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 暗号資産(仮想通貨)の売却益を一律20%の申告分離課税とする制度が、2028年から始まる見込みだ。ただし、対象は国内の取引所で特定暗号資産を譲渡した場合に限られ、海外取引所やDEX(分散型取引所。中央の管理者がおらず、プログラムによって暗号資産の取引が仲介される仕組み)、ステーキング報酬などは従来どおり総合課税となる。「最大55%から20%へ」という言葉だけでは見えない、開始時期と適用条件、売却場所による税額差を整理する。

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「最大55%から20%へ」だけでは分からない二つの落とし穴

 暗号資産(仮想通貨)の売却益に対する課税が、20%の申告分離課税になる。令和8年度税制改正でそのための規定が設けられ、報道でも「最大55%から20%へ」という見出しが並んだ。ここでいう20%は、所得税15%と住民税5%の合計である。

 申告分離課税とは、その利益だけをほかの所得と切り離して税額を計算し、自分で確定申告する方式をいう。給与などとまとめて計算する「総合課税」と対になる申告の方式である。

 これまで、暗号資産の売却益は原則として雑所得とされ、給与などと合算した上で所得が大きくなるほど段階的に税率が上がる累進税率が適用されてきた。最高では所得税45%と住民税10%で55%、復興特別所得税等を含めればそれを超える。復興特別所得税等とは、所得税額に2.1%を上乗せするものである。

 上場株式の譲渡益が20%で済むこととの落差は、投資家からも業界団体からも長く問題視されてきた。今回の改正が、この分野にとって大きな出来事であること自体は間違いない。

 もっとも、「暗号資産の税金が20%になった」という言い方は、二重の意味で誤解を招く。第一に、まだ始まっていない。第二に、始まったとしても、20%になるのは暗号資産の取引の一部にとどまる。この点を押さえないまま売買を続けると、確定申告の段階で当てが外れることになる。

20%課税はいつ始まる? 改正法から読む2028年開始の根拠

 先に全体像を示しておく。

 投資家にとっての主なメリットは3つある。「国内の取引所で売った利益の税率が下がること」、「損失を3年間繰り越せるようになること」、「暗号資産の現物取引のほか、デリバティブ(値動きをもとに損益が決まる先物取引・証拠金取引など)についても同様の取り扱いになること」である。

 注意すべき点も3つある。「売る場所によって扱いが分かれること」、「損失の使い道が狭いこと」、「扶養や住宅ローン控除の判定に使われる『合計所得金額』(各種の控除を受けられるかどうかを判定するために使う、その年の所得の合計額)には従来どおり利益の全額が入ること」である。

 そもそも、なぜ税率が下がることになったのか。理由は、暗号資産を資金決済法の世界から金融商品取引法の世界へ移し、投資対象として一定の規律を及ぼす代わりに、税制上の取り扱いも株式などに近づける、というものである。

 取引所に対する規制、インサイダー取引規制、情報開示の義務づけといった規制強化と、分離課税という税負担の軽減とが、一体のものとして進められた。

 分離課税の規定そのものは、すでに国会を通過している。「所得税法等の一部を改正する法律」として、令和8年(2026年)3月31日に公布された。

 ただし、改正法が動き出すには前提がある。暗号資産を金融商品取引法の対象に移すという、規制側の改正である。こちらは「金融商品取引法及び資金決済に関する法律の一部を改正する法律」として、同年7月23日に公布された。

 問題は、その施行日である。暗号資産に関係する規定の施行日は、公布の日から起算して1年を超えない範囲内において政令で定める日とされており、この政令は本稿執筆時点では定められていない。公布日から数えると、遅くとも令和9年(2027年)7月22日までには施行されることになる。新しい制度への準備期間を考えると、令和9年中の施行が見込まれる。

 そして分離課税は、この施行の日の属する年の翌年1月1日以後に行う譲渡から適用される。施行が令和9年中であれば、適用開始は令和10年(2028年)1月1日であり、その分の確定申告は令和11年(2029年)の2月から3月ということになる。

 読み違えやすいのは、「施行日の翌年」ではなく「施行日の属する年の翌年」という点である。仮に令和9年の年央に施行されたとしても、その年の残りの期間の取引は、従来どおりの総合課税である。「20%になったらしいから」という理由で2027年中に売却しても、税率は変わらない。

対象銘柄を国内取引所で売却、20%課税に必要な三つの条件

 次に、対象の範囲である。20%の分離課税が適用されるには、適用開始日以後の取引であり、原則として日本に住んでいる個人が対象であることを前提として、さらに3つの条件をすべて満たす必要がある。

 第一に、売却する暗号資産が「特定暗号資産」に当たることである。これは、国内の取引所が金融庁に届け出て、取り扱っている銘柄であると理解しておけばよい。

 ビットコイン(BTC)やイーサ(ETH)など、国内の取引所で普通に売買されている銘柄は、これに当たると考えられる。ただし、条文には、財務省令によって対象から除いたり、逆に加えたりできる旨の定めがある。その省令は本稿執筆時点で公表されておらず、最終的な線引きはまだ確定していない。

 第二に、国内の暗号資産取引業者を通じて売ることである。暗号資産を売買・保管できる場所は、国内の取引所とそれ以外である。それ以外とは、海外の取引所、DEX(分散型取引所)、そして自分で暗号資産を管理するプライベートウォレット(スマートフォンやパソコンのアプリなど)である。

 20%が使えるのは、このうち国内の取引所を通じた売却だけで、取引所に売却を委託する場合と、取引所を相手方として直接売る場合の両方が含まれる。裏を返せば、海外の取引所、DEX、個人間での売却などは、銘柄が特定暗号資産であっても分離課税の対象にならない。

 第三に、「譲渡」であることである。ステーキングやマイニングは、いずれもブロックチェーンの維持に参加したことへの報酬として、新たに暗号資産を受け取る仕組みである。エアドロップは、無償で暗号資産をもらうことであり、受け取った時点で、その時の時価が所得になる。これらは暗号資産の売却ではないため、改正後も総合課税のままである。

 ここまでを図にまとめると、次のようになる。

 それぞれの課税方式の中身は、次のとおりである。

 暗号資産に関する所得であるからといって、1年分の損益をひとまとめにして眺めることは、もはやできない。

 なぜ、分離課税の適用にはこうした限定がかかるのか。株式と比べてみるとわかりやすい。株式には株主名簿や振替制度といった仕組みがあり、取引の存在を証券会社の報告書によらずに把握できる制度的な基盤がある。

 一方、暗号資産には、これに相当するものがない。だからこそ、国内の取引業者から税務当局へ利用者の身元や取引内容が報告される経路に限って、軽い税率を認める。そう設計されていると読むことができる。

円に戻さなくても課税、暗号資産同士の交換に潜む落とし穴

 ここで、一つ確認しておきたいことがある。暗号資産同士の交換は、それ自体が課税の対象となる取引である。暗号資産Aを暗号資産Bに交換した時点で、手放した暗号資産Aの含み益、つまり買ったときからの値上がり分に対して課税関係が生じる。まだ売っていないので現金は手元にないが、税金の計算上は利益が出たものとして扱われる。円に戻していなくても同じである。

 分離課税との関係でいえば、国内の取引所で特定暗号資産をほかの銘柄に交換した場合、手放したものが特定暗号資産であれば、分離課税の対象になり得る。受け取った側の銘柄が何であるかは問われない。

 このことは、分離課税を待つ人にとって具体的な意味を持つ。分離課税の対象にならない銘柄を持っている人が、適用開始に備えて、それを国内取引所で扱われている銘柄に交換しておこうと考えたとする。

 ところがその交換の時点で、元の銘柄の暗号資産に蓄積されていた値上がり分が利益として確定し、総合課税で税額が計算される。乗り換えた後の値上がり分には20%が適用されるとしても、乗り換えまでに蓄積されていた利益には、従来どおりの税率がかかる。「先に分離課税の適用がある銘柄に変えておく」という戦略は、この限りにおいて通用しない。

税率20%が必ず得とは限らない、課税所得330万円の分岐点

「20%のほうが安い」とは限らない。ここは誤解が多いところである。分離課税は一律20%であるのに対し、総合課税は累進税率である。所得が低い人にとっては、総合課税のほうが税率は低い。

 以下では「課税所得」という言葉を使う。売却代金から取得費などを引いた利益に、給与などほかの所得を足し合わせ、そこから基礎控除や社会保険料控除といった所得控除を差し引いた、税率を掛ける直前の金額のことである。

 暗号資産の利益のほかに所得がない人を例にとると、課税所得の段階ごとの税率は、次のようになる(いずれも所得税に復興特別所得税等を上乗せしたうえで住民税を加えた率であり、695万円超の場合の記載を省略)。

 分かれ目は課税所得330万円である。これを超える部分については分離課税が10ポイント以上有利になるが、それ以下の部分では総合課税のほうが安い。

 ただし、この比較は「暗号資産の利益しかない人」の話である。給与所得のある会社員の場合、暗号資産の利益はその人の一番高い税率の上に乗るため、分離課税が有利になる水準はずっと下がる。

 給与の課税所得がすでに400万円ある人が暗号資産で200万円の利益を得たとすれば、その200万円には総合課税なら30.42%、分離課税なら20.315%が適用される。

 金額で見ておこう。この会社員が国内の取引所で200万円の利益を確定した場合、分離課税なら税額は約40万6000円である。同じ利益を海外の取引所で確定して総合課税になれば、約60万8000円となる。差は約20万円である。利益の額が大きくなるほど、この差は開いていく。

 さらに気をつけたいのは、この有利・不利が「どこで売るか」で決まってしまうことである。

 国内と海外のどちらで売るかという選択が、そのまま節税の余地になる。しかもその選択は年末に振り返ってできるものではなく、売却時点で済ませておかなければならない。もっとも、取引所の間で暗号資産を移す手間や送金手数料もかかるうえ、前述のとおり移動の過程で別に課税される取引が生じることもあるため、税率だけで決められる話ではない。

50万円控除も長期保有優遇もなし、譲渡所得の思わぬ落とし穴

 所得税では、所得をその性質に応じて区分し、区分ごとに計算のルールを決めている。給与所得、事業所得、譲渡所得といった具合である。

 改正では、暗号資産を売って得た利益が、これまでの雑所得や事業所得に加えて譲渡所得にも区分されうることが、条文上はっきりした。譲渡所得と聞くと、有利な計算方法を思い浮かべる方がいるかもしれない。

 そうはならない。譲渡所得には通常、年間50万円の特別控除があり、5年を超えて保有した資産の譲渡益は2分の1だけを課税対象とする扱いがある。今回の改正は、暗号資産についてこの両方を明文で外している。分離課税でも総合課税でも同じである。

 また、営利を目的として継続的に売買している場合は譲渡所得から除かれるため、実務上は改正後も雑所得とされる可能性も残る。譲渡所得に区分されたとしても、計算が軽くなるわけではない。

 ここまで見てきたように、新制度の節税効果は、適用開始後に対象銘柄を国内の取引所で譲渡した場合に初めて生じる。さらに、改正の影響は税率だけではない。【後編】では、3年間の損失繰り越し、扶養や住宅ローン控除、確定申告、取引情報の報告など、実務上見落としやすい論点を確認する。

【後編はこちら】暗号資産の「20%課税」で見落とせない注意点、損失繰り越し・扶養・確定申告の負担はどう変わる?

筆者:泉 絢也