老人ホームには入りたくない…年金月17万円・ひとり暮らしの80歳男性、介護施設への入居を拒否→後日、55歳娘が提案した“新たな暮らし”【社会福祉士FPが「高齢者向けシェアハウス」の特徴を解説】
高齢の親がひとり暮らしをしている場合、離れて暮らす子どもとしては「高齢者のひとり暮らしは不安」「誰かの目がある施設に入ってもらいたい」などと考える人もいるのではないでしょうか。ただ、当の本人は「介護はまだ必要ない」と反発するケースも少なくないようです。老人ホームへの入居を拒否する父親とその娘の事例をもとに、社会福祉士FPの武田拓也氏が「高齢者向けシェアハウス」の特徴と注意点を解説します。
ひとり暮らしの80歳父を心配する2人の娘
ヤスオさん(仮名・80歳)は、地方の戸建てで1人暮らしをしています。年金は月17万円程度で、贅沢はできないものの、日常生活に問題はありません。
しかし、数年前に妻を亡くしてから、どこか張り合いを失ったように見える父のことを、長女のヒロミさん(仮名・55歳)はずっと気にかけていました。電話口では「元気だ」「問題ない」とは言うものの、実家に様子を見に行くと食事はスーパーやコンビニで買った簡単なもので済ませ、あまり外出もしていない様子です。
心配になったヒロミさんは、3歳年下の妹に相談。2人は話し合い、将来を見据えて介護サービスが整った介護施設への入居を提案しました。
しかし、父は想像以上に反発します。
「老人ホームなんて入りたくない。まだまだ俺は元気なんだから、若いもんの世話にはならん」
父にとっては、“介護施設(老人ホーム)=自由を奪われる場所”というイメージが強いようです。
姉妹は困り果ててしまいました。父の気持ちを無視して無理に入居を勧めることはできませんが、父ももう80歳、いつ病気やケガをするかわかりません。とはいえ、2人とも結婚してそれぞれの家があり、父との同居は難しい状況です。
長女が見つけた“新たな選択肢”
そんなある日、ヒロミさんはテレビの情報番組で「高齢者向けシェアハウス」の存在を知りました。
高齢者向けシェアハウスでは住人同士が一緒に食事をとることから、父の孤立を防いでくれそうです。
「ここなら住んでくれるかも」
さっそく妹に相談したところ、賛成してくれました。そこでヒロミさんは、改めて父に提案します。
「高齢者向けシェアハウス」の特徴
「高齢者向けシェアハウス」とは一般的に、複数人の単身世帯の高齢者が共同生活を送る住まいです。プライベートな個室と食堂やリビングなどの共用スペースが用意されています。一般的な介護施設や有料老人ホームとは異なり、主な入居対象は自立している高齢者です。
介護サービスは原則として提供されず、あっても見守り程度にとどまります。そのため、生活の自由度が高く、入居の心理的ハードルが低い点が大きな特徴です。「まだ施設に入るほどではないけれど、ひとり暮らしは少し不安」という層に選ばれています。
他の高齢者施設との違いは、下記のとおりです。
■介護付き有料老人ホーム
常時介護スタッフが常駐し、手厚い介護が受けられ看取りも可能。その反面、費用は高め。
■サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)
日中はスタッフが常駐し、生活の自由度はあるものの、介護サービスを利用すると費用が増えやすい面も。さらに、介護度が重度化すると退所せざるを得ないケースがある。
こうした施設と比べると、高齢者向けシェアハウスは「住居」としての性格がより強く、自立した生活を続けたい人向けの選択肢といえるでしょう。
また、主な入居時費用は下記のとおりです。
■敷金や保証金……0〜30万円程度
■月額費用
・家賃……4〜8万円
・共益費・管理費……1〜3万円
・食費(任意)……3〜5万円
合計……8〜16万円程度
今回のケースでいえば、ヤスオさんは月17万円ほどの年金収入があるため、高齢者向けシェアハウスを利用しても家計的に無理のない範囲といえます。
メリット・デメリット
高齢者向けシェアハウスのメリットは、「施設に入る」という抵抗感が少ない点です。一般的な住宅に近い雰囲気で、同世代との交流も自然に生まれやすく、孤独感の軽減につながります。また、費用も比較的抑えられ、外出や生活リズムを自分で決められる自由さもポイントです。
一方、共用スペースなどで住人と顔を合わせることから、共同生活が合わない人には向きません。また、介護が必要になった場合は別の施設への住み替えが必要になるケースが多いことや、専門スタッフが常駐しているわけではないため、医療・介護面のリスクはデメリットでしょう。
本人も家族も納得できる“終の棲家”の選び方
高齢期の住まい選びで大切なのは、「介護が必要かどうか」だけで判断しないことです。本人がどう生きたいのか、どんな暮らしに安心感を持てるのか……こうした価値観を尊重することが、決断後の後悔を防ぎます。
したがって、“終の棲家”を検討する際には、本人の現在の健康状態だけでなく、将来介護が必要になった場合の住み替え先や年金収入と支出のバランス、入居後にどれだけ貯蓄が残るかといった家計面の整理も重要です。
特に注意したいのは、「入居時費用+月額費用」を年金だけで賄えるかどうかです。もし不足が見込まれる場合は、貯蓄をどの程度取り崩すのか、いまの住まいをどう扱うのかといった点も含めて検討する必要があります。
また、「介護施設か自宅か」という2択にとらわれず、今回紹介したようなさまざまな住まいの形を知っておくことで、より納得のいく選択ができるでしょう。
ただし、高齢者向けシェアハウスは、元気なうちだからこそ検討できる住まいの選択肢です。ヤスオさんが「まだ元気」と言っているいまこそ、落ち着いて将来の暮らしについて話し合える貴重なタイミングでもあります。
住み替えの可能性や他の選択肢も含め、家族で早めに話し合い、納得できる暮らし方を考えていきましょう。
武田 拓也
株式会社FAMORE
代表取締役
