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【あの日の北方領土は…国後・択捉上陸ルポ】#4

【前回を読む】北方領土で進んでいたロシア人入植…土地1ヘクタールを無償分与、住宅ローン金利は0%

■2017年8月4日付の紙面記事を再掲載

 4年超に及ぶウクライナ侵攻で手一杯と見られてきたロシアのプーチン大統領が北方領土の択捉島を訪問し、衝撃が走っている。国際社会と足並みをそろえた日本の対ロ制裁に大統領は激怒し、1992年に始まった「ビザなし交流」(北方四島交流)を2022年3月に打ち切った。近くて遠い北方領土はどんな様子なのか。9年前の交流に参加し、国後島と択捉島を訪問した筑波大名誉教授の中村逸郎氏(ロシア政治)のルポルタージュをアーカイブから振り返る(年齢、肩書は当時のまま)。

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 北方領土で最大の企業は、国後島を拠点に活動する水産加工業者の「ギドロストローイ」だ。絶大な権力を握るベルホーフスキー会長は地元住民から「クリル(千島)の帝王」と呼ばれている。ロシア連邦議会議員の肩書を持ち、プーチン政権が推進するクリル復興計画の予算を一手に引き受けているゆえんだ。本業のかたわら、北方領土の空港整備や道路建設などのインフラ整備を請け負っている。

 ギドロストローイ社は傘下に20ほどの企業を抱えていて、そのひとつに「ギドロストローイ・ツアー」という旅行会社がある。米国の旅行会社と提携し、外国人観光客を積極的に誘致している。売り出しているツアーはカムチャツカ半島から千島列島を南下しながら島々を遊覧し、択捉島で下船するコースをめぐる。

 国後島には温泉や豪華な保養施設、ホテルがある。ギドロストローイ社が手掛けているものだ。サハリン州政府はこのほど、ギドロストローイ・ツアー社を利用する旅客に対し、サハリン島からの航空運賃を半額にする特別施策を決定した。外国人もその対象だ。船員のウラジーミル(25)は「6月上旬には40人ほどの外国人が来島して、数人の日本人を見かけましたよ」と屈託ない。

 北方領土の実態は、ギドロストローイ社の企業城下町。工場では総勢1000人が働き、その9割は中国、韓国、北朝鮮、旧ソ連圏の中央アジアからの出稼ぎ外国人だという。ロシア人従業員のアントーン(30)の月給は約18万円。北方領土の他企業よりも、はるかに恵まれている。妻(30)と長男(3)の3人家族。「光熱費と保育料にそれぞれ1万円かかるが、生活費には困っていません」と笑う。夫婦はモスクワ出身なのだが、都会生活に疲れ果ててしまったようだ。2年に1回、両親に会いに帰省しているという。

「この島の日常生活で困るのは、子ども用品の品不足です。店に発注しても、届くのは2週間後。貨物船でウラジオストクやサハリン本島から輸送されるのですが、霧で欠航はしょっちゅう。天候に左右されるんです」

 プーチン政権主導で進められている日ロ経済協力プランは、エネルギーや先端技術開発など、カネのかかる事業ばかりが並ぶ。しかし、島民が現実に欲しているのは、身近な日用品なのだ。 (おわり)
(中村逸郎/筑波大名誉教授)