「救助袋が使えない!」児童がひさしに逃げた小学校火災…“役に立たない”避難訓練の落とし穴

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「ひさし」への避難は正解だったのか

児童と教師合わせて11人がケガをした北区滝野川第三小学校の火災。発生から約2週間後、火災は、女性教員が私物のストーブを持ち込み、洗濯物を乾かしていたことが原因だと明らかになった。言語道断の出火原因はさておき、この火災は別の深刻な問題を浮き彫りにした。

火災の際、教師らが児童たちを避難させようとしたとき、すでに廊下には煙が充満し、1階につながる階段の防火シャッターは閉まっていたため、袋の中を滑って地上に逃げる「救助袋」の使用を試みたが、うまく使えなかったという。そのため、児童を一人ずつ抱えて窓から幅数十センチのひさしの上に避難させるという危険なことに。

果たして、ほかに避難する方法はなかったのか。

「防火シャッターが閉まっていても、その横には避難用のドアがあるので、そこから出ていけたはずです。しかし、廊下に煙が立ち込めて、まったく先が見えない状態だったら、ひさしへの避難は、やむを得ない選択だったと思います」

こう語るのは東京消防庁のOBで、現在防災アドバイザーとして活動している加藤孝一氏。加藤氏によると、もっとも望ましい対処は、まず消火器で消火を試み、それで消すことができなかったら、屋内消火栓で消火。その間に防火シャッターの横の避難扉から避難することだという。

なぜ、そうできなかったのか。

「教員が火元の音楽準備室へ入って消火器で消火しようとしたということですが、このとき扉を大きく開けると新鮮な空気が入るため、より火の勢いを増してしまった可能性があります。できればドアは細めに開けたほうがいいのですが、それは慣れていないと難しいかもしれません」

消火を諦めたとき、音楽準備室のドアを閉めれば室内の酸素が不足して燃え広がるスピードは遅くなるが、ドアを開けっぱなしにしておくと、新鮮な空気がどんどん供給されて火勢はおさまらないのだとか。

使えない? 学校の救助袋と消火栓

東京都の場合、小学校での避難訓練は1年に11回以上行うことが定められている。夏休みを除いて毎月行うわけだ。どのような訓練をするかは学校に任されていて、

「大半は鼻と口にハンカチを当てて避難する。中には消火器の使い方を練習する学校もあるというぐらいでしょう」

防火シャッターを下ろすには専門業者の立ち会いが必要なので、防火シャッターを下ろさない学校も多く、避難扉がどこについているのか、どうやって開けるのか知らない教師もいるのではないかと加藤氏は言う。

「消火器の横には、たいてい屋内消火栓が設備されていますが、実際にそれを使った訓練はほとんど行われていないでしょう」

滝野川第三小学校の火災時には救助袋を使おうと試みたようだが、

「斜降式救助袋を使うときは、上に2人、下にも2人、合計4人必要です。設置するにしても最低5〜6分かかる。火の手が上がっているときに設置する余裕があるかどうか……」

救助袋には斜降式と垂直式があり、中学校や高校では地上での固定が不要で、スペースをとらない垂直式を設置しているところも多いようだが、小学校では斜降式が主流だという。

屋内消火栓も救助袋も、業者によって定期点検が行われる。

「そのとき立ち会って使い方などを覚えるといいと思います。設備がそろっていても、使えなければ何にもなりません。消火器や屋内消火栓、救助袋や防火シャッターなどは反復練習していなければ、なかなか使いこなせないと思います」

どこにどのような設備があるのか知っておくことも大事。加藤氏がすすめるのは、教職員が定期的に校内を回り、防火シャッターや防火扉の状況、消火器や屋内消火栓、救助袋の設置位置を確認する校内オリエンテーションだ。

ハンカチ避難訓練の落とし穴

どうやらハンカチを鼻と口に当てて逃げる訓練だけではダメらしい。

「そのときの姿勢も大事です。火災の煙は熱せられて天井面から垂れこめてきます。廊下に煙が充満しているときでも視線を床面すれすれから廊下の先を覗き込むようにすると、床面近く、60〜70cmの位置には新鮮な空気が残されていることがあります。

訓練するときは、60〜70cmのところにテープを貼り、テープから頭が出ないように、低い姿勢になって、壁に手をつきながら進むという避難方法を実践することをおすすめします」

火事のときの煙は熱い! それを避難訓練のとき体験しておくことも重要だと思うが、

「学校で煙を出すのは難しい。都内には本所、池袋、立川に防災館があり、そこでは煙体験もできます。また、しながわ防災体験館、東京都北区防災センターのように市や区が独自に防災訓練施設を持っている場合もあるので、利用をおすすめします」

学校で火災が発生する場所として考えられているのは、給食室、理科室、家庭科室など火を扱うところだ。けれど、滝野川第三小学校では音楽準備室という火の気のないところで火災が発生した。

「今回の火災の教訓として、火の気のない場所でも火災は発生することがわかりました。また、避難訓練は、教師がいることを前提に行われますが、休み時間など教師のいないとき火災が発生することも考えられる。児童だけのときにどうやって行動すべきかも、その段階に応じて訓練する必要があります」

ワンパターンの訓練では、実際の火災では役に立たない。滝野川第三小学校の火災は、それを教えてくれたのではないだろうか。

▼加藤孝一 防災アドバイザー。消防防災事情研究家。災害エッセイスト。東京消防庁在職中、消防署の副署長、警防課長、予防課長の立場で各部門の責任者を歴任。特に予防行政や防災関係の業務が長く、消防隊員、隊長としての活動の他、火災の調査業務なども担当。  勤務のかたわら筑波大学大学院で災害心理学や惨事ストレスなどについて調査研究し、1996年にはアメリカで開催された惨事ストレスのワークショップに日本の消防官として初めて招待され参加した。著書に『消防心理学トピックス』『災害エッセイ ある消防官の見聞録』(いずれも近代消防社)など。

取材・文:中川いづみ