社長が「怖い」と漏らす注文量…AIサーバーに最大2万8000個入る、日本企業2社が握る「米粒より小さい部品」とは

■日本企業が寡占する「電子産業のコメ」
「今我々が目にしている量(需要)は、怖いくらいです」
東証プライム上場のセラミックコンデンサー大手、太陽誘電の佐瀬克也社長は自社に殺到するAIサーバー向け部品の注文について、ブルームバーグの取材でそう表現した。
「1社でもつまずけば、たちまち追いつかなくなりかねないほど、プレッシャーは極めて強い」と続ける。
同社が手がけるのは、積層セラミックコンデンサー(MLCC)と呼ばれる部品だ。1個のサイズは米粒より小さいが、電子機器内で電気の流れを安定化・制御する欠かせない役割を担う。
香港英字紙のサウスチャイナ・モーニングポストが、「電子産業のコメ(The ‘rice of electronics‘)」と評するように、スマートフォンから電気自動車(EV)まで欠かせない存在だ。
いま、生成AIが膨大な演算量を必要としていることで、MLCCの需要は急速に伸びている。世界各地でAIデータセンターの建設が急ピッチで進むなか、この小さな米粒大の部品が、新たなボトルネックになりつつある。
MLCC市場全体では、村田製作所が約4割で世界最大手、韓国のサムスン電機が2割前後で続き、太陽誘電は1割前後にとどまる。だがAIサーバー向けの高性能品に絞ると、勢力図は入れ替わる。ブルームバーグは、「太陽誘電と村田製作所が、世界の高性能MLCC供給の大部分を占めている」と述べ、日本の2社の存在感の大きさに言及している。
■スマホに1000個、AIサーバーに2万8000個
サウスチャイナ・モーニングポストは、AIサーバー1台に必要なMLCCは最大約2万8000個にのぼり、標準的なサーバーの約13倍に達すると指摘する。スマートフォン1台あたりに搭載される800〜1000個と比べれば、約30倍にあたる。
なぜ、これほどの量が必要なのか。AIサーバーで主な演算処理を担う半導体チップ「GPU」は、演算時に大量の電力を瞬時に消費し、電圧が急激に変動する。
この変動を吸収するため、GPUのすぐそばにMLCCを大量に配置して電圧を安定させる「デカップリング」が欠かせない。GPUの演算能力は世代ごとに向上し、電圧変動の幅も拡大するため、搭載すべきMLCCの数は世代交代のたびに急増するわけだ。
例えばGPU最大手・エヌビディアの前世代製品「GB200」は1枚のボードにMLCCを6500個搭載していた。現行世代の「GB300」を挟み、今年後半に登場予定の次世代「Rubin」では1万2000個と、2世代でほぼ倍増する見込みだ。
エヌビディアと並ぶ半導体大手のAMDでも、MLCCの採用が急速に進む。台湾ハイテク市場調査会社のトレンドフォースによると、AMDは次世代プラットフォーム「MI450」の検証段階で、部品表に含まれていたアルミ電解コンデンサーとタンタルコンデンサーをすべてMLCCに置き換えた。その結果、ボード上に使われる特定仕様(47μF 2.5V X6S 0402)のMLCCは1440個から1万544個へ、約7.3倍に急増した。
関連して、運転のアシスト機能の搭載が進む自動車分野でも、高性能MLCCの需要は大きい。村田製作所は、「レベル2」(車線維持や加減速の補助)以上の自動運転機能を持つEVでは1台あたり1万個超のMLCCが使われると説明する。
■小型化と高性能化を両立した「世界初」の技術
両者の圧倒的な地位を支えているのは、相次いで確立された高いレベルの量産技術だ。
村田製作所は2025年7月、1005ミリサイズ(1.0×0.5mm)で静電容量(コンデンサーに蓄えられる電荷の量を示す値)47μFのMLCCの量産を開始したと発表した。
同じ47μFを実現していた従来の0603インチサイズ(1.6×0.8mm)品と比べ、実装面積の約60%削減に成功している。1005ミリサイズの従来品(22μF)と比較すると、約2.1倍の静電容量を同一面積で実現した計算になる。
最高105℃の高温環境下でも動作が可能で、大量の熱を発するIC(集積回路)のすぐそばに配置できる点も実用上の大きな強みだ。
太陽誘電も同年8月、群馬県の玉村工場で1005ミリサイズ・22μFの基板内蔵対応型MLCCの量産を世界で初めて開始した。
AIサーバーなどのIC電源ラインにおいて電源ノイズを除去・安定化させるデカップリング用途に特化した設計で、基板の表面ではなく内部に埋め込む構造によりさらなる省スペース化が可能になる、と同社は説明する。
AIサーバー向けのMLCCは、内部に1000層を超える極薄のセラミック層が積み重ねられている。ブルームバーグは、この層に埃や気泡を入れずに仕上げる製造上の難題があり、それにより競合他社の追随が困難になっていると指摘する。

■需給逼迫で納期は10週から24週に
高度な製造技術が要求されるゆえに、増産は容易でない。
韓国の電子部品メーカー、サムスン電機で主席研究エンジニアを務めたフィリップ・ユン氏は韓国英字日刊紙のコリア・ヘラルドに対し、AIサーバーには絶対数として多くの部品点数が求められるだけでなく、生産プロセスの限界近くまで迫る静電容量密度が求められると説明する。
同紙が伝えるキウム証券のアナリスト、キム・ソウォン氏の分析では、こうした技術的要求の高さゆえ、ハイエンドMLCCの設備をフル稼働させても、生産効率は標準品の40〜60%にとどまることがあるという。設備投資を加速しても、供給量は標準品ほどには伸びない。
こうした事情から、納品までの待ち時間はすでに大幅に延びている。サウスチャイナ・モーニングポストが伝えたミレアセット証券の調べでは、MLCCの納期は通常の10週間から最大24週間へと、140%の増加を記録した。
トレンドフォースによると、日韓主要メーカーのBBレシオ(受注額と出荷額の比率で、1.0を超えると受注が出荷を上回り需給の逼迫を示す)も2026年4月以降、上昇が続いている。
2026年6月末時点で、村田製作所・サムスン電機・太陽誘電のBBレシオはそれぞれ1.30・1.31・1.25で、コロナ禍以降の最高水準に達している。MLCC業界全体のBBレシオも1.04に上昇した。
■「今年も来年も非常に逼迫する」
MLCCの需給バランスが逼迫したことで、部品価格は上昇傾向にある。
サウスチャイナ・モーニングポストが報じるように、村田製作所は2026年度の設備投資2500億円のうち800億円をサーバー向けMLCC増産に充てる計画だ。
一方、既存工場の稼働率はすでに95%近くに達している。出雲に新設された工場も、トレンドフォースの見通しでは2027年まで本格稼働しない。
村田製作所の最先端MLCCへの引き合い数は、すでに生産能力の2倍に達している。同社の中島規巨社長は、ブルームバーグのインタビューで、「顧客が求める数量は、まったく不可能なレベルです」と語った。需要予測がどこまで実発注につながるかは見極めが要るとしつつも、先端品の供給は、「今年も来年も非常に逼迫する」との見通しを示している。
ブルームバーグは今年2月、村田製作所が最先端MLCCの値上げについて社内協議を始めたと報じている。また、太陽誘電も値上げに動いた。欧州エレクトロニクス専門誌のeeニュース・ヨーロッパによると、同社は業界に先駆けて4月に低容量の民生用・車載用MLCCの価格を6〜13%引き上げている。
ブルームバーグ・インテリジェンスのアナリスト、若杉政寛氏は、村田製作所がMLCC市場全体で40%超、AIサーバー向け先端品では最大約70%のシェアを占めると分析する。値上げ検討が報じられた当日、同社株は6.9%高で引けた。

■韓国から「唯一の代替先」が参入
こうした中、韓国サムスン電機がAIサーバー向け先端MLCCの量産に加わった。同社は先端品以外を含むMLCC製品全般において、世界シェアの20〜25%を占める。
コリア・ヘラルドは今年1月、平均販売単価がIT向けの2〜3倍に達するAI向け先端MLCCにおいて、シェアで首位の村田製作所に続き、サムスンが唯一、「現実的な代替調達先」になり得るとの見方を報じた。
実際、トレンドフォースによると、同社は今年3月、村田に約3カ月遅れて先端MLCCの量産体制に入っている。
にもかかわらず、逼迫は相変わらず長期化するとの見方が広がっている。
サウスチャイナ・モーニングポストによると、ゴールドマン・サックスは今回のAI主導の需要サイクルを、MLCC市場史上「最大かつ最長」と評した。同社はこのサイクルがまだ初期段階にあり、ピークはこれからだと分析する。
MLCCの世界市場をリードする村田製作所も、同様の認識を示している。米ブルームバーグの2026年2月の報道では、チップメーカーやデータセンター事業者の開発ロードマップを直接把握する立場にある同社の社長が、AI関連投資は少なくとも今後3〜5年、拡大のペースがさらに上がるとの見通しを示している。
■サムスンを歓迎する日本企業の余裕
市場規模の予測も、AI関連投資がより一層拡大するという見通しと整合する。eeニュース・ヨーロッパが伝えた調査会社モルドール・インテリジェンスの推計では、AIサーバー向けを含む低電圧MLCC市場は2026年の約190億ドル(約3兆1000億円。7月23日現在のレート、1ドル163.06円で換算、以下同)から2031年には約422億ドル(約6兆8800億円)へ倍以上に拡大する見込みだ。
モルドール・インテリジェンスは年平均成長率が約17%に達すると予測しており、コンデンサーや抵抗器などのいわゆる「受動部品」としては突出した伸び率である。
太陽誘電の佐瀬氏はブルームバーグの取材で、こうも明かしている。
「この分野にプレイヤーが2社しかおらず、しかもこれほどの需要量になると、2社ともきつい。こういった製品を供給する3社目がいてくれれば、私の精神衛生にとってもありがたいのですが」

世界のAIインフラに不可欠な、高性能なMLCC。量産の実績で世界に知られる企業は、現時点で実質2社しかない。エヌビディアのGPUの安定稼働にも、米粒より小さなこうした受動部品が欠かせない。
ブルームバーグは2026年5月下旬、東京市場における各社株価の急騰を報じた。太陽誘電の株価は約12%上昇し、過去最高値を更新。年初来の上昇率は300%を超えた。村田製作所も過去最高値を更新し、自動車向けコンデンサーに強いTDKにまで買いが波及したことで、電子部品大手3社がそろって過去最高値を更新した。
AIインフラの拡大を支える、米粒大の受動部品。その供給各社に静かな注目が集まっている。
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青葉 やまと(あおば・やまと)
フリーライター・翻訳者
1982年生まれ。関西学院大学を卒業後、都内IT企業でエンジニアとして活動。6年間の業界経験ののち、2010年から文筆業に転身。技術知識を生かした技術翻訳ほか、IT・国際情勢などニュース記事の執筆を手がける。ウェブサイト『ニューズウィーク日本版』などで執筆中。
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(フリーライター・翻訳者 青葉 やまと)
