、エンジンに流入する空気の流れが乱れてファンブレード内部や内部の空気圧縮部が失速を起こし、推力が失われる可能性があります。また氷塊がエンジンに吸い込まれるとエンジンにダメージを受ける恐れがあります。

氷晶がエンジンにダメージを与えることも
機体への着氷は過冷却水滴が原因であり、氷晶は機体に張り付きません。しかし、高高度で高濃度の氷晶が存在しているエリアでもエンジンにダメージを与える可能性があることがわかっています。
高濃度の氷晶がエンジンに吸い込まれると、エンジン内部で一度溶けた後、再び凍り付いて詰まることでエンジンが停止してしまうこともあります。
この高濃度の氷晶があるエリアは、非常に小さい氷晶から構成されているため、飛行機にあるレーダーの反射にうつらないので特に注意が必要です。強い雨をもたらす発達した積乱雲の上部では高濃度の氷晶がある可能性があるため、飛行高度でレーダーの反射がなくても、その下のエリアに強いレーダー反射がある場合は高濃度の氷晶がある可能性があると考えられています。
※出典
「The Ice Crystal Weather Threat to Engines」(2007)

航空会社の対策は
着氷が発生しやすい温度帯や雲、高濃度の氷晶が存在しそうなエリアの研究や予測が行われているため、リスクがあるエリアは避ける、通過しなくてはならない場合はなるべく短時間で通過するようにするなど対策がされています。また、航空会社間でもC-PIREPにより着氷の情報は共有され、安全運航に活かされています。
※C-PIREP…Common PIREP。国土交通省のシステムで各航空会社で持つPIREP(操縦士報告)を集約・形式を統一したもの。乱気流や着氷、天候状態が報じられている。
まとめ
まとめ
飛行機が飛行する高高度は夏でも氷点下になり、着氷の可能性があることを見てきました。着氷は飛行機にとって悪影響を及ぼす現象ですが、安全に飛行が続けられるよう様々な工夫がされています。
〈参考文献〉
現役航空整備士が書いたかなりマニアックな飛行機豆知識 日本航空技術協会
