「上位指名確実は2人だけ」の声も…“ドラフト不作”の今夏、それでも甲子園で光った「3人の実力」
全49代表校が出揃った8月12日の大会第8日。甲子園はここから佳境を迎えるが、ドラフト候補を追っていたプロ野球のスカウトの大半は、この日を最後に球場を後にしていた。【西尾典文/野球ライター】
【写真】“ドラフト不作”の甲子園で評価をあげた3人の高校球児の姿
プロ志望を正式に表明
大会期間中、多くのスカウトに話を聞いた。共通して聞かれたのは「ドラフト対象となる選手が少ない」という声である。実力者が乏しいわけではない。すでに大学や社会人への進路を決めているケースが多く、高校から直接プロを目指す選手が少ないのだ。
「(上位指名が確実なのは)織田翔希(横浜)と平田玲翔(大分商)だけではないですかね」
あるスカウトはそう話した。横浜・織田、大分商・平田は初戦で揃って150キロを超えるスピードをマーク。これほど突き抜けた実力がなければ、高校から直接プロを目指さない選手が増えたとも言えそうだ。

そんな中、花咲徳栄のエース・黒川凌大は甲子園で評価を上げた。
黒川は昨年から投手陣の一角を担い、2年秋には不動のエースに定着。今年春の選抜高校野球では先発として2勝を挙げ、準々決勝進出に貢献した。
第8日の仙台育英戦では、6回に味方のエラーから1点を失い、0対1で敗戦。黒川は自責点0で最後まで投げ抜き、春の選抜から安定感を増した投球を披露した。
「選抜と比べて、だいぶ投球が安定してきましたね。ストレート、変化球ともにしっかりコーナーや低めに投げられ、逆球も少なかったです。ピンチでも落ち着いていて、バッターに向かっていく気持ちの強さもいい。体は見るからに強そうで、創志学園時代の西純矢(2019年阪神1位)を思い出しました」(パ・リーグ球団スカウト)
試合後、黒川はプロ志望を正式に表明した。母の琴美さんは柔道のアジア選手権で優勝した経歴を持つ。スカウト陣は両親、特に母親の運動歴を気にするケースが少なくない。黒川にとってプラス材料となりそうだ。
中軸候補を探す球団にとっては狙い目
野手では日南学園の田中皐晴が強烈な打球を連発した。
地元宮崎県出身で、1年秋から投打にわたってチームの中心として活躍。プロが高く買っているのはバッティングだ。
初戦の明徳義塾戦では、第1打席で低めの変化球をとらえ、ライトフェンス直撃のスリーベース。あとひと伸びで本塁打という当たりでスタンドを沸かせた。第2打席は強烈なショートライナーから併殺となり、第3打席ではライト前へ弾き返す。第4打席は申告敬遠で勝負を避けられた。
183センチ、87キロの体格から生まれるパワーに加え、スカウトは打撃技術を高く買っている。
「ボールの待ち方とスイングの軌道がいいですね。第1打席のスリーベースは低めの変化球でした。体勢を崩さず、しっかり対応していましたね。ショートライナーを見ても、外角のボールに踏み込んで左中間へ強く打てます。左ピッチャーを苦にしない点もいい。打撃に関しては高校生では上位だと思います」(セ・リーグ球団スカウト)
スリーベース、ショートライナー、ライト前ヒットはいずれも芯でとらえた打球で、すべて各打席のファーストスイングだった。田中のミート力の高さがよく表れている。将来の中軸候補を探す球団にとっては狙い目となりそうだ。
ショートとして鍛えがいのある素材
横浜の池田聖摩も強いインパクトを残した。
熊本県出身で、中学時代にはU-15侍ジャパンに選出。多くの強豪校から誘いを受け、横浜では入学直後からショートのレギュラーに定着した。過去3度出場した甲子園では9試合で7安打、打率.206。全国の舞台では目立った数字を残せずにいた。
今大会の初戦では沖縄尚学と対戦。昨夏の甲子園優勝に貢献した沖縄尚学・末吉良丞から2安打を放った。
9回の守備では、三遊間を抜けそうな強烈な打球をスライディングしながら逆シングルで捕球。素早く反転し、一塁へ送球してアウトにした。池田の強肩がよく表れたプレーだった。
「バッティングは春まで体が一塁側に流れるケースが目立ちましたが、だいぶ強く振れるようになりました。速いボールに力負けしなくなったのは成長ですね。守備はとにかく肩が強い。あれだけの肩があれば、多少捕球が不安定でもカバーできます。ショートとして鍛えがいのある素材だと思います」(パ・リーグ球団のベテランスカウト)
池田は春の選抜の時点からプロ志望を表明している。ショートはプロから需要の高いポジション。今年は大学生、社会人に有力候補が少ない点も追い風となりそうだ。
高校から直接プロを目指す有力選手が少ない今年。その中で、花咲徳栄・黒川、日南学園・田中、横浜・池田は甲子園でスカウトの目を引くプレーを残した。
甲子園から去った各球団のスカウト陣。その手元のリストで、3人の名前はどこまで上がったのか。“不作”と言われる年だからこそ、夏に残した一球、一打、一つの守備が、ドラフトで大きな差になる。
西尾典文(にしお・のりふみ)
野球ライター。愛知県出身。1979年生まれ。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究。主に高校野球、大学野球、社会人野球を中心に年間300試合以上を現場で取材し、執筆活動を行う。ドラフト情報を研究する団体「プロアマ野球研究所(PABBlab)」主任研究員。
デイリー新潮編集部
