ドナルド・トランプ大統領の公式Xより

写真拡大 (全2枚)

昨年11月、高市早苗総理の台湾に関する、ごく真っ当な国会発言に、日本の一部メディアが反応し、続いて中国政府が反応した。中国の反応は異常とも思えるもので、台湾周辺での軍事演習までやる事になった。

新年が明けると、今度はトランプ政権のベネズエラへの武力行使によるマドゥロ大統領夫妻の拘束・米国移送である。そして、来月には2022年2月24日に始まったロシアによるウクライナへの侵攻が丸4年を迎える。

この国連安全保障理事会の常任理事国3カ国による軍事行動を、3つのモデルケースとして考えると、我が国にとって重要な示唆を与えてくれる。

軍事力行使のモデル3ケース

今回の3つのケースは、軍事力の典型的な使い方を示している。

1.中国のケース
軍事力による示威、威嚇であるが、他国への直接の軍事力行使には至っていない。政治、外交、経済力行使等とともに行う軍事力の使い方である。

2.米国トランプ政権のケース
比較的に小規模ではあるが、奇襲的に軍事力を、実際に他国の領土内で行使。今回の場合、相手国国家元首の拘束と米国への移送という任務を遂行したものである。

3.ロシアのプーチン大統領のケース
全面的に大規模な軍事力を動員し、国家をあげて行う、まさに戦争という形で軍事力を行使している。ただし、未だ目的の達成には至っていない。

3つのケースは、概ね軍事力行使の前段階、初期または限定行使および本格投入の典型的モデルと考えられる。もちろん、これらのケース間には、さらに段階があると考えられるが、ここで注目するのは、実際の軍事力行使を決断する段階、すなわち2、3のケースについてである。

何がトランプ大統領に武力行使を決断させたか

今回、トランプ大統領の思惑は色々取り沙汰されている。しかし、実際に武力行使を決断した根本的な理由は、このミッションが「犠牲者0か、または軽微な損害で、ほぼ100%成功する」確信があったからと思われる。

ミッションが失敗に終わる、または多くの犠牲者を伴う可能性が高ければ、決して決断はしていない。

具体的に言えば、ミッションが成功したとしても数十人規模の犠牲者が出ることが予想されれば、決断しなかったであろうと考えられる。米国の若者の命と、マドゥロ大統領夫妻の命の交換となり、これを決断するだろうかということになる。私はトランプ大統領といえども決断しなかったと思う。

全般情勢はもちろん、特にベネズエラの対空防御網、大統領周辺の警備体制、軍・警察等の即応体制等、ほぼ100%抑えることができ、犠牲・損害が殆どなく任務達成が可能と判断されたから、実行を決断できたのである。

具体的にいえば、今回の作戦の中核はヘリコプターによる進攻と大統領確保である。その中心はCH-47輸送ヘリであると考えられる。公開された動画では、2機のCH-47と、それを援護・支援する10機前後のUH-60などとみられるヘリが一団をなしている。突入人員は80~100名程度とみられる。

もちろん二段、三段の仕掛けはあるだろうが、中心はCH-47搭乗の兵員と考えられる。もし、このCH-47の1機が撃墜される可能性があれば、40名程度の米国人の命と、マドゥロ大統領夫妻の命との交換となる。これを決断するだろうかと言うことである。

「抑止力」を学ぶ

トランプ政権が行った軍事力行使について、各種の論評がなされている。国連でも各国それぞれの立場で対応している。しかしながら、このように一旦軍事作戦が成功してしまうと、原状回復は、ほぼ不可能である。ましてや相手が軍事力、経済力ともに他国に抜きん出て世界一の米国であればなおさらである。そのことはトランプ大統領は十分計算済みであろう。もはや誰もトランプ大統領の意思を阻むことはできない。冷厳な国家間力学の現実である。

では、現在言われているように、トランプ政権が、コロンビア、グリーンランドなどに対して、空爆等は別として、今回のような地上作戦がメーンの軍事行動を行うかというと、可能性はかなり低いと考える。

何故であろう。今回の任務は奇襲作戦である。いきなり平時に、これだけの(少数)勢力で他国の領土に侵入し、国家元首を拘束することに成功した。この行動により、対象となりそうな各国当事者は身構えることになる。また、通常でも厳しい態勢をとっている場合でも、より厳しくするであろう。

米国は全情報機関、陸・海・空軍等、全軍の集中力を発揮して、突入した特殊部隊を支援したものと考えられるが、奇襲であり、べネズエラ側に油断やスキがあったことも多分に想像できる。もし、守備側が厳しい体制で臨めば、相当の犠牲、損耗を強いられる。任務達成の可能性も下がっていたことであろう。このように増大するリスクを冒してまで、軍事力行使による目的達成を決断せず、その他の方法を模索するものと思われる。

また、今回のトランプ政権の行動により、習近平政権が台湾の頼清徳総統に対して、同様の行動をする口実を与えたという意見もあるが、中国が台湾に対して今回と同様な武力による突然の拘束などを試みるとすれば、相当の犠牲を覚悟しなければできない。またはかなりの確率で失敗するであろうと予測できるので、中国政府は実行しないと思われる。

「抑止力」には、外交力、経済力など国家の総合的な力が関係する。しかし、最終的には、「軍事力(武力)」が絶対的な力として作用する、また、「軍事力」を代替する別の力は存在しない。

そこで、他国に対して力ずく(軍事力)で何かを強行しようとしても、得られるもの・効果に見合わない損害をもたらされることが予想される場合、軍事力行使の意思決定ができない、しないことになる。

軍事力を行使しようとする相手に対してさまざまな準備をし、相手に思い止まらせることが「抑止力」であり、その中核をなすパワーが軍事力である。

トランプ大統領の公式インスタグラムより

世界秩序の大変更に備える

今回のトランプ政権の軍事作戦によるべネズエラのマドゥロ大統領夫妻拘束・移送決行は、これまでのいわゆる「国際法」からは、著しく逸脱していると考えられる。国際秩序の守り手であるべき国連の安全保障理事会常任理事国である米国の今回の行動は、これまでの国際関係の常識(良識?)とは全く違うものである。しかも、トランプ政権は今回の行動を「成果」として活用し、米国の国益追求を「問答無用」で遂行しようとする姿勢を示している。

中国は経済的な発展を基盤として、軍事、政治、外交など多方面で「サラミ作戦」といわれる、長期間をかけて徐々に国家意思の拡張政策を実現させることを続けてきている。

ロシアは2022年のウクライナ侵攻により、明確に国際法違反をしながらも、国家意思を強行する姿勢を崩していない。また、中国、インド、北朝鮮などの国々は、陰に陽にこのロシアを支え続けている。

そのような中、米国のトランプ政権が今回の軍事力行使に踏み切った。表向き、麻薬撲滅を掲げているが、石油利権などの思惑も隠そうとしていないばかりか、今後もあらゆる局面での軍事力行使をにおわせている。

国連加盟諸国の中で、軍事力、経済力の最上位を占める国がそろって、これまでの国際的規範にそぐわない行動に出ているのが現実である。世界秩序は確実に大変更されようとしている。

一方、我が国の国防・安全保障の基本は、「日米基軸、国連重視」である。2026年現在、同盟国である米国と国連が従来の常識的対応では対処不能の状態になろうとしている。高市政権になってから、自衛官出身者を補佐官に迎え、我が国の国防・安全保障体制を根本から見直す姿勢を見せてはいる。しかしながら、記者団とのオフレコ懇談での「核保有」についての発言をめぐって、物議をかもしているのが現状である。

世界情勢は過去の常識とは全く違う方向に向かう可能性が大である。そのような時に、国内事情にかかわっている状態ではなく、軍事、核、情報(スパイ)、同盟、国際機関、政策、法律、組織などなどについて、こだわりやタブーなしに議論し、国民意識の覚醒を図っていく必要がある。

文/島本順光 内外タイムス