【中島 恵】「在日中国人は麻辣湯チェーン店に行かない」意外な理由…東京に住む93万人の「ガチ中華」への本音

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2022年の「新語・流行語大賞」にノミネートされ一躍有名になった「ガチ中華」。東京近郊ではあちこちで食べられるようになり、最近は麻辣湯(マーラータン)が空前のブームを起こしている。しかし実は、この料理は中国人にとっても「意外な料理」だったという。この現象について、東京だけで93万人以上に上る在日中国人はどのように受け止めているのか。新刊『中国の回鍋肉にキャベツは使わない』(ウェッジ)の著者でジャーナリストの中島恵氏より解説してもらった。

「中国にいるのと全然変わらない」

在日中国人の取材をするとき、多くの場合、私は彼らと一緒に中華料理を食べながら行う。むろん、それが彼らの「ホーム」の料理で、彼らが心を開き、気持ちよく話をしてくれる可能性が高いからだが、近年のガチ中華ブームのおかげで、その選択肢は大幅に広がった。

以前、日本の中華料理といえば、横浜中華街に多い広東料理(香港や広東省の料理)、東京の池袋や新宿に多い東北料理(遼寧省、吉林省、黒龍江省の料理)が中心だったが、コロナ禍が始まった2020〜2021年頃を境にして、ありとあらゆる中国の地方料理が東京近郊で食べられるようになった。

中でも急速に増えているのが湖南省の料理、いわゆる湖南料理と呼ばれるものだ。中国八大料理のひとつに数えられる。湖南省は中南部の内陸にある省で、毛沢東、劉少奇、朱鎔基といった中国共産党の歴代の指導者たちを多く輩出した土地柄だ。

日本での知名度は比較的低く、地理が思い浮かばない人が多いと思うが、中国では最も辛い料理が湖南料理と言われており、その辛さは四川料理をしのぐほどと言われている。その湖南料理を提供する店が池袋、高田馬場、上野などにここ数年、急速に増えており「東京の中華料理界全体のガチ度が上がった」と個人的には思っている。

私は日本人が「ガチ中華」という言葉からイメージするものとして、「まだ日本に上陸して間もない料理で、普通の日本人にはちょっと近寄りがたい、ハードルが高い料理」というニュアンスが含まれていると感じている。

そんなガチ中華の台頭について、日本に93万人以上住む中国人はどのように感じているのか。むろん、93万人もいるので、受け止め方は「人それぞれ」で一様には語れないが、東京近郊に住む20〜30代の比較的若い層は「中国にいるのと全然変わらない」と感じているようだ。

日本ではじめて地方のマイナー中華を食べる

高田馬場の日本語学校に通う20代の女性は「朝、登校のときにはMIXUE(中国系ドリンクチェーン)でレモン紅茶を買って飲みながら学校に行き、お昼は高田馬場駅周辺にある中華料理店のどこかに入ります。今日は湖南料理、明日は四川料理といった感じ。店内は99%中国人だし、店員も顔見知りの中国人なので、中国にいるときとまったくと言っていいほど、生活は変わりません」と話す。

SNSのやりとりも中国に住む友人ばかりなので、「身体は東京にあるけど、心は中国にある」という。

彼らにとって新しい発見といえば、「東京には、中国にいたときには一度も食べたことがない珍しい中華料理がいろいろある」ということ。たとえば、上海出身者にとって、四川料理や湖南料理は、同じ国内とはいえ、はるかに遠い地方の食べ物であり、馴染みがなく、日本語学校に入学する20歳頃までの間にあまり食べた経験がない。

年齢が若いということもあるが、上海では上海料理店が最も多いし、両親ともに上海人ならば、家庭でも上海料理を作って食べることが一般的だから、地方料理を食べる機会がそもそもないのだ。

そのため、故郷の中国で食べるよりも先に、日本で中国の地方料理を食べる、というおもしろい現象が起きている。話題の麻辣湯もその一つだ。

30代のある女性は「小紅書(シャオホンシュー)で新しい中華料理店オープンに関する情報がシェアされているので、その地方出身の友だちと一緒に食べに行く、という楽しみがあります。中国にいると、そこまでの選択肢はないので、これは街がコンパクトにまとまっていて中華料理店が集積している東京ならではのメリット、醍醐味だと思います」と語る。

東京には今や中国八大料理どころか、さらに細分化された地方料理店が出店している。私が書籍の中で取り上げたのは貴州料理、雲南料理、台州料理、寧波料理、江西料理、陝西料理などだ。じわじわとブームになりつつある、58画の文字「ビャン」(biang)を使用するビャンビャン麺なども紹介した。

在日中国人が麻辣湯チェーンに入らない理由

むろん、メジャーな四川料理や上海料理、北京料理なども取り上げているが、珍しいジャンルの中華料理が日本に出店するようになった背景には、いくつか理由がある。それは、コロナ禍で日中の往来が減少し、在日中国人が故郷の味を求めたこと、中国の富裕層が中国リスクの影響で中国を脱出し、経営・管理ビザなどを取得して日本にやってきて、手っ取り早い中華料理店を開業したこと、在日中国人の数が一県レベルの人口に増え、マイナーな料理でも十分ペイするほど中国人が多いこと……などだ。

中国発の麻辣湯チェーン店、「楊國福麻辣烫」や「張亮麻辣烫」などの増加もそうだ。多くがフランチャイズで、在日中国人が経営していることが多いが、本場そのものの味を提供しても、日本で十分通用するようになった。

しかし、これらの麻辣湯の顧客層の多くは10代後半〜20代の日本人女性であり、中国人はあまり見かけない。私がウィーチャットで繋がっている中国人数人にその理由を聞いてみると、「一人で食事する機会が少ないので、わざわざこういうお店に入ろうとは思わない」という答えが返ってきた。

確かに麻辣湯は1人か2人で行く「ラーメン屋」のようなイメージで、中国ではどこにでもある安いファストフードという位置づけだ。ジャンルは異なるが、イメージしやすい例をあげると、日本の牛丼チェーン「吉野家」が中国でも店舗を拡大し、中国人が足繁く通っているが、中国在住の日本人はそれほど多く通わない、ということだ。

そのため、30代以上の中国人は、会社の近くに店がない限り、麻辣湯店に足を運ぶ機会はあまりない。だが、日本でガチ中華の代表選手のように認識されている麻辣湯店には、湖南料理や四川料理などのガチ中華に喜んで出かける中国人があまり足を運ばないというのも、考えてみればちょっと不思議な話ではないだろうか。

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