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 ドジャースの山本由伸投手(27)はメジャー屈指の投手への階段を着実に上っている。だが、オリックス時代から約10年にわたり成長を見守ってきたトレーナーの矢田修氏(67)は、右腕の進化はまだ途上だと見る。山本の体づくりの考え方とは何か。そして、その先に見据える未来とは。長年にわたり山本を支えている“矢田先生”に聞いた。(取材・構成=柳原 直之)

 出会いは山本のプロ1年目だった。地元の野球専門スポーツ店関係者の紹介で矢田氏を訪ねた山本は「肘がすぐ疲れる。先発ローテーションを守れる投手になりたい」と相談した。その後メジャーへの思いを強めた山本に対し、矢田氏は「その世界を変えるぐらいの意欲がないと無理だ」と伝えた。山本は「変えていきたいと思います」と答えたという。

 以来、二人三脚の日々が続く。現在も矢田氏は春季キャンプやポストシーズンには現地入りし、レギュラーシーズン中も月1回ほど本拠地での試合に合わせて渡米。山本の状態を見守り続けている。

 ただ、頻繁に連絡を取り合うわけではない。「たまにLINEが来ることはありますが、ほぼないです。向こう(米国)に行っている間に完結して、次に来るまでにこれをしておいてねと言えば、それをやっています」。グラウンドで見るのもフォームの細かな形ではない。「細かい足の上げ方や肘の使い方ではなく、この一瞬もそこに向かっての流れが滞っていないかどうか」。矢田氏が重視するのは「流れ」だ。

 立つ、歩く、走る。その延長線上に投球があるという考え方。象徴が、山本が長年続けるやり投げを応用した「フレーチャ」を用いた練習、ブリッジ、肩車などのBC(Bio Cell)エクササイズだ。フレーチャでは開脚して、ステップを踏んで、ジャンプをするようになど複数の動きで投げ、重さや大きさの異なるボールも使い分ける。

 目的は筋力強化ではない。「山本くんはフレーチャを投げながら瞑想(めいそう)しているんです」。体のどこに違和感があるのか。流れは滞っていないか。その日の体の状態を確認する作業でもあるという。肩車も重さに耐えるためではない。乗る側と支える側が互いの重心を感じながら動く。「理屈で言うと、山本くんに僕の(体重)60キロを足した重力をつくることによって、周りの空間の重力を変えるためにやるんです。力むとできないし、リラックスしすぎてもできない。集中してその中心を合わせていって、無駄なく僕の頭(重心)が山本くんの頭にならないとできない」。ブリッジも同様で、どこか一部分に頼るのではなく、全身が連動しているのかを確認する意味がある。

 当初は周囲から理解されなかった。山本も今年1月の都内でのイベントで「前例がなかったので、とにかく否定され続けてきた」と振り返った。それでもブレなかった。「一般的ではなかったけど、確信が持てたので、思い切り踏み込むことができた」と続けた。

 「メジャーへ行った時、彼はまだ蛹(さなぎ)でした」と矢田氏は当時を振り返る。その上で、現在地についてこう表現した。「今は蛹の背中がパカッと割れた状態です」。周囲からの評価は高まる一方だが、見方は変わらない。

 「まだ割れただけです」。矢田氏は完成形ではないと見ている。「あと2段階くらい超える必要があると思います」。その理由も独特だ。「もう彼の中で尻尾が見えているんです」。理想の姿は見えている。だからこそそこへ到達したくて仕方がない状態だという。

 昨秋のワールドシリーズ第6、第7戦で「中0日」で連投して連覇の立役者になった。矢田氏は、それを特別なこととは捉えていない。「先発投手が中4日で行ってくれと言われた時に、無理ですと言ったら先発投手ではないですよね」。無理して投げるという意味ではない。その状況に対応できるよう準備を続けることが大切だという考え方だ。

 結果以上に重視するものがある。「山本くんが投球に対してワクワクしているかどうか」。まだ道半ば。見据えるのは、その先に羽ばたく姿だ。

 【ドジャースが「一番理解ある球団」】矢田氏の理論に最も強い関心を示したのがドジャースだった。山本の移籍前にはド軍以外にも複数球団が話を聞きに来たという。共通していたのは「鍛えているのに、なぜこんなに故障者が出るのか」という疑問だった。

 中でもド軍は何度も足を運んだ。「自分をモデルにやってみてほしい、というようなことを言ってきたのはドジャースだけでした」。理論を聞くだけでなく、自ら体験していこうとしていた唯一の球団だった。「一番理解ある球団だった。だからドジャースは凄いと思う」。日本では前例がないと否定された取り組みを、メジャー屈指の名門球団は真剣に学ぼうとした。

 矢田氏はそうした環境も、山本の成長を後押ししていると見る。「知らないことを否定するのではなく、まず理解しようとしてくれるんです」。山本が重ねてきた取り組みは、今やチームの枠を超えて関心を集め、矢田氏もチーム内で「センセイ」と呼ばれて親しまれている。

 《ウエートトレに理解も》矢田氏は「ウエートトレを否定しているわけではない」と強調する。大谷についても「フィジカルが大事だと言っていますが、単一運動ばかりをしているわけではない」と説明。肩甲骨の柔軟性などを例に「大谷君は複合的な運動に負荷をかけている」と分析した。近年は“ウエート重視”の流れがあるが、「言葉だけを切り取ると意味が違って伝わる」と矢田氏。体づくりの方法は違っても、自らの体と向き合い続ける姿勢は共通していると見ている。

 《ベッツも弟子入り》今季は山本だけでなく、ベッツも矢田氏の指導を受けながらフレーチャや肩車を行っている。山本の加入当初から「なぜあれをやっているのか」と関心を持ったという。昨秋には山本を通じて話がしたいと連絡が入り、今春キャンプでフレーチャに初挑戦した。矢田氏は「ムーキー(ベッツ)が山本君に興味を持っただけだと思います。俺にもフレーチャを教えてくれ、と」と言い、山本もベッツの取り組みについて「いい感じだと思います」と話している。

 ◇矢田 修(やだ・おさむ)1959年(昭34)1月21日生まれ、香川県出身の67歳。80年に大阪市内で「矢田接骨院」を開業。88年に「キネティックフォーラム」を設立し、勉強会を通じ全国各地で治療家の指導にあたる。「フレーチャ」などの独自トレーニングは矢田氏が考案した「BCエクササイズ」の一つ。野球界ではDeNA・筒香、中日・高橋宏、日本ハム・北山らが師事し、卓球女子で12年ロンドン五輪団体銀メダリストの平野早矢香、ボクシングでWBC世界バンタム級1位の那須川天心ら多くのトップアスリートもサポートしている。