〈高市ショックで支持率&株価が急落〉市場が警戒する「積極財政」の危うい正体と国債市場で起きている異変
株価急落を受け、「高市ショック」という言葉が市場を駆け巡った。しかし、本当に警戒すべきなのは株価ではない。市場が視線を向けているのは、日本国債への信頼が揺らぎ始めていることだ。ガソリン減税や消費税減税の方向性を評価しつつも、歳出削減を伴わない積極財政への懸念は強まる一方。市場が警戒する「国債の異変」の正体と、高市政権が直面する最大の課題を読み解く。
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これを「高市ショック」と呼ぶには理由がある
相場が崩れた時、人はまず株価を見る。
だが、今回の異変を株価だけで見てはいけない。本当に警戒すべきは、日本国債に対する信頼の揺らぎである。
7月17日、日経平均は前日比2694円42銭安の64141円12銭で終えた。下落率は4.03%で、一時は6%を超えた。6月の最高値からは1割以上も下がった。
ただし、この日の直接の原因は米国の半導体株安を受けたAI・半導体関連株の売りと中東情勢への警戒であり、高市政権への不信だけで崩れたわけではない。
それでも「高市ショック」と呼ぶ理由がある。株が下がる前から、国債と円への売り圧力が強まっていたからだ。株式市場より深い火種は国債市場にある。
物価高の時に政府が取るべき第一の手段は、現金給付でも補助金でもない
私は高市政権を全面否定していない。むしろ消極的にではあるが一定の評価をしてきた。
最大の理由は、高市政権下で与野党6党の合意に基づくガソリン減税が実現し、実質賃金の改善を後押ししたことだ。2025年12月31日、ガソリンにかかる揮発油税などは1リットル当たり53.8円から28.7円へ下がった。
それ以前から同額相当の補助金が段階的に拡充されていたため、店頭価格が一気に25.1円下がったわけではない。それでも、税を下げてガソリン価格を抑えれば、家計の購買力は増える。運送費や仕入れ費にも効く。
ガソリン価格の押下げ策は物価上昇を抑え、名目賃金の上昇とともに実質賃金改善の一因となった。役所を通す補助金ではなく、最初から国民の金を取らない点も好ましい。
消費税減税も、実現すれば評価する。高市政権は当初、飲食料品の消費税率を2年間ゼロにする方針を掲げた。その後、2027年4月から2年間、税率を1%に下げ、給付を組み合わせて実質ゼロ相当とする案が軸になっている。
制度と財源は固まっていないが、減税方向は正しい。
物価高の時に政府が取るべき第一の手段は、現金給付でも補助金でもない。国民から取る税を減らすことだ。ガソリン税や消費税を下げれば、年齢や世帯構成を問わず負担が減る。申請も審査もいらない。
だから、高市政権は増税と給付を続けてきた政権より明らかに良い。
だが、決定的に足りないものがある。
高市政権に決定的に足りていないもの
それは歳出削減である。
減税と積極財政は同じではない。税を下げ、その分だけ政府支出を削れば、国債を増やさずに国民の負担を軽くできる。政府から民間へ金と決定権を戻す改革である。
一方、税を下げながら政府支出も増やし、不足分を国債で埋めるのが積極財政だ。政府の規模は小さくならない。現在の納税者から取る代わりに、将来の納税者から借りるだけである。
高市政権は「責任ある積極財政」を掲げる。だが、私は積極財政そのものが間違っていると考える。政府支出を増やせば成長が生まれ、税収増で借金を処理できるという考え方は、都合の良い前提に頼っている。
政府は投資の失敗に責任を取らない。自民党政権は、クールジャパン、少子化対策、AI、半導体、脱炭素、コロナ対策、地方創生と、聞こえの良い名目で予算を広げてきた。
失敗しても政治家の財布は痛まない。事業は「検証中」とされ、別の名前で続く。民間なら撤退する事業も、政府では前年実績が翌年予算の根拠になる。
高市ショックには3つの波があった
「骨太の方針」では、AIや半導体など17分野を中心に、2040年度までの官民投資を累計370兆円超とする想定が示された。だが、民間企業が自分の金で行う投資と、政府が税金や国債で行う支出は別物だ。官民を足した巨大な数字は、政府負担を見えにくくする。
市場が見ているのは夢の総額ではない。どの補助金を切るのか。どの基金を廃止するのか。どの外郭団体を整理するのか。社会保障の無駄をどこまで削るのか。その数字である。
高市ショックには3つの波があった。
第1波は2025年10月である。高市氏が自民党総裁選に勝つと、積極財政と金融緩和への期待から株高と円安が進んだ。
だが、公明党が連立離脱を表明すると相場は逆回転し、連休明けの日経平均は1,241円48銭下落した。米中対立や政局不安も重なったが、高市トレードの弱さが露出した。
第2波は2026年1月である。衆院解散と食品の消費税停止が打ち出されると、国債の買い手が細った。税収減は年間5兆円規模と見られた。減税が悪いのではない。同額以上の歳出削減を示さなかったことが悪い。
歳出削減の具体額もなく「財政は大丈夫」と言っても信用ない
2日間で10年国債利回りは0.185%上昇し、20年国債は0.28%上昇した。30年国債と40年国債も約0.4%上がり、40年国債は4%を超えた。市場が警戒したのは、減税そのものより、財源を示さず穴埋めを国債に押し付ける姿勢だった。
第3波が2026年7月である。骨太の方針の原案から、積極財政を続け、日銀の利上げにも慎重だという印象が広がった。7月8日から9日にかけて10年国債利回りは2.88%前後へ上がり、30年国債は4%を超えた。
政府は日銀の自主性を尊重するとの文言を加え、最終案には債務残高対GDP比の安定的低下も盛り込んだ。だが、歳出削減の具体額を示さず、「財政は大丈夫だ」と言葉を重ねても信用は戻らない。
ここで日銀は逃げ場を失う。国債を買い支えれば円安圧力が強まり、輸入物価を押し上げる。利上げをすれば国債利回りが上がり、借換えが進むにつれて政府の利払い費も増える。ガソリン減税で下げた物価を、積極財政と円安が再び押し上げる。
英国では2022年、財源のはっきりしない大規模減税で国債と通貨が急落し、年金基金の国債売却が混乱を増幅した。高市ショックがこの「トラスショック」と比べられるのは、減税したからではない。歳出を削らず、国債で穴を埋めようとしたからだ。
一気に壊れる危機ではないが財政への不信が積み上がっている
日本の崩れ方は英国より遅い。日銀が国債購入を減らす一方、国内投資家は超長期国債を以前ほど買わず、財政への不信が積み上がっている。一気に壊れる危機ではない。少しずつ信用を失う「スローモーションのトラス化」である。
高市政権が今すべきことは明確だ。ガソリン減税を維持し、消費税減税を実行する。同時に、減税額を上回る歳出削減を行う。
補助金をやめ、効果の分からない基金を廃止する。民間企業への個別支援を切り、官民ファンドを整理する。成果の出ない地方創生事業を終わらせ、国と地方の重複事業をなくす。
必要なのは新しい財源でも新しい国債でもない。既存支出を削る政治決断である。
高市政権は半分正しい。ガソリン減税を実行し、消費税減税にも道を開いた。国民の手取りと購買力を増やす方向は正しい。
残り半分は完全に間違っている。減税と同時に政府支出まで増やし、成長すれば借金の重さは薄まると考えている。積極財政は成長政策ではない。政治家と官僚がドブに捨てる金を増やす政策である。
高市ショックの本質は減税ではない。歳出削減のない積極財政だ
しかも、政府支出は単に無駄で終わるとは限らない。国債発行や公的投資が金利や資源価格を押し上げ、民間投資を押しのけるクラウディングアウトを起こす。政府が金を使った分だけ民間の活動が弱まり、経済全体ではマイナスになることさえある。
日本の政治家や経産省、そしてメディアには、特定業種に金を注ぎ込めば、コスパが悪くてもマイナスにはならないという誤解が大きく広がっている。完全な誤りである。
私は高市政権を消極的に評価する。だが、歳出削減を始めなければ減税は長続きしない。国債金利と利払い費が上がれば、政府は財源不足を理由に増税へ戻る。正しい減税を、間違った積極財政が食い潰す。
高市ショックの本質は減税ではない。歳出削減のない積極財政だ。
ガソリン税を下げた判断は正しい。消費税を下げる方向も正しい。足りないものは歳出削減だけである。高市政権に必要なのは、積極財政をさらに進める勇気ではない。積極財政を捨て、政府の仕事と予算を削る勇気である。
文/小倉健一

