忙しい日々でも、心を安定させる方法はあるのか。順天堂大学医学部特任教授の小林弘幸さんは「まず朝日を浴びて幸せホルモンの分泌を促すことが重要だ。さらに、起床後に必ず習慣化してほしいことがある」という――。

※本稿は、小林弘幸『メンタルは肉体が9割』(宝島社)の一部を再編集したものです。

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■朝日が体内時計をリセットしてくれる

すっきりとした気持ちで一日を過ごすために、ぜひ習慣化したいのが、朝日を浴びることです。寝不足でもないはずなのに、なんとなく朝から気分が乗ってこない人は、朝の光が足りていない可能性があります。

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人間の体には、体内時計があります。地球の一日は24時間ですが、人間の体内時計はそれより少し長い周期で動いているため、放っておくと少しずつ後ろへずれていきます。このずれを毎朝リセットしてくれるのが、朝の光です。

朝日を浴びると、脳は「朝が来た」と受け取ります。すると、自律神経は夜の休息モードから、日中の活動モードへ切り替わりやすくなります。朝の光は、目を覚ますための合図であると同時に、体と心に一日の始まりを知らせるスイッチなのです。

■「幸せホルモン」が分泌され、心が安定

さらに、朝日を浴びることで分泌を促されるのがセロトニンです。セロトニンは「幸せホルモン」と呼ばれる物質で、不足すると気分が沈みやすくなったり、イライラしやすくなったり、やる気が出にくくなったりします。

朝の光を浴びてセロトニンの分泌が促進されると、心は安定しやすくなります。理由もなく気分が重い、午前中にエンジンがかからない、何となく不安感が強いという人ほど、まずは朝日を浴びる習慣を試してみてください。

■カーテンを開けてから軽く体を動かす

朝日は、夜の睡眠にとっても大きな意味があります。セロトニンは、夜になると睡眠ホルモンである「メラトニン」の材料になります。つまり、朝にしっかり光を浴びることは、その日の夜に眠る準備を始めることでもあるのです。

夜になかなか眠れない人は、夜の過ごし方だけに目が向きがちです。もちろん、寝る前の習慣に意識を向けることは重要です。しかし、睡眠の質を決める分かれ道は実は朝にあります。朝日を浴びて体内時計を整え、セロトニンの分泌を促してこそ、夜になったときに自然と眠りのリズムへ移りやすくなるのです。

ポイントは、起きてからできるだけ早い時間に光を浴びることです。朝、カーテンを開ける。ベランダや玄関先に出る。家の中で仕事をしている人でも、始業前に少しだけ外を歩く。時間がなければ、窓際で朝の光を感じるだけでもよいでしょう。

できれば、光を浴びながら軽く体を動かすと、さらに一日のスイッチは入りやすくなります。窓際やベランダで伸びをする程度でかまいません。光と体の動きが合わさることで、交感神経の働きがゆるやかに高まっていきます。

曇りの日であっても、外の光には意味があります。室内の照明だけで過ごすより、太陽の自然な明るさを感じるほうが、体内時計への刺激になります。忙しい朝でも、ほんの数分、朝の光を浴びる時間をつくるようにしましょう。

■「目覚めの1杯の水」で活動モードに

朝起きたとき、必ず習慣化したいのが、1杯の水を飲むことです。

「水を飲むことが、メンタルにどう作用するのか」と疑問に思う人もいるかもしれません。しかし、朝の1杯の水は、体を活動モードに切り替えるための、とてもシンプルで効果的な習慣です。

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人は眠っている間にも汗をかき、たくさんの水分を失っています。朝起きたときの体は、自分で感じる以上に水分不足の状態なのです。

水分が足りなければ、血流は悪くなり、脳にも十分な酸素や栄養が届きにくくなります。すると、頭がぼんやりする、だるい、気持ちが前に向かないといった状態が起こりやすくなります。これが、メンタルに「目覚めの1杯の水」が効くメカニズムです。

■冷たすぎる水はNG、常温でゆっくり

また、水が体に入ると、胃腸が刺激されます。特に、空っぽの胃に水が入ることで腸が反応し、ぜん動運動が促されます。腸が動き始めると、副交感神経が徐々に高まっていき、自律神経のバランスが整いやすくなるのです。

腸は自律神経と深く関わっている臓器です。腸が動けば、体の内側から「今日の活動が始まる」というスイッチが入りやすくなります。朝の水は、単にのどの渇きを潤すだけではありません。眠っていた胃腸を起こし、血流を促し、体全体を活動へ向かわせるきっかけになるのです。

このとき大切なのは、一気に大量の水をガブガブと飲むことではありません。常温の水を、コップ1杯程度、ゆっくり飲む。それで十分です。冷たすぎる水は、胃腸に負担をかけることがありますので、朝の体をやさしく起こすイメージで、無理なく飲むことが大切です。

■朝はとにかく「ゆっくり」動くこと

朝は一日の自律神経のバランスを左右する大切な時間帯です。

朝起きてから出かけるまでの時間を、いつも慌ただしく過ごしていないでしょうか。目覚まし時計のアラームを何度も止め、ギリギリまで布団の中で粘る。起きた瞬間から、急いで身支度をし、朝食を流し込み、駅まで早足で向かう――。

このような「急ぎモード」全開の朝を過ごしていると、交感神経が急激に高まり、まだ一日が始まったばかりなのに、体の中はすでに過度な緊張状態になってしまいます。そして、この自律神経のバランスの乱れは、短時間で元どおりになるものではなく、一日中続いてしまうのです。

一日を通して心の安定を保ちたいなら、朝の動きをとにかく「ゆっくり」にすることです。

ゆっくり起き上がる。ゆっくり水を飲む。ゆっくり顔を洗う。ゆっくり歯を磨く。ゆっくり歩く。どれも特別なことではありません。しかし、これだけのことが、自律神経の安定にはとても大きな意味を持ちます。

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■深い呼吸が心のゆとりにつながる

人は急いで動くと、自然と呼吸が浅くなります。呼吸が浅くなると、交感神経が高まりやすくなります。すると、焦りや不安も強まり、さらに動きがせかせかしてきます。

反対に、ゆっくり動くと、自然と呼吸は深くなります。動作が落ち着くと、気持ちにもゆとりが生まれます。コップを持つ、靴を履く、鞄を持つ、玄関を出る。その一つひとつの、1秒かけていた動作を2秒にする程度の工夫で、体に「急がなくても大丈夫」というサインを送ることができます。

小林弘幸『メンタルは肉体が9割』(宝島社)

もちろん、朝から何十分も何時間も余裕を持って過ごすのは難しい人もいるでしょう。家事、育児、通勤……朝は、誰にとっても忙しい時間帯です。

だからこそ、まずは30秒でもかまいません。布団から起き上がる前に、ゆっくり息を吐く。洗面所で顔を洗うときに、肩の力を抜く。玄関を出る前に、ひと呼吸おく。それだけでも、朝のスタートは変わります。

できれば、いつもより少しだけ早く起きてみましょう。いつもより30分早く起きられれば理想的ですが、いきなりそこまで変えなくてもかまいません。5分でも10分でも、朝の余白をつくることです。その余白があるだけで、動作は自然とゆっくりになっていきます。

■忘れ物をしてしまった時こそ、ひと呼吸

「ゆっくり動く」と聞くと、「効率が悪い」と思う人もいるかもしれません。しかし、慌てて動くことでミスが増えたり、忘れ物をしたり、家を出る前から疲れ果てたりするなら、そのほうがよほど非効率的です。ゆっくり動くことは、時間を浪費することではありません。自律神経を整え、結果的に一日のパフォーマンスを上げる大切な準備の時間なのです。

特に、「失敗したとき」ほど、ゆっくり動くことを意識してください。忘れ物に気づいた。予定が狂った。そんなとき、人は一気に焦ります。焦ると交感神経が高まり、判断力が落ち、さらに次の失敗を招きやすくなります。

だからこそ、失敗したときほど、動きを遅くするのです。急いでいるときに、あえてゆっくり靴を履く。急ぎの連絡の前に、深く息を吐いてから電話をかける。歩き出す前に、持ち物を一つずつ確認する。これは決してのんびりしているのではなく、自律神経のバランスを整え、負のスパイラルにはまらないためのリセット術です。

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小林 弘幸(こばやし・ひろゆき)
順天堂大学医学部特任教授
1960年、埼玉県生まれ。順天堂大学医学部卒業後、同大学大学院医学研究科修了。ロンドン大学付属英国王立小児病院外科、トリニティ大学付属小児研究センター、アイルランド国立小児病院外科での勤務を経て、順天堂大学医学部小児外科講師・助教授などを歴任。自律神経研究の第一人者として、トップアスリートやアーティスト、文化人のコンディショニング、パフォーマンス向上指導にも携わる。順天堂大学に日本初の便秘外来を開設した“腸のスペシャリスト”としても有名。近著に『結局、自律神経がすべて解決してくれる』(アスコム)、『名医が実践! 心と体の免疫力を高める最強習慣』『腸内環境と自律神経を整えれば病気知らず 免疫力が10割』(ともにプレジデント社)『眠れなくなるほど面白い 図解 自律神経の話』(日本文芸社)。新型コロナウイルス感染症への適切な対応をサポートするために、感染・重症化リスクを判定する検査をエムスリー社と開発。
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(順天堂大学医学部特任教授 小林 弘幸)