ウクライナの石油施設攻撃がプーチンを追い詰めている…財政も国民生活も破滅の淵にあるロシア経済の惨状

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ドローン攻撃が引き起こした燃料危機

以前から私は、ロシア経済がかなり厳しいところに追い込まれつつあるということを、伝えてきたが、この状況はさらに悪化している。今回はこのことについて、日本ではあまり報じられていない点に焦点を当てながら、伝えていこうと思う。

まず取り上げたいのは、ウクライナ軍による製油所・油田・輸出港などへの徹底したドローン攻撃が引き起こした燃料危機だ。これが、ロシア経済のほぼ全領域に影響を及ぼしている。

ロシアの原油生産量は、2022年段階で日量1080万バレル程度だったが、今年6月には日量900万バレルを下回ったと見られている。生産量は2割弱ほど落ち込んでいることになる。

原油生産量以上に落ち込んでいるのが製油処理量だ。7月だけでロシア国内の18カ所の製油所がウクライナの攻撃対象となり、ドローン技術の向上によって、ウクライナ国境から2500キロ以上離れた場所に位置する同国最大のオムスク製油所まで標的にされた。タンカーやパイプラインへの攻撃も相次いだ。ロシアの製油処理量は日量530万〜560万バレルとされていたが、今年7月にはこれを3割以上下回る日量360万バレルまで落ち込んだ。これは2002年5月以来、実に24年ぶりの低水準だ。高品質ガソリンの生産量が65%、ディーゼルの生産量が40%も減少したとの指摘もある。

こうした事態を受け、ロシアは大国のメンツを捨てる決断をした。エネルギーの完全な自給自足を諦め、不足する分を外国から輸入する方針に切り替えたのだ。ベラルーシから日量平均で4万バレル相当の輸入を始めており、インドからは日量平均で2万バレル相当のガソリンを輸入する方向だ。だが、ベラルーシもインドも生産能力からして、これ以上の輸出は無理だと見られている。ロシアはカザフスタンからも輸入しようと動いているが、実はカザフスタンはそもそも国内需要を満たすだけの製油施設がなく、ロシアからガソリンを輸入することで補ってきた国である。仮に輸入できたとしても、たかが知れていると言わざるをえない。国内生産では日量18万バレル程度不足すると見られ、それを補えるのが6万バレル程度の輸入だということになると、国内需要は不足傾向にならざるをえない。

燃料危機は景況感にも

深刻なのは、この燃料不足が前線のロシア軍にも影響を与え始めたところだ。軍用車両向けディーゼル燃料についても、一度の給油量が20リットルに制限される事態が、一部の部隊では生じているようだ。

ウクライナは油田や製油所を攻撃する際に、修理するのに時間がかかるところを狙って攻撃するようにしており、ロシア側の被害は今後さらに大きくなることが予想される。現在でも物流にはかなりの打撃が生じているが、ロシアの製油処理量が仮に日量300万バレルを切るところまで落ち込めば、ロシア国内の物流はかなりパニック的な状況に陥るのではないか。なお、ロシア政府はガソリンの品質基準を緩め、質より量を確保する動きにも出ている。

燃料危機の深化は景況感の変化にも表れている。ロシア中央銀行が企業向けアンケート結果に基づいて発表するビジネス景況感指数は、2026年6月のプラス0.9から7月はマイナス3.6へと急落した。燃料の不足が深刻化する中で、燃料価格の急上昇を引き起こすことになる。ロシア経済は目下、軍需品の生産を優先する中で民生品の生産が抑え込まれていて、民生品は不足感が強い中でインフレ傾向を孕んでいる。この中で燃料価格が急上昇すると、インフレを加速させることに当然つながる。

ロシア中央銀行は利上げによってインフレ抑制を図りたいのだが、利下げによる景気下支えをプーチン政権によって求められる状態になっている。ロシア政府系シンクタンクである経済予測センター(CMAKP)は、ロシア経済がすでにスタグフレーションに陥っているとの分析を示し、1年以上続く可能性が高いとしている。

戦時経済の歪みが

ウクライナに対する侵略戦争開始以降、ロシア経済は軍需産業に支えられてきた。ロシア科学アカデミー傘下の経済予測研究所は、医薬品と輸送機器を除く19の民間部門で生産量が減少していると指摘した。医薬品が伸びているのは傷病兵への対応であり、輸送機器が伸びているのは、軍事兵站に絡んでの話だ。つまりこれらも軍需が反映していると見ればいい。民需産業は間違いなく停滞している。

では軍需産業は今でも伸びているのか。確かに防衛関連の3業種(輸送機器、電子・光学製品、金属加工品)の生産は2023〜25年でほぼ倍増した。しかし、その軍需も頭打ちになってきた。産業貿易相アントン・アリハノフ氏は「防衛産業という工業成長の牽引役は、まもなく生産の上限に達し、高い水準からこれ以上の押し上げ効果は期待できなくなる」と述べている。

軍需産業が大きくなったのは事実だが、財政難に陥っている政府は軍需品の買取価格の抑制に強権を発揮しており、軍需産業が必ずしも利益を上げているわけではない。設備を更新するような費用は捻出できず、生産を効率化するインセンティブは働いていない。

戦時経済の歪みは、ロシアを代表する巨大インフラ企業にも表れている。例えば国有のロシア鉄道の2025年の純利益は、前年比22分の1に激減した。22分の1に減っても、まだ黒字ならいいじゃないかと思うかもしれない。だが同社は2024年に1.5兆ルーブルも投資していたのに、2025年には投資額を890億ルーブルにまで抑え込んだ。投資額はなんと前年比6%にまで落としたのだ。新規の車両の購入をやめ、インフラの更新もほぼストップさせたことがわかるだろう。それでも純利益が前年比の22分の1しかないのである。さらに本社人員の15%(約6000人)の削減にも踏み切った。

ロシア鉄道は4兆ルーブル(8兆円)近い債務を抱え、目下の高金利が財務負担を大きく押し上げている。このままでは運営できなくなるとして、ロシア鉄道は政府に緊急支援を要請したが、政府財政状況が逼迫しているために拒否されている。その代わりとして、政府は2027年に予定していた貨物運賃引き上げを前倒しし、2026年10月から実施することを決定した。侵攻開始以降の累積運賃上昇率は56%に達する見通しだ。

ロシア最大のEコマース企業のワイルドベリーズは、ウクライナのドローン攻撃により全倉庫面積の27%以上、14カ所の物流拠点が操業停止に追い込まれた。同社は「ロシアのアマゾン」とも称されるように、ロシアのネット通販事業で45%程度のシェアを握る圧倒的な企業だ。ウクライナ側からは、ワイルドベリーズが軍需物資の流通を担っているから攻撃対象にしているとの説明がなされているが、民生品の流通を阻害することで、ロシア国内の厭戦気分を高めたい意図も当然あるだろう。7月末段階でワイルドベリーズが受けた損害は、倉庫の復旧費用だけで約13億ドル、出品している店舗運営者の損失は最大34億ドルに達するとの試算もある。

ワイルドベリーズは、今後自社に対するウクライナの攻撃があるかもしれないと予見された段階で、出品者との契約内容を改定し、そうした損害が自社に及ばないようにしていた。すなわち、ミサイル攻撃・ドローン攻撃などによって、商品の紛失・損傷があっても、店舗運営者はワイルドベリーズに財務的責任を問うことはできないとする内容に変更していたのだ。これにより、店舗運営者は倉庫内の商品を失っても補償を受けられない立場に置かれたのだが、これに対して店舗運営者が激しく怒りを覚えるのは当然だ。彼らには世間の同情も集まりやすく、この問題を放置すると、社会不安につながることになりかねない。これを懸念し、ロシア政府は影響を受けた店舗運営者を支援するための措置を打ち出す方向を示したが、支援をするだけの財政的な裏付けがロシア政府に果たしてあるのかは疑問だ。

戦費が財政を食い尽くす

ロシアの戦費は当初予算を大幅に超過し続けている。この結果、ロシア財政はまさに火の車状態だ。ロシア国防省はプーチン大統領に対し、本年度の戦争予算がすでに280億ドル(約4兆5000億円)以上超過していると伝えたとされ、2027〜28年にはさらに540億ドル(約8兆8000億円)の追加超過が見込まれるという。議会が決めた財政の枠を全く無視した予算執行が行えるのは、強権国家ゆえだろう。それはともかく、侵攻前の2019〜21年に年間約470億ドルだった国防費は、2026年には1600億ドル程度に膨らむ見通しだ。

ロシア財務省は当初、国内での借り入れによって年間4兆4000億ルーブル(9兆円)を調達する計画だったが、国債価格が下落し利回りが上昇したことを受け、7月には国債入札を無期限に停止した。10年債の利回りは16.5%を超える水準まで上昇しており、財務省としては、この金利水準では借り入れはできないという判断なのだ。

さらに深刻なのは、銀行部門にも国債を買い支える余力が乏しくなっている点だ。国内最大手のズベルバンクのスクヴォルツォフ副社長兼最高財務責任者は、銀行システムからの現金流出が年初来で約2兆ルーブルに達し、連邦予算赤字の資金調達に使用される政府債券を購入できるほどのルーブルの流動性がないと語った。ちょっとわかりにくい言い方だが、銀行側にはもはや国債を買う余裕はないと言っていることがわかればよい。

ロシア政府に近いシンクタンクCMAKPは、銀行の抱える不良債権が10%を超えたと指摘し、「不良債権の返済繰り延べや国有銀行の優位性によって、危機は表面化しないまま潜在的に進行している」と警告した。これまたちょっとわかりにくい言い方だが、政府が絶対に潰さない国有銀行が不良債権の回収を行わずに追い貸しすることで、危機が先送りされているだけであって、今やロシアの金融業界は満身創痍の状態にある。そうした不良債権があまりに膨らんでいるから、インフレが加速する懸念があり、確実な返済の見込みも持てないロシア国債を買う余裕はないというのが、銀行側の本音だと見ればいい。

ウクライナ領土1平方キロ獲得に2億3400万ドル

戦時下でロシアは企業・家計向けの優遇融資を積極的に拡大してきた結果、2021年以降、企業債務は93%、家計債務は57%増加した。高金利下でこの債務の返済負担が重くのしかかり、2025年には63万6000人のロシア国民が破産を宣告された。これは前年比でも30%増であり、2021年の約3倍という記録的水準だ。企業倒産も増加傾向にあり、中小零細企業ほど返済に苦しむ傾向が鮮明になっている。

ロシア中央銀行はすでに年初来で2兆3000億ルーブルを銀行システムに追加供給して、流動性危機が迫っている銀行経営を支えているが、そのレベルではロシアの金融システムは維持できないとの悲鳴が、銀行業界から発せられているのだ。だが、この状況の中で、ロシア中央銀行が銀行側に対してさらにルーブルの追加供給を行うとすれば、悪性インフレがさらに進むことになり、これに応じて金利はさらに上昇し、庶民の暮らしはさらに追い詰められることになる。

ロシア財務省が目標としていた2026年の財政赤字3兆8000億ルーブルに対し、民間銀行ガスプロムバンクのアナリストは、実際の政府財政の赤字は6兆5000億〜7兆5000億ルーブルに達し、目標のほぼ2倍に膨らむと予測している。

財政圧迫は、プーチン政権が看板政策として掲げてきた技術開発プロジェクトにも及んでいる。宇宙技術プロジェクトは計画されていた予算の全額が凍結され、工作機械・産業ロボットの国産化を目指す生産・自動化プロジェクトの予算は4分の1以下に削減された。

こうして見た場合に、ロシアが生産性のない戦争に振り回され、国家の発展にとって重要なものがないがしろにされ、国民生活が犠牲にされる最悪の事態に陥っていることが、如実に示されていると言えるだろう。そしてそのために、ロシア政府の財政もロシアの金融もズタボロ状態になっているのだ。

ロシアは強権国家であり、国民が不満の声を上げることは簡単ではない。ロシア国民は耐乏生活にも慣れている。だからここまで追い込まれていても、ロシアが簡単に音を上げることはないだろう。矛盾を拡大させながらも、ロシアはまだ生き延びるだろう。だとしても、ロシアの危機は、政府財政と金融に大きな負荷を掛け、そうした矛盾をインフレと国民生活の不便さに皺寄せながら、さらに進んでいくことになる。

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