全方位に音を出せるよう組んだスピーカーを手に「よく働いてくれている」と話す篠原住職(岡山市北区で)

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 音楽好きが高じて本堂で音楽ライブを開くこと27年。

 自ら音響調整を行うことも多い。こだわりのスピーカーを設置した音響の良さが評判を呼び、今では国内外のミュージシャンから出演希望が絶えない岡山県内屈指の“ライブ会場”だ。

「立派な建物を使わない手はない」

 元々音楽好きの父(先代住職)がタンゴを流す家庭で育ち、中学の頃から、YMOなどのテクノポップにはまった。シンセサイザーを購入し、多重録音にのめり込んだ。

 写真にも夢中になるなどアート全般への関心が高まって東京芸術大を受験するが、2年続けて不合格に。寺を継ぐため京都市の花園大学に進学し、寺に住み込みながら仏教を学んだ。

 卒業後に修行した京都・南禅寺では、音楽や陶芸の展示、ファッションショーなどのイベントが開かれていた。思えば、かつて大陸の文化が最初に入ってくるのは寺で、トレンドの発信地だった。「立派な建物を使わない手はない」。実家の寺を文化発信の拠点にすることを思い描き始めた。

 副住職として岡山に戻り、1999年に開いた最初のライブでは、インドの楽器「シタール」の奏者を招いた。70人以上が集まり、盛況を博したが、プロに頼んだ音響にはもう一つ満足できなかった。

 「CDの方が音が良いというのではだめだ。生音の良さがそのまま伝わらなければ」。中古のスピーカーミキサーを買い集め、老舗ライブハウスにも助言を求めた。試行錯誤の末、異なる向きのスピーカーをあちこちに置くことで、本堂のどこからでも音が自然に聞こえるように。「築300年以上の木造なので変な共鳴が起きず、出過ぎた音は自然に抜けていく」と、元々の環境も強みとする。

 年数本だったライブは徐々に増え、多い時には年500本ほどの出演希望がきた。ただ年100本程度が限界で、断らざるを得ないこともしばしばある。

 この間、国内外の著名な音楽家たちも数々出演してきた。ピアニストのオマール・ソーサさん(キューバ)や英国での単独公演を開催するシンガー・ソングライター青葉市子さんも、その一人。出演者からの会場の評価は高く、「今までで一番良い音」と言われ、ライブ録音がCD発売されたこともある。

 住職になったのは2008年。本業ではないライブと寺の運営の両立は楽ではない。ライブを始めて20年たった頃にやめることも考えたが、長女から「やめないでほしい」と言われた。「私がアホなことをわいわいやってるのが楽しそうだったんでしょう」。できるかぎり続けることにした。

 「音楽には落ち込んだ人を救ったり、人を束ねたりする力がある」。音の魅力に取りつかれた住職は、今日も巨大なミキサーを操りながら、演奏を見守っている。(佐々木伶)

 ◆篠原真祐(しのはら・しんゆう) 岡山市生まれで、1632年に創建された蔭凉(いんりょう)寺(岡山市北区)の15代目住職。独学で学んだ音響技術を買われて、神戸市ライブハウスの音響設計を手がけたことがある。写真家としての一面もあり、記事掲載のライブ写真も自ら撮影したもの。