65歳以上の医療機関への通院率は7割近くに達する。お金と時間を病院に費やしているわけだが、それだけではない。統計データ分析家の本川裕さんは「日本は、スマホなどネットの使用度が“ほとんど常に”である人の率が世界一。若い世代だけでなく、中高年もダントツに高い」という――。

■医療費にお金と時間かける高齢者

高市早苗首相は消費税の減税を来春より敢行するようだ。これを批判する政治家や識者の主張は「代替の財源が見つかっていない。消費税が充てられる社会保障費への影響が懸念される」といった内容である。

その社会保障費の内訳のひとつに「年金」などと並び「医療費」がある。病院は日々患者であふれているが、特に目立つのは高齢者の姿である。そこで彼らの医療機関への通院率について見てみよう(図表1)。

(注)母数には入院者を含む。医療機関には鍼灸などを含む。
(資料)厚生労働省「国民生活基礎調査」

1990年代前半には5割台だった高齢者の通院率が2010年以降は7割近くの水準まで上昇し、その後、高止まりしている。高齢者ならだれでも病院に通っているような時代になっているのである。

このデータは厚生労働省の国民生活基礎調査の3年ごとの大規模調査で実施される健康票によるものであり、調査対象者である一般国民に直接通院しているかを訊いた結果である。

通院率には同じ厚労省のやはり3年ごとの調査である患者調査のデータもあり、こちらは調査対象となった医療機関が報告した患者数から入院患者、通院患者の数の動きを追っている。

■高血圧で通院する男性は18年で1.8倍

その患者調査のデータでは、入院受診率(人口当たりの入院患者数)は低下傾向を続けている一方で、外来受診率(人口当たりの通院患者数)は横ばい傾向だったのが最新の調査(2023年)では上昇に転じている。

入院受診率の低下と対照的な、外来受診率の反転上昇の理由としては、高齢化による慢性疾患の増加、健康診断による指摘率の増加、および入院治療から外来治療への移行などが指摘されることが多い。

国民生活基礎調査の通院データによると2007年から2025年にかけての18年間に「高血圧症」で通院する人の割合は男1.8倍、女1.5倍、「歯の病気」で通院する人の割合は男女とも1.3倍に増加している。疾病予防のためもあってこまめに通院する人が中高年、高齢者を中心に増加していることは明らかである。

最近の外来受診率の反転上昇は65歳以上だけでなく、その下の世代である35〜64歳でも生じており、まずは近くの医者に診てもらおうという人が増えていることも影響していると思われる。かかりつけの地元クリニックと大きな病院との機能分担が進んだためもあるかもしれない。

しかし、こうした受診率の高さが高齢者数のますますの増加で医療費の大きな上昇を招いていることは確かであろう。一人当たりの「生涯医療費」(入院含む)の7割は60歳以上にかかるというデータもある。

■日本では中高年もスマホ依存

中高年は、消費税を充てている社会保障費(医療費)をたくさん使っているという話だが、消費税とは直接関係ない分野でも、中高年がせっせと「時間とお金」を費やしているものがある。

それは、インターネットだ。

ネット利用の国際比較について、やや意外なデータを紹介しよう。これまで日本人のIT・情報化対応は後手に回っており、その証拠にインターネット利用率が低いというデータがしばしば報じられてきたが、ここにきて逆に日本のインターネット利用率が高いというデータも見かけるようになった。メディアでこのことが報道されることがほとんどないのは極めて不可解だが、それに関してはまた別の機会に考察したい。

(資料)Pew Global Attitudes Project, "2025 Spring Survey

図表2に取り上げたのは、ピューリサーチセンターが行っている国際調査の2025年春の結果であり、インターネットを「ほとんど常に」(Almost constantly)利用している人の割合が日本は56%と世界24カ国中もっとも高くなっている。

2位は韓国の49%、3位はアルゼンチンの43%、4位はイスラエルの42%と続いている。図は大陸別に「ほとんど常に」の高い順に並べてあるが、欧米諸国は20%台の国もあり、全般に数値が低い。例えば、イタリア人26%、ドイツ人24%と、日本人の半分以下に過ぎない。

■どの世代も「ほとんど常に使用」率が世界一

図表3には同じ調査から年齢別のインターネット利用率(「ほとんど常に使用」の割合)のグラフを掲げた。いずれの国でも若い世代ほど利用率が高いという結果になっている。日本に着目すると、「50歳以上」の利用率が38%で、「18〜34歳=85%」「35〜49歳=77%」の層と同じく世界一となっている点が目立っている。

(注)国の並びは18〜34歳の降順
(資料)Pew Global Attitudes Project, "2025 Spring Survey"

現代においてはネット利用の多くはスマホを通してのものであることは言うまでもない。かつてと違い日本人は中高年もスマホをしょっちゅう使うようになった生活実態が明らかである。同じ50歳以上の中高年で「常に使用」比率を見ると、米国は23%とそこそこ高いものの、英国16%、ドイツ11%、ブラジル10%、フランス8%などとなっており、日本の38%が異様に高いことは一目瞭然である。

■女性中心にSNSや動画でネット依存

日本は世界の中でも、スマホ依存が進んでいるのか。

総務省内の研究所が毎年調査している「情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査報告書」の中で、ネット依存の状況について男女年齢別のデータを公表している。そのうちのひとつである「現実から逃避したり、落ち込んだ気分を盛り上げるためにネットを利用している」人の割合の推移を図表4に掲げた。

(資料)総務省情報通信政策研究所「情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査報告書」

結果を見ると全体として、若い世代ほど、また女性のほうが男性より現実逃避でネットに走る割合、つまり精神安定剤としてネットが使われている割合が高い傾向にあることが分かる。

何と10代(13歳以上)の女性では半数以上が、20〜30代女性では半数近くが現実逃避でネットを利用していると答えている。この結果は想像できたことではあるが、それにしても数値の高さは病的に感じる人も多いのではないか。

■女性40代以上の「現実逃避」傾向

図表に掲げた2017〜2025年の動きを見ていて、もうひとつ発見したことがある。それは10代〜30代は、この8年間の推移の中で「上限」に達している感があるが、女性の40代以上では現実逃避のネット利用が特に女性であらたに増えつつある傾向が認められることだ。今後も伸びる可能性が高い。

総務省の研究所の同じ調査ではネット利用の内容としてどんなものが多いかも調べている。その結果を見ると、30代から50代にかけて男性と比較して女性のネット利用が目立って多いのは「SNS閲覧・書き込み」や「動画配信サービスの視聴」である。男女ともに時間の長い「YouTubeなどの動画投稿・共有サイトの利用」では女性より男性のほうが長いが、これらを中心としたネット利用が「スマホ依存」の背景にあるのではないかと考えられる。

このように日本では、ネットやスマホに費やす時間が中高年でも大きく拡大しているのであり、それが日本のネット利用を世界一にまで押し上げているのだと考えられる。

冒頭で紹介した通院率の高さと並んで、こうしたネットやスマホに費やす時間がとくに中高年の生活時間の多くを占めつつあるという以上のようなデータを見てくると、老いも若きも「下を向いてスマホを眺めている」現状は、日本の将来にどんな影響を与えるのであろうと、いささか暗澹たる気分に襲われる人もいるかもしれない。

■中高年、高齢者の最大の変化は「労働時間」

しかし、ちょっと立ち止まって考えてみたい。中高年や高齢者ネットで単に時間と経費の無駄遣いをしている、もしくは、若年層や働き盛り層が支払っている社会保障費を食いつぶしているだけの存在と考えてよいのだろうか?

これまで、本連載では、折にふれ、中高年・高齢者の労働力率の変化を取り上げてきた(例えば、3年前に配信した「コロナ禍でも外出を控えなかった高齢者…現役世代の少食化vs.リタイア組の大食い化が進んでいる背景」)。ここで再度最新の2025年まで更新したデータを図表5に掲げた。

近年の中高年・高齢者の生活変化の最大のものは年を取っても働くようになったことである。

理由については過去の連載記事をご覧いただきたいが、一言でいえば、物価高騰の中、収入の柱である年金の足しにしようと、働けるうちは働くようになってきている、あるいは働かざるを得ないようになってきているからである。

■社会へのコミットメント意欲が少し暴走

そう考えると、中高年・高齢者の通院やネット依存の拡大もまた別の見方ができるのではないだろうか。確かに、中高年の医者通いやスマホ依存で時間やお金を費やしている規模は巨大であり、社会への負担ばかりが不安要素として目立っている感は否めない。

ただ、中高年や高齢者の最大の変化は働く比率が上がっていることであり、医者通いは老骨に鞭打って働き続けるための体づくり、スマホ依存はネットを通じた社会へのコミットメント意欲が少し暴走しているだけだと見れば、そう悲観的にならなくてもいいのではなかろうか。

むしろ、ひとすじの光が射しているとプラスに考えることもできる。すなわち、高齢者の通院やスマホ時間の増加は、負担の拡大なのではなく、むしろ超高齢化社会を生き抜くための投資の拡大と考えられる側面もある。と、「中高年」に属する筆者は考えるが、どうだろうか。

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本川 裕(ほんかわ・ゆたか)
統計探偵/統計データ分析家
東京大学農学部卒。国民経済研究協会研究部長、常務理事を経て現在、アルファ社会科学主席研究員。暮らしから国際問題まで幅広いデータ満載のサイト「社会実情データ図録」を運営しながらネット連載や書籍を執筆。近著は『統計で問い直す はずれ値だらけの日本人』(星海社新書)。
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(統計探偵/統計データ分析家 本川 裕)