(※写真はイメージです/PIXTA)

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高年齢者雇用安定法の改正や年金の支給開始年齢の引き上げで、少なくとも65歳まで働くことが一般的になりました。しかし、60歳を過ぎて継続雇用になると、それまでと同じ条件で働くのは難しくなることがほとんど。「それなら転職したほうが……」そう考える人もいるかもしれませんが、うまくいくとは限らないようです。

「あと5年もここで…」定年までのカウントダウンに溜息

「俺は、馬鹿だったな……」

和田正志さん(仮名・61歳)は、何度もそう思っているといいます。約1年前、60歳の定年を迎えた和田さんは、30年以上勤めた会社を退職しました。

そのまま継続雇用で65歳まで働くこともできましたが、給与は現役時代の6割程度まで下がる見込みで、役職も外れ、部下だった社員が上司になることも分かっていました。

「あと5年も、ここで働くのはきつい……」

そう思っていたところ、長年付き合いのあった取引先が「うちに来て仕事をしませんか」と声がかかりました。

提示された給与は480万円。継続雇用後の推定年収と同等です。しかし、和田さんが嬉しかったのは、それ以上に自分の経験を評価してくれたことでした。

「まだまだ自分はやれる」

そう思った和田さんは、60歳で退職金約1,300万円を受け取り、長年勤めた会社を退職。新しい職場へ移りました。

ところが、そこで待っていたのは、思い描いていた「ベテラン社員」としての活躍ではありませんでした。

「俺、こんなに仕事できなかったのか」

転職してすぐ、和田さんは戸惑います。前の会社では電話一本で済んでいた仕事が、新しい会社では社内システムへの入力や上司の承認が必要です。

「これ、電話したほうが早いんじゃないか……」

そう思っても、会社が違えばルールも違います。営業の進め方も、人間関係も一から。つい「前の会社ではこうしていました」といえば、「それは、もう忘れてください」と一言。

さらに、会議では会社の事情が分からず、的外れな発言をしてしまうことも。前職では部下に指示を出していた和田さんが、今度は年下の社員に、あらゆる面で教えてもらう立場になりました。

最初は、慣れていくと思っていました。しかし、次第に仕事を頼まれることが減っていきます。自分が作った資料が、いつの間にか別の社員によって修正されていたこともありました。

誰かに「使えない」と言われたわけではありません。それでも、自分自身が役に立っていないことを感じ取ってしまう。その空気に、池上さんは耐えられなくなっていきました。

「俺、こんなに仕事ができなかったのか。惨めだな……」

意気揚々と転職を決めた気持ちは、すっかりしぼんでいました。結局、和田さんは転職から1年ちょうどで退職したのです。

「転職なんてしなきゃよかった」…ハローワークでぽつり

しかし、61歳での転職は想像以上に大変でした。ハローワークにも通いましたが、提示される条件は大きく下がり、なにより自分の営業経験が生かせそうな会社自体、かなり限られています。

書類はなかなか通らず、前の転職ですっかり自信を失った和田さんは、面接でも苦戦。雇用保険(失業保険)の基本手当の受給期間を受け取りながらも、気持ちは焦るばかりでした。

和田さん一家の支出は、住宅ローンを含めて月30万円ほど。健康保険料や固定資産税などもあり、年間の支出は400万円を超えます。不足分は、貯蓄から取り崩すしかありません。

妻からも「前の会社を辞めなければよかったのに」と言われ、家にも居場所がありません。

「完全に判断を誤りました。あのとき会社に残っていれば……」

60代の転職、「経験があるから大丈夫」とは限らない

内閣府「令和7年版高齢社会白書」によると、2024年の男性の就業率は60~64歳で84.0%、65~69歳でも62.8%。65歳を過ぎても働き続ける人は少なくありません。

しかし、「働き続ける=ずっと同じ待遇」ではありません。60歳を境に、働き方が大きく変わる人は少なくありません。だからといって、すぐに転職を決めていいのでしょうか。

長年の経験があるから即戦力になれる、と考えがちですが、会社が変われば仕事の進め方も人間関係も変わります。年下の社員から仕事を教わることに抵抗がある人は、特に注意が必要です。

「今の環境を抜け出したい」と思って移った先で、さらなる困難が待っていることも難しくありません。

だからこそ、60代前後の転職には、より慎重さが求められます。そして、「もし転職先でうまくいかなかったら」を考慮しておくことが大切です。

60代からの転職は、人生の再スタートになる可能性がある一方、和田さんのように「こんなはずではなかった」となるリスクもあります。

「今の会社を辞めたい」という気持ちだけで決断するのではなく、新しい職場で自分の経験が本当に評価されるのか、そして新人として一からやり直す覚悟があるのか。そこまで考えた上で慎重に決める必要があります。