オランダ・ハーグにある国際刑事裁判所(ICC)本部(2024年3月)

写真拡大

 【ワシントン=栗山紘尚、ブリュッセル=上杉洋司】トランプ米政権が18日、国際刑事裁判所(ICC)の赤根智子所長を制裁対象に追加したのは、将来的な軍事行動に伴う訴追を警戒したためとみられる。

 「米国第一主義」の行動に制約をかけかねない国際機関の影響力を封じる狙いだ。トランプ政権はICCの組織への制裁も検討しており、「法の支配」の理念は大きく揺らいでいる。

本気で潰しに

 「これは日本への制裁ではない。ただ、日本を含む同盟国にICCへの支援を打ち切ることを期待する」。米国務省の報道担当者は、制裁を発表した18日、こうコメントした。

 今回の制裁発動には、明確なメッセージが含まれている。トランプ政権は昨年、他の裁判官に制裁を科した際に赤根氏への制裁も検討した。だが、同盟国である日本の国民という事情や首相官邸からの強い働きかけがあり、直前で見送った。

 ICC関係者は19日、「赤根氏への制裁は、もはや米国は容赦しないという姿勢だ。本気で潰しにかかってきた」と指摘した。

 ルビオ米国務長官は7月、米紙ウォール・ストリート・ジャーナルに「あらゆる手段を駆使して解体する」と寄稿していた。ICC関係者によると、各国の米大使館が加盟国政府に「脱退するように」と働きかけ始めた。実際、7月にはチャドとベネズエラが脱退を発表。今後も、追随する国が出てくる可能性は高い。

戦争犯罪

 このタイミングで、米国が圧力を強化した背景について、カーネギー国際平和財団のスチュアート・パトリック上級研究員は報告書で「米兵がICC加盟国の領土内における行為で訴追される可能性がある状況を米国は懸念している」と指摘する。

 ICC設立を定めた国際条約ローマ規程では、ICCに戦争犯罪などに関する管轄権を認める。非加盟の米国は対象外だが、120を超える加盟国での軍事作戦では効力が及ぶ。例えば、米軍がパレスチナ情勢に「参戦」すれば、捜査の対象になり得る。

 米国は今年以降、ベネズエラやイランで軍事作戦を行い、キューバの体制転換も狙う。米国とイランは非加盟国のため、イラン攻撃でICCが訴追することは難しい。だが、トランプ大統領は最近、側近からイランの発電所などを攻撃すれば「戦争犯罪」と見なされる可能性があると進言され、大規模攻撃を思いとどまったとされる。ベネズエラは脱退手続きが完了しておらず、捜査は可能だ。

 トランプ氏が保守派層に対し、「米国民の主権を守る」との姿勢を示したとの見方もある。多国間協調を軽視するトランプ政権のスタンスとも符合する。

機能不全

 米国の制裁対象となったICC関係者は、赤根所長を含めて計13人となった。米国は、ICC組織への制裁も辞さない構えを示す。組織全体が制裁対象となれば、ICC全職員への給与や施設維持費の支払いは困難となる恐れがある。

 既に影響は出ている。ルクセンブルクの報道によると、同国の銀行は昨年2月、ICC名義の2口座を閉鎖する措置を取った。約1700万ユーロ(約31億円)の預金があったが、ICCは直前にオランダの銀行に送金し、差し押さえを逃れた。ICC関係者は「実際に制裁が発動されれば、機能停止となる可能性がある」と話した。

 ◆国際刑事裁判所(ICC)=ジェノサイド(集団殺害)や人道に対する犯罪を犯した個人を国際法で裁くことを目的に2002年に設立。国連安全保障理事会や当事国の付託、ICC検察官の発意などで捜査・訴追を行う。日本など125の国・地域が加盟している。米中露やイスラエルは加盟していない。