(※画像はイメージです/PIXTA)

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誰でも1回は経験したことがあるであろう「書き間違い」。幸い(さいわい)」が一画減るだけで「辛い(つらい)」になるように、ちょっとした書き間違いで、意味が真逆になってしまうこともあります。重要な書類では、その「ほんのちょっとのミス」が命取りになることも……。そこで本記事では、クイズ作家の近藤仁美氏による著書『世界を変えた「凡ミス」図鑑』(三笠書房)より一部を抜粋・再編集し、「コンマの書き間違い」が原因で、約200万ドルの損失を出してしまったエピソードをご紹介します。

アメリカ建国当初はお金がなく「関税」が経済を支えた

世界一の経済大国・アメリカは、建国当時あまりお金がなかった。

政治家たちは私財を国に突っ込んでなんとかしており、初期の大統領の幾人(いくにん)かは、持ち出しが多すぎて退任後に借金まみれになるほどだった。

そんな、ヤバめの経済を支えたのが「関税」だ。関税とは、ある場所を通過する物にかける税金のことで、国の財源になったり、自国の産業の保護に役立ったりする。比較的身近な例でいえば、海外旅行に行ったとき、免税店で買い物をすると通常より安い。あれは、品物を国に輸入するときの関税や、その国で使われる物やサービスにかかる消費税が課されていないからだ。

さて、建国まもない1700年代のアメリカでは、関税は基本的に財源目的だった。というか、国の収入のほとんどを関税に依存していた。

なお、現代の日本の歳入では、関税が占める割合は1%くらいである。開発途上国の場合、50%を超えることもあるが、昔のアメリカはそれよりも大幅に高い割合だった。関税一つとっても、生まれたてのアメリカの経済がいかにいびつだったかがよくわかる。

そんなアメリカでも、1800年代には産業保護目的での関税が目立ってきた。これは、国内の産業がそれなりに育ったので、関税によって輸入品の値段を高くすることで、自国の物品を守ろうとしたためだ。

コンマを間違えただけで…「200万ドル損失」まさかの大惨事

こうした状況にある1872年、事件は起きた。この年、アメリカ政府が関税法を改めた。一部の植物の関税を、国内での繁殖・栽培を目的とする場合だけ撤廃しようとしたのだが、その伝え方がまずかった。

本来意図していた内容は、これだ。

fruit-plants, tropical and semi-tropical for the purpose of propagation or cultivation.

日本語にすると、「繁殖または栽培の目的で、熱帯・亜熱帯の果実植物」なら関税なしで輸入できる、といったところ。しかし、実際にはこうなった。

fruit, plants tropical and semi-tropical for the purpose of propagation or cultivation.

よく見ると、序盤のハイフンがコンマに変わり、その分本来コンマがあるはずの場所からコンマが削除されている。日本語にすると「果物と、繁殖または栽培を目的とした熱帯・亜熱帯の植物」なら関税なしで輸入できる、といったかんじ。

これだと、すべての果物が関税なしで輸入できてしまう。ニヤリとしたのが、当時の果物輸入会社だ。

やったね! 果物が関税なしで輸入できる!

政府がミスに気づいたときには、もう遅かった。文章を直すまでの間に、約200万ドル(現在の日本円にして61億6,760万円ほど)の税収を逃してしまった。これはキツい……。

野菜か果物か?――トマトをめぐって珍裁判

ちなみに、同じく1800年代のアメリカでは、果物をめぐってちょっと変わった騒動が起きている。

トマトが野菜か果物かで、最高裁まで揉めた(揉めすぎ)。

ことの発端は、1883年の関税法の変更だ。当時、やはり国内産業の保護のため、輸入野菜に新たな関税をかけることになったのだが、果物であれば追加の関税がかからなかった。すると起こるのが、税金を払う側と集める側のバトルだ。

たとえば、ニューヨーク港では、ニックスさんの会社が輸入したトマトに対し、税関長ヘッデンさんが「トマトは野菜!」と課税した。一度は税金を納めたニックスさんだったが、どうにも納得できず、「トマトは果物!」と裁判を起こした。この事件は当事者の名をそのまま取って、「ニックス対ヘッデン事件」と呼ばれている。

どうでもいいことだが、この事件を思い出すたび、私の頭の中で幻(まぼろし)の小学生が「バナナはおやつに含まれますか!」と元気に挙手してくる。バナナはおやつ(略)の場合、子どもたちは遠足用のお菓子の予算が圧迫されるわけだが、トマトは野菜(略)の場合、ニックスさんは文字どおり売るほど輸入しているので、多額の関税が課せられてしまう。そういうわけで、至極真剣に議論せざるを得なかった。

ニックス対ヘッデン事件では、最終的にヘッデンさんの「トマトは野菜!」が認められた。トマトは植物の実ではあるが、一般的な食事では野菜として利用されるため、関税での捉え方も野菜とする、というわけだ。

ついでにこのとき、のちのち火種になりそうな、カボチャ・キュウリ・エンドウ豆なども野菜と決められた。こうした、ちまちまとした交通整理によって、貿易大国・アメリカの歴史が少しずつ刻まれていった。

さて、これで一件落着かと思いきや、「トマトは野菜!」は思わぬ形で現代に影響を及ぼしている。

たとえば、1980年代、アメリカで学校給食の予算を抑えることになった際、「ケチャップは野菜?」論争が巻き起こった。予算は減らしたいが、子どもたちに必要な栄養基準は維持したい。そこで、アメリカの役所が「卵やヨーグルトは肉扱いでOK、刻みピクルスやトマトペーストも野菜に含める」などの提言をしたのだが、これには国内から「ケチャップを野菜と呼ぶのは無理がある」「子どもへの栄養を軽視している」などの批判が出てしまった。

最終的に、役所からの提案のうち、調味料を野菜として扱う部分については撤回され、この問題の責任を取る形で、教育行政の責任者が解任された。

2011年に勃発した「ピザは野菜!」論争

また、2011年には、「ピザは野菜!」論争が勃発した。これも学校給食に絡む話だ。当時のファーストレディ・ミシェル・オバマは、子どもの栄養改善のため、給食でトマトペーストを「野菜」とみなす基準を、大さじ2杯から半カップに引き上げるなどしようとした。

これに慌てたのが、給食を卸(おろ)していた食品メーカーだ。基準が大さじ2杯なら、ピザにちょっと塗るだけで「野菜」ということにできるが、半カップも使わなければ「野菜」とみなされないなら、味つけ用のペーストはほぼ「野菜」としてカウントできなくなる。かといって、本物の野菜を増やせばいいかというと、そう簡単ではない。生野菜は輸送や保存に金がかかる。コストが上がるじゃないか!

この事例では、最終的にメーカーが議会に働きかけ、旧基準が維持されることとなった。つまり、大さじ2杯のトマトペーストを使ったピザは「野菜」メニュー扱いだ。それでいいのか?

■明日からの教訓

コンマのミスは、命取り

近藤 仁美
クイズ作家