「あいつは北のスパイ」麻薬犯の一言で脱北女性に“最高刑死刑”の容疑…韓国警察のあきれた失態
韓国の警察が、麻薬犯の一方的な供述だけで脱北女性に対する「スパイ捜査」に着手し、その後事件を終結させていた事実が遅れて明らかになった。
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捜査の過程で、警察がスパイ容疑を裏付ける物証がないと認めていたという供述も浮上した。
捜査線上に浮上した脱北女性は、「麻薬犯が個人的な怨恨から私を陥れたものなのに、これを根拠にスパイ捜査を受けた」と主張する。脱北者を対象とした韓国警察の安保捜査が根拠なく始まり、嫌疑なしで終わった事例と言える。
本サイト提携メディア『時事ジャーナル』の取材の結果、ソウル警察庁安保捜査隊は2021年5月、脱北者のパク・オッキ氏(仮名)を国家保安法違反(目的遂行)の容疑で正式に立件した。2019年からパク氏に対する内査を進めたのち、事件番号を付与して捜査を本格化させたのだ。
しかし警察は、約7カ月後の2021年12月に証拠がないとして「嫌疑なし」で事件を終結した。
パク氏に適用されていた「目的遂行」の容疑は、最大で死刑に処される重罪だ。反国家団体の構成員やその指令を受けた者が、国家機密を探知・収集・漏洩するなど利敵行為をした際に適用される。国家保安法の中で最も重い部類の罪名である。
安保捜査局は2021年、警察庁保安局を拡大再編して発足した。国家情報院の対公捜査権を段階的に移管され、麻薬類の流通・持ち込みまで安保危害要素とみなして捜査力を投入しているとされる。
問題は、最大で死刑に処される重罪でパク氏を捜査したものの、肝心の根拠が不十分だったという疑惑だ。
そもそも、パク氏は2015年に家族とともに韓国に入国した。この過程で、2003年に脱北した男性チェ・フンシク氏(仮名)と知り合った。
当初、2人の関係性は良好だったが、2019年にこじれる。同年7月、警察がパク氏の通報を受けてチェ氏を麻薬容疑で逮捕。捜査の結果、二人が麻薬をやり取りしていた状況も判明した。
チェ氏は「パク氏からヒロポン100gを2000万ウォン(日本円=約224万円)で購入した」と主張した。これにパク氏は「チェ氏がお金を借りる際に本人の麻薬を担保として預けていき、それを保管していただけだ」と反論した。
この状況でスパイ疑惑が浮上した。
チェ氏は逮捕当日の警察の取り調べから、「警察と2015年からあの女(パク氏)に関する情報を集めてきた」とし、「パク氏は北韓(北朝鮮)の保衛司令部から対南工作目的で派遣されたスパイだ」と供述した。
ただ、実際にチェ氏の名前が書かれた麻薬の袋がパク氏の自宅から発見されたことについては、供述を拒否した。
チェ氏とパク氏は2019年7月19日、それぞれ麻薬使用や所持などの容疑で裁判にかけられ、その直後からパク氏の国家保安法違反容疑の調査も進められた。チェ氏の主張に端を発した内査が、麻薬関連の捜査や裁判の最中に行われたのだ。
同年11月にも同様の主張が続いた。
「チェ氏の言う通りなら、パク氏が自分で売ったヒロポンを警察に自ら通報するだろうか」という検事の質問に対し、チェ氏は「パク氏はスパイだ」と答えた。続いて「ソウル警察庁が内査中であると知っている」と供述した。
翌年4月の検察での供述はさらに具体化する。チェ氏は「警察庁保安局保安捜査隊(現在の安保捜査局)所属の警察官イ某氏に“パク氏がスパイで麻薬を密輸入している”と情報提供したが、イ氏が“スパイ容疑は物証がないから、ひとまずヒロポンの証拠から持ってこい”と言ったため、パク氏からヒロポンを購入したのだ」と供述した。
この言葉通りなら、警察がパク氏のスパイ容疑を裏付ける物証がないことを自認していたという意味になる。
チェ氏は裁判でも「スパイであるパク氏からヒロポンを購入しただけだ」という従来の主張を曲げなかった。
しかし1・2審の裁判所はこれを受け入れず、チェ氏に対して麻薬使用などの容疑で懲役刑を言い渡した。
大法院(最高裁)は2020年4月に刑を確定させた。パク氏もまた、麻薬類管理法違反などの容疑で有罪が確定した。
ソウル庁「昔の事件なので」…当時の警察官「自分とは無関係」興味深い点は、チェ氏が指名した警察官イ氏がチェ氏の救済に乗り出していた状況だ。
イ氏は2019年7月、チェ氏の同居人と通話で「パク氏の麻薬を探し出してチェ氏を救い出す方法を検討している」と話した。
2020年4月には、同居人が「パク氏を捕まえるために一緒に仕組んだことだとチェ氏が言っている」と尋ねると、イ氏は「進められてはいたが、私には“麻薬を手に入れて取りに行く”という話はしていなかった」と述べ、一部の事実関係を認めた。
物証がないと言っていた警察官とチェ氏の間に、どのような形であれ意志の疎通があったことを伺わせる。
チェ氏自ら、「スパイ主張」の信憑性を低下させた事実もある。
彼は2020年2月、国家人権委員会に対し「パク氏夫婦は北韓の保衛司令部が供給する純度の高い麻薬を密搬入して販売しており、パク氏がスパイである可能性を疑って警察とともに作戦に入った」という趣旨の請願を出した。
また「警察官は証拠物となり得る麻薬の購入を指示し、その工作に動員された私が麻薬犯として不意に逮捕された」とも主張した。
しかしチェ氏は、いざ国家人権委員会が事実関係の調査に入ると、自ら請願を取り下げた。
現在、チェ氏は収監された状態だ。2024年6月に麻薬使用の容疑で再び起訴され、昨年8月に懲役2年6カ月を言い渡されたためだ。
彼はこれに先立ち、2019年に小切手偽造の容疑(不正小切手取締法違反)で執行猶予を受けた。麻薬事件をはじめ、幾度も刑事罰の危機に瀕していたのだ。
このようなチェ氏が、自分に不利な局面を迎えるたびにパク氏をスパイに仕立て上げたのではないかという疑念が生じる理由だ。
パク氏は8月7日、『時事ジャーナル』とのインタビューで「警察は私を麻薬の供給元はもちろん、国家保安法違反などの容疑まで加えようとした」とし、「この過程で家族に対する捜査も行われた」と吐露した。
彼女は「2019年の捜査当時、娘が“誰かが私のワンルームに入ってきたようだ”と言っていたため、警察が娘の部屋にまで入ったのではないかと疑念を抱いた」とし、「それどころか、一緒に脱北した実の兄の車に位置追跡装置が取り付けられていた事実も後から知ったが、巻き込まれるのを恐れて耐えて暮らしてきた」と明かした。
ソウル庁安保捜査隊はパク氏の事件に関連し、「過去の事件なので回答しがたい」と明かした。

チェ氏が何度も取り沙汰した警察官イ某氏は「自分とは無関係なことだ」と一線を画した。チェ氏の同居人は「イ氏と通話したことはある」と認めたものの、記者の具体的な質問を受けると電話を切った。
イ・ミンソク弁護士(金融被害者連帯顧問)は「複数の前科があるチェ氏の供述だけを聞き、警察が死刑まであり得る目的遂行の容疑で捜査に着手したのは納得しがたい」とし、「麻薬捜査のついでに国家保安法違反の容疑をこじつける形で調査したもので、脱北者の人権を侵害した事案だ」と指摘した。
麻薬事件専門の法曹関係者も「麻薬捜査中に国家保安法違反の容疑が浮上し、別件捜査へ移行するケースは極めて珍しい」とし、「今回の着手方式は異例だ」と語った。
(記事提供=時事ジャーナル)

