猛暑の中、夫(右)とバケツにくんだ井戸水を自宅へ運ぶ女性(19日、熊本県八代市で)=渡辺恭晃撮影

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[検証 熊本地震]10年前の教訓<中>

 強い日差しが照りつける19日午後、熊本県八代市の女性(72)と夫(73)が、バケツに井戸水を注いでいた。

 気温は35度超。女性が目の不自由な夫の白杖(はくじょう)を引いて誘導し、額に汗をにじませながら、自宅までの約80メートルをゆっくり歩く。

 夫が「暑い」とこぼすと、女性は「水がないと生活できないからね」と励ました。

 夫婦の自宅は地震の影響で断水し、無料開放された井戸まで1日30回ほど徒歩で往復した。21日に断水が解消するまで3週間以上、風呂の代わりにぬらしたタオルで全身を拭き、歯磨きの回数を減らした。女性は「食器もすぐには洗い流せない。夏場で衛生環境の悪化や感染症が心配だった」と振り返る。

 熊本県によると、県内の断水戸数は最大約8万戸(7月30日時点)で、解消に1か月かかった。震度6強を観測した八代市は最多の約2万5000戸に上った。

 2016年の熊本地震でも県内では最大40万戸以上が断水し、2週間かけてほぼ解消した。この時は県央〜北部の被害が中心だったこともあり、今回揺れが激しかった県南部では水道管の耐震化促進に必ずしもつながらなかった。

 県南部の八代市では、耐震基準を満たす主要な基幹管路の割合(耐震適合率)が24・8%(2024年3月末時点)で、全国平均43・3%を下回った。市は来年度から耐震工事の設計に入る予定だったという。

 市水道局の担当者は「予算と人手不足で耐震化がなかなか進められなかった。早く進めていれば、より迅速に断水を解消できたかもしれない」と吐露する。

 一方、前回約32万6000戸が2週間余り断水した熊本市は管路の耐震化に力を入れ、基幹管路の耐震適合率は80・7%。今回の地震では約9000戸が断水したものの、復旧作業の研修などを重ねてきたことも奏功し、地震からおよそ1週間で解消できたという。

住宅被害

 耐震化の有無が被害状況を左右するのは、住宅も同じだ。

 「こんなに早くまた地震が来るなんて」。氷川町の看護師の女性(64)はため息をつく。築70年ほどの自宅は傾き、応急危険度判定で危険を意味する赤色の紙が貼られている。10年前の地震で外壁に少しひびが入ったが、建て替えが喫緊の課題とは考えていなかった。自宅の周囲には被害のなかった家屋もあり、「耐震化しておけば」と後悔が募る。

 今回の地震では5万3800棟超の住宅被害が確認された。読売新聞の取材では、少なくとも12人が住宅の倒壊で亡くなった。

 震度7を観測した氷川町では少なくとも2800棟の被害が出た。町の住宅耐震化率は最新の20年度末で55%。町は耐震診断と改修の補助制度を設け、27年度までに90%にする計画だった。町幹部は「古い家になればなるほど耐震工事費も高く、高齢世帯の家では踏み切るのは難しいのではないか」と推測する。

 16年の熊本地震後、日本建築学会が益城町中心部で調査したところ、倒壊した木造住宅の割合は、耐震基準が1981年に強化される前の「旧耐震」では28%に上ったが、「新耐震」では9%に抑えられた。

 木造戸建て住宅の耐震化を加速しようと、県は2017年度に補助制度を創設。市町村と連携して耐震改修工事費に最大9割(上限額157万5000円)を支援し、初年度に178件、18年度に334件の利用があった。しかし、その後は減少傾向で、23年度は過去最低の61件まで減った。

 県全体の住宅耐震化率は89・5%(23年度)で、全国平均の90%に近づいたものの、担当者は「災害で関心が高まると利用が増えるが、時間とともに減っていく」としている。

 今回の地震後に氷川町などの家屋を調査した熊本大の井上涼助教(木質構造)は「命を守るためにも適切な補強工事を行うことが大切だ。国や自治体には、住民だけでなく、ハウスメーカーや耐震改修に携わる地元業者なども巻き込んで意識を高めていく施策が求められる」と語った。(安田龍郎、坂戸奎太、金堀雄樹)