中には元議長も...「出稼ぎ立候補」疑惑が3人も!逗子市議選で浮上した前代未聞の“居住実態”問題

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異議申し立て内容と公文書の矛盾

地方議員の「居住実態(生活の本拠)」を巡るトラブルが全国で相次いでいる。選挙の直前に住民票だけを移し、実際には別の街で生活をしている、いわゆる「出稼ぎ立候補」の問題だ。

全国の地方選挙で、立候補の条件である「居住実態」がないとして当選無効となるケースが後を絶たない。近年で広く知られているのは、’21年の埼玉県戸田市議選で当選した「スーパークレイジー君」こと西本誠氏(39)の事例だろう。生活実態がないと判断され、最高裁まで争った末に当選無効が確定している。他にも、直近では埼玉県入間市や愛知県愛西市、過去には東京都新宿区などでも同様の事態が起きている。

そんな中、神奈川県逗子市で今年3月22日に投開票された市議選において、全国でも類を見ない異常事態が発生した。

「逗子市内に居住実態がなく被選挙権を有しない」として当選した議員の当選無効を求める異議申立てが選管に受理されたのだが、その対象がなんと「3人同時」だったのだ。異議申し立てされたのは、現職の匂坂祐二氏(56・5期目)、服部誠氏(49・2期目)、新人の伊東万美子氏(55・初当選)の3名である。

今回の異議申し立てを行ったのは、同じく同選挙で当選を果たした現職の平野和之市議(50)である。当選無効の申し立ては、次点などの落選候補者が行うケースが一般的だが、今回は現職議員が同僚議員3名を同時に異議申し立てする形となった。また、申し立て対象となった3名の中には、新人のみならず、過去に市議会議長(第65代)を務めた経験を持つ匂坂氏のようなベテランや、2期目の服部氏といった現職議員が含まれている点も異例である。

おそらく日本初となる、居住実態を巡る「3人同時の当選無効申し立て」──。その具体的な内容はどのようなものなのか。

例えば新人の伊東氏については、隣の葉山町に持ち家があり、逗子市役所までの距離は約2.5km。歩いても通えそうな場所だが、立候補時の住所は逗子市役所近くの1DKのアパートとなっている。平野議員は、

「伊東議員は葉山にローンを完済した一戸建てを所有しており、この葉山の持ち家には家族が居住しています。家族が居住しているにもかかわらず、目と鼻の先にある逗子市内のアパートにあえて単身で居住・別居する合理的理由は存在しない。実際、選挙前までは逗子の駐車場に彼女の車はなく、概ね葉山の自宅に停めてあった事実は確認しています」

と語る。また、現職の匂坂氏は「家族5人全員で移住した」として住民票を逗子市内の実家(住宅関係の商店)に移している。平野氏はその実態についても疑問を呈する。

「住んでいるところは『作業場の2階』と思われます。そこは建物裏側の障子の破れ具合から見ても、家族5人が文化的な共同生活を営める環境とは考えにくく、生活感が乏しいように見えます。実際に生活の本拠がここにあるのか、疑問が残ると考えています」

そもそも、平野氏が今回のような異例の異議申し立てに踏み切る発端となったのは、この匂坂氏に関する通報だった。

「匂坂議員が2年前に議長に就任した当時から、市外に住んでいるのではないかという噂は市議会内にもありました。そして昨年の6月ごろ、『なぜ横須賀のマンションに住んでいるのに議長をやっているのか』という具体的な通報が私のもとに寄せられたのです。実際、私が調査したところ、匂坂議員は、そのマンションの平置き駐車場を継続して借りていて、そこに本人の自家用車が駐車されていたようです」(平野市議)

そして、匂坂氏の周辺を調べる過程で、もう一人の現職・服部誠氏(2期目)の疑惑も浮上することになる。

「服部議員は現在、逗子市内の実家に住民票を置いています。しかし、勤め人時代は長年にわたり、横浜市内の自宅マンションから逗子市へ通勤する生活でした。家族を横浜に残したまま、本人のみ住民票を実家に移す行為は、市議になるための『単身赴任』や『出稼ぎ』に過ぎません。また、横浜のマンションに、現在も『本人および家族の居住』を条件とする住宅ローンが組まれ、管理組合の議決権、管理費決済口座を維持し続けていると推察されます。経済的な本拠が横浜にあることを示す根拠だと考えています」(平野氏)

取材でわかった不自然な居住実態

そもそも、なぜ地方議員には「居住要件」があるのだろうか。国会議員や知事・市長などの首長には立候補時の居住要件はない。

地方議員の居住要件に関する問題に詳しい富山大学経済学部の神山智美教授(行政法・環境法)は、地方議員にのみ「居住要件」が課されている理由についてこう解説する。

「地方公共団体は『地縁的社会』という特性を持っており、地方議員にはその地縁社会との結びつきが必須とされているためです。地域の代表として、税負担や防災、ゴミ処理などの地域の問題を共有していることが期待されているのです。さらに、地方自治の観点から、『渡り鳥候補』の擁立を防ぐ意図もあると思われます」

この「居住要件」について、公職選挙法では地方議員の立候補条件(被選挙権)として「引き続き3ヵ月以上市町村の区域内に『住所』を有すること」と規定している。つまり、居住要件を満たすためには、法律上の「住所」が3ヵ月以上その街にあると認められなければならない。

では、この法律上の「住所」とは何を指すのだろうか。神山教授は、単に住民票が置かれている場所という意味ではないと指摘し、その判断基準を次のように語る。

「公職選挙法上の『住所』として認定されるためには、『客観的に生活の本拠たる実体』を伴っている必要があります。具体的には、日々の就寝場所や、洗濯・入浴といった日常生活の場、家族の居所、郵便物の受け取り、電気・水道などの公共料金の支払い、さらには近隣や地域自治会との関係、通勤状況、財産管理などを総合的に踏まえて『生活の本拠がどこにあるか』が厳格に判断されるのです」

それでは、3議員の実態はどうなのか。記者が居住実態を取材すると、不自然な状況や生活の痕跡が垣間見えた。まず、新人の伊東氏が住民票を置く逗子市のアパート周辺ではこんな話が聞かれた。

「昨年の12月ごろから2月くらいまでの寒い時期は、いかにも20代といった感じの若い男性が住んでいましたよ。ベランダでタバコを吸っているのをよく見かけました。その若い男性が引っ越しをされて、3月ごろになってからですね、入れ替わるようにして女性が住み始めたんです。その後、女性は確実にこのアパートに住んでいました。洗濯物を干したり入れたりしているのを何度も見かけるようになりましたから」

公選法が定める「選挙の3ヵ月前」にあたる冬の時期には男性が住んでおり、住人は「女性は見なかった」と語った。選挙が迫った3月ごろから急に伊東氏本人と思われる女性の生活実態が現れたというのである。

また、匂坂氏が所有する横須賀市のマンションでは、同じマンションの住人から、

「朝のゴミ出しでは、時々匂坂さんを見かけます」

との証言を得られた。服部氏については、所有する横浜市のマンションでの生活実態はわからなかった。そのマンションは目の前に内湾が広がる海沿いに建っており、近くには大型ショッピングモールもあるなど、立地も景色も非常に良く快適な住環境であることがうかがえた。

渦中の3議員の主張は……

疑惑を持たれている3人の議員に対し、居住実態について聞いた。

伊東氏は、選挙の3ヵ月前からアパートに住んでいたかという記者の問いに対し、

「ノーコメントとさせてください」

と明言を避けた。

匂坂氏は、電話での取材に対し、

「実態はちゃんと逗子にある」

と主張。横須賀のマンションでのゴミ出しなどを目撃されている点を尋ねると、

「妻と娘がそちらにいることが多いので、朝(逗子から)戻って出してあげたりしていることはある。マンションで寝ているわけじゃないです」

とのことであった。服部氏からは文書での回答が得られた。

「私は、公職選挙法上の『生活の本拠』を逗子市に置いており、逗子市に居住しております。家族につきましては、それぞれの生活事情に応じて生活しておりますが、私自身の生活の本拠は逗子市にあります。住宅ローン契約に関する事項につきましては、金融機関との契約に基づき適切に対応しております。また、当該住宅についても、家族の生活の場として利用しております」

と疑惑を否定した。

現在、逗子市選挙管理委員会では事実関係の調査が進められている。神山教授は、「個別事案について判断する立場にない」としつつも、次のように苦言を呈する。

「住所要件は、立候補時だけの形式的な要件ではなく、議員として在職中も維持されるべき資格要件です。その意味で、継続的に疑義が指摘されているのであれば、議員本人には説明責任がありますし、少なくとも襟を正す必要があるでしょう。あわせて、議会の制度としても、議員資格に関する疑義を客観的かつ迅速に確認できる仕組みになっているかは検証の余地があります」

その一方で、神山教授は違う見方として、現行制度そのもののあり方について次のように一石を投じる。

「現代は二拠点生活やテレワークが増加するなど、生活形態が多様化しています。国も『デジタル田園都市構想』等で地方と都市の連携を強め、二拠点居住を推進しています。地方における議員のなり手不足が深刻化する中で、『住所は1ヵ所である』という前提に基づく現行の厳格な3ヵ月居住要件が、時代に合わなくなっている可能性はあります。有権者の選択肢を広げ、多様な人材を呼び込む視点からも、例えば居住要件の範囲を『同一都道府県内に3ヵ月』と広げるなど、制度を検証し直す余地はあると考えています」

果たして逗子市選管はどのような裁決を下すのか。自ら同僚たちに異議申し立てをした平野市議は、地方自治の根幹に関わる問題として、強い危機感とともに選管へこう釘を刺す。

「公選法上の住所とは、単なる寝泊まりの回数ではなく『生活の重心がどこにあるか』です。市外に家や家族を残したまま、いつでも帰れる状態での滞在は、単なる『便宜上の出稼ぎ』に過ぎません。不動産登記などの客観的な公文書がその真実を暴いています。安易な容認で地元の歴史に汚点を残さぬよう、選管には厳格な判定を求めます。住所は一つ、真実は一つです」

有権者の代表として選ばれた議員たちの「居住実態」の真偽は、地方議会の信頼そのものを問うている。その結論と今後の推移を見守りたい。

取材・文:酒井晋介