メディチ家当主急死の真相が440年越しでDNA分析により明らかに

by Peter Paul Rubens
1587年、ルネサンス期のイタリアで銀行家・政治家として台頭したメディチ家の当主フランチェスコ1世・デ・メディチが、トスカーナ州のポッジョ・ア・カイアーノにある別荘で急死しました。この死については弟による毒殺説もささやかれていましたが、フランチェスコ1世の遺骨から抽出した古代DNAの分析により、死の真相が明らかになりました。
Ancient DNA analyses of remains of the Medici family (16th century) provide insights into the genetic variation of Plasmodium falciparum: iScience
Genetic analysis of Medicis’ remains reveals Renaissance-era malaria strains - and closes book on a murder mystery | Yale News
https://news.yale.edu/2026/06/30/genetic-analysis-medicis-remains-reveals-renaissance-era-malaria-strains-and-closes-book
Ancient DNA Finally Solves a 16th-Century Murder Mystery : ScienceAlert
https://www.sciencealert.com/ancient-dna-finally-solves-a-16th-century-murder-mystery
フランチェスコ1世は初代トスカーナ大公であるコジモ1世の息子であり、1574〜1587年にかけて自らもトスカーナ大公となりました。フランチェスコ1世の娘であるマリー・ド・メディシスはフランス国王アンリ4世の2番目の王妃であり、マリーはブルボン朝第2代のフランス国王であるルイ13世の母でもあります。
そんなフランチェスコ1世は1587年に妻のビアンカ・カッペッロを伴って、ポッジョ・ア・カイアーノの田園地帯にある別荘を訪れました。別荘を訪れた後、フランチェスコ1世とビアンカは断続的に高熱を発したのち相次いで急死。一部の史書にはフランチェスコ1世の弟であり、兄の後を継いでメディチ家当主となったフェルディナンド1世・デ・メディチによる毒殺説が記されていたとのこと。

2006年にはフランチェスコ1世が毒殺されたとする研究結果も発表されましたが、これに対し「フランチェスコ1世はマラリアによって亡くなったのではないか」という説も提唱されていました。マラリアは熱帯から亜熱帯に分布するマラリア原虫による感染症であり、蚊の一種であるハマダラカによって人間に感染します。
マラリアを発症すると強い発熱・悪寒・頭痛・筋肉痛・嘔吐(おうと)・下痢といった症状が現れ、場合によっては重症化して死に至ります。当時のイタリア中部では何世紀にもわたりマラリアが蔓延(まんえん)しており、田園地帯だったメディチ家の別荘付近ではマラリアを媒介する蚊も多数生息していたと考えられます。実際、フランチェスコ1世の別の弟であるジョバンニ・デ・メディチも1562年に母や弟とともにトスカーナ海岸を訪れた後、マラリアと思われる病気によって亡くなっています。
今回、アメリカのイェール大学とイタリアのピサ大学の研究チームは、フランチェスコ1世とジョバンニの遺骨からDNAを抽出し、マラリア原虫の痕跡を探索しました。兄弟はイタリアのフィレンツェにあるサン・ロレンツォ聖堂内のメディチ家礼拝堂に埋葬されており、研究チームは2人の肋骨(ろっこつ)サンプルからDNAを抽出したとのこと。
以下の写真は、「CGDM」がDNA抽出に用いられたジョバンニの肋骨、「GDFIDM」がフランチェスコ1世の肋骨です。

DNAに含まれるミトコンドリアゲノムを分析した結果、フランチェスコ1世とジョバンニの遺骨からはマラリア原虫の中で最も致死性が高い熱帯熱マラリア原虫(Plasmodium falciparum)のゲノムが発見されました。また、フランチェスコ1世の遺骨からは四日熱マラリア原虫(Plasmodium malariae)のゲノムも見つかったと報告されています。
論文の共著者であるピサ大学医学史教授のヴァレンティーナ・ジュフラ氏は、「今回の遺伝子解析は、歴史的記録とこれまでの研究結果を裏付けるものです。これで、フランチェスコ1世の死因は毒殺ではなくマラリアであったと、科学的に確信を持って言えるようになりました」と述べました。
今回の研究では、ジョバンニの遺骨から採取された熱帯熱マラリア原虫のゲノムに、マラリア原虫がヨーロッパ全土に広がる際に生じたと思われる、特異な2つの遺伝子変異も確認されたとのことです。

論文の筆頭著者で、イェール大学の人類学研究者であるアレクサンダー・オチョア氏は、「古代DNAの研究は、過去の遺体からマラリア感染を診断できるだけでなく、マラリア原虫(この場合は熱帯熱マラリア原虫)の進化を理解するための手がかりも提供してくれます。これにより科学者は、マラリア原虫が時間経過とともにどのように適応してきたのかを、より深く理解できるようになります」とコメントしました。
なお、イタリアでは1970年代にマラリアが根絶されたものの、依然として世界の他の地域では、マラリアが重大な公衆衛生上の問題となっています。世界保健機関(WHO)によると、2024年には世界80カ国で推定2億8200万件のマラリア症例が報告され、61万人が死亡したとのことです。
